さすらいの天才不良文学中年

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  続　落語の深い謎（前篇）

  続　落語の深い謎（前篇）　おいらの落語道の師匠である笑角亭朝生師匠（柴田朝生氏）は「蕎麦通（つう）」である。　その師匠がこれはと目をお付けになられた蕎麦屋においらも同席させていただくのである（上の写真は先月訪れた「越後へぎそば桂屋」（中野区新中野）。有名人の色紙がぎっしり）。　本来ならば弟子のおいらが月謝を払わなければならないのだが、いつも師匠からご馳走していただき、毎回、師匠の蘊蓄と名座談、それに名物を味わうことができるので弟子冥利に尽きている（師匠、いつもありがとうございます）。　さて、先月、このブログで「落語の深い謎」について述べた。落語の続編である「おあと」のことである。　師匠の落語愛がさく裂した「おあと」であり、おいらは落語の続きを考えるという愉しみを師匠からご教示いただいたのである。　実は、上記蕎麦屋でこの「おあと」について師匠から詳しくお聴きすることができたのである。今回は、そのことから書く。　師匠の宣われる「おあと」である。　落語の前置きは自由であり、このため前置きは「まくら」として自由奔放なものが多い。　これに対し、落語には続編がなく、落語のラストはサゲで高座を降りるか「おあとがよろしいようで」「お目当ての出番でございます」と座を期待させて降りるかの二通りしかない。つまり、落語の後に続きを述べるのは愚の骨頂とされている。　しかし、続編がないことが本当に美学なのだろうか。続編の「おあと」が万一、本編同様に面白い出来映えとなれば、それはそれでよいのではないか。　そこで師匠のお考えを聞いたのである。　すると、師匠は、「『おあと』を続ける場合、本編でのくすぐりや落語的な言葉のやりとりを使うことが多くなりがちである。したがって、この『おあと』を本編に加えると、二度同じくすぐりが出ることになりかえってしらけてしまうことになる。　だから、『おあと』はそれがいかに優れていようとも本編にはなりえない『小噺』というべきものであり、新作落語とも異なる『自分なりの落とし噺』であろう。言葉を変えれば、『座興』でもある」とされたのである。　なるほど、プロの落語家が落語の本編に一部自分なりの解釈を取り入れたり、言葉を改善したりすることはあるが、「おあと」をやっていないというのはそういうことなのだ。　本編に留める、というのは、歴代の落語家たちが練に煉った結果の最高の産物と位置づけているからに他ならない。　そうか、「おあと」とは良質のお座敷芸なのだ。そう思うと、いい酒といい蕎麦といい芸妓が傍にいて、「おあと」という座興を愉しむことを想像することは至極の時間でもある（この項続く）。

  August 30, 2023

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  甲斐荘楠音（かいのしょう ただおと）の怪しい絵（後篇）

  甲斐荘楠音（かいのしょう ただおと）の怪しい絵（後篇）　甲斐荘楠音（明治27年（1894年）～昭和53年（1978年）、享年８３歳）は、京都の洛中に生まれる（写真）。　生粋の京都人で、対談を読むときれいな京都弁である。　歌舞伎好きで、市内の美術学校で日本画を学び、併せて、ダビンチやミケランジエロにも傾倒した。だから、歌舞伎と日本画と洋画が合体した画風であり、基礎であるデッサンもしっかりしている（下は、生涯未完であった、代表作でもある「畜生塚」と「七姸」）。　甲斐荘の絵は、その若き日に先輩画家の村上華岳から高く評価され、同時代の岡本神草と人気を二分することになる（下は、岡本神草「口紅」）。　紙面の都合上、岡本神草には深入りしないが、甲斐荘に匹敵する「怪しい絵」である。しかし、岡本神草は一線を超えないのである。そこが、甲斐荘と異なり、岡本神草の惜しいところである。　では、甲斐荘の一生を通じた絵への信念とは何だったのだろうか。　それは、「穢（きたな）い絵事件」まで遡る必要がある（下は「島原の女））。　土田麦僊（つちだ ばくせん（1887～1936）。洋行し、やまと絵や四条派の技法のうえに西欧の近代絵画から学んだ技法を加えた。帝展審査員など官展で活躍。フランスのレジオン・ドヌール勲章受章。ま、表世界の画家だわな）が大正15年（1926年）甲斐荘の絵を穢い絵として排斥（第５回国展に出品した作品を展示から除外）するのである。甲斐荘３２歳のときである。　絵とは、要するに、画家の心をキャンパスに表したものである。自分の魂を信ずるところにより表現したものである。　甲斐荘は、「絵を描く事の本元は女を書く事だと信じてました」（「女人賛歌」栗田勇、昭和62年、新潮社、93頁）として、自分の求める女性像を描こうとしたのである。それを穢い絵とされたのだから、甲斐荘と土田は天敵となる。　そして、甲斐荘は生涯を通じて自分の信念を貫くことを決意するのである。だから、甲斐荘の絵は筋金入りである。観たものを戦慄させるのである（下は「舞ふ」）。　ところで、甲斐荘の絵を観ておいらが気付いたことを書く。　それは、甲斐荘の描く女性の口許である。いずれもが、少しだけ微笑しているように観える。ダビンチのモナリザの口許ではないか（下は「幻覚(踊る女)」）。　甲斐荘は現在で云うLGBTのようだが、生涯一度だけ結婚したいと思った女性がいる（徳子さん。写真下。徳子さんは彼の絵のモデルになっているが、結局は結婚できず。理由に諸説あり）。　徳子さんもモナリザ・スマイルである。　してみると、ダビンチのモナリザも怪しい絵であるのか…。　いずれにしても、甲斐荘にこうして光が当たることは嬉しい限りである（この項終わり）

  August 28, 2023

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  甲斐荘楠音（かいのしょう ただおと）の怪しい絵（前篇）

  甲斐荘楠音（かいのしょう ただおと）の怪しい絵（前篇）「東京ステーションギャラリー展」で開催中の「甲斐荘楠音の全貌」がとうとう明後日の日曜日（８月２７日）で終わる。　このブログで取り上げたようにおいらは既に旧友のＴさんと先月鑑賞した。もっと早くこの甲斐荘楠音のことをカキコすべきであったが、飲み会や趣味の会合、そして旅行などに忙殺され、今日に至ったのである。　さて、これまで、おいらは怪しい日本画の代表である、甲斐荘楠音について、次の趣旨を書いた。　大正デカダンスの雄である甲斐荘楠音はグロを超えて、怖い。だが、大正デカダンスを「エログロナンセンス」と一言で評するわけにはいかない。　どういうことかと云うと、鎖国の時代にあった日本に明治期、全ての分野において西洋から科学知識や技術などが突然導入されるのである。　これは美術や文学の分野においても同様であり、我が国の文化や芸術は西洋に刺激されて新しく生まれ変わるのである。　その過程で西洋とは相容れない日本の土着的な文化が露わとなり、他方で大正という時代が生み出した、金満、刹那主義、退廃、妖艶、エロ、グロテスクなどのデカダンスが一気に華開くのである。　大正期という明治と昭和の架け橋となる時代は、人々の欲望や不安が社会に映し出された時代である。　この大正デカダンスは退廃的で妖艶が主流となったが、一部の芸術は怪しさを通り越すのである。いや、通り越すのではなく、怖いというレベルまでに達するのである（写真下は「甲斐庄楠音『春宵(花びら)』大正10（1921）年頃」）。　では、その怖さとは何か。　それは「やりすぎ」である。今まで考えたことがなかった、あるいは、考えてはいけないことまでを起こす世界である。　大正デカダンスの全てがそうだとは云わないが、少なくとも甲斐荘楠音は「一線を越えた」のである。　つまり、甲斐荘楠音は「想定外」を超え、おいらたちの心が壊れるまで「やりすぎる」のである。だから、怖いのである。だから、一流なのである。　それは言葉を換えれば、「美はバイオレンス＝狂気にあり」ということでもある。　余談ながら、美とは女性のこと（後篇参照）、広い意味で性的なものを包含するが、優れた芸術には性とバイオレンスが共存していると思うのである（この項続く）。

  August 25, 2023

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  結局、歯を抜くことに

  結局、歯を抜くことに「お盆に歯がズキズキ痛み、悶絶」の顛末である。　おいらは今週の月曜日、かかりつけの歯科医の門を叩いたのである（金・土は既報のとおり、大阪にいた）。　その結果、歯を抜くことになってしもうた。昨年６月にも抜歯しているので、ここ２年で奥歯を２本も抜いたことになる！　おいおい～！！　だが、歯を抜くことの「メリ・デメ」を歯科医と検討してのことなので、仕方がない。　痛んだ歯はもう元には戻れず（歯茎の上で浮かんだ状態であり、一種の脱臼状態）、その場しのぎの治療をしても再び同じことになるという。とほほ…　しかも、奥歯の根元で細菌が繁殖しており、その細菌感染が全身に拡がる恐れがないとは云えない。そう云えば、奥歯が上の場合、脳に近いので死に至る感染症には気を付けろと聴いた記憶がある。　だから、という分けでもないが、抜かないでいるメリットは事実上なく、抜くと諦めた。　麻酔をする。麻酔が効くのを待って、抜歯。　抜歯は１分もかからなかった。浮いているから簡単に抜けたのである。痛みは全くなし。ただし、抜かれるときにミシミシと妙な音がしたのにはマイッた。自分の歯が抜ける、というのは聴きたくない音じゃのぅ。　抜歯は簡単であったが、膿がたまっており、その清掃には時間がかかった。そして、縫うのである。その間、口から糸が出て唇に当たるのである。これもイヤな気分である。　だが、いずれも麻酔が効いているから痛みは全くない。　三日分の抗生物質をもらって、当日は特に安静にするよう云われ、おいらは帰路についたのである。　この原稿は火曜日（抜歯後、二日目）の深夜に書いているのだが、「痛み止め」は不要になるまで回復した。順調に回復しているようだ。　次回の診察は一週間後であり、抜糸の予定である。時間が薬である。　今回の抜歯で残った歯は２５本となった（若いときに１本欠歯している）。大切にするよう努めるしかない（因みに８０代で２０本以上の歯を残していれば一応安心というのが一つの目安のようだ）。　この歳になると、歯と眼と脚が大事と痛感する。しかし、車も１０年以上または１０万キロ乗れば全てのパーツにガタが来る。それと同じだ。こまめに手入れを続けるしかない。

  August 23, 2023

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  京都国立博物館

  京都国立博物館　今月２日、京都にも立ち寄った。「京都国立博物館」に行ってみたかったのである。　７０を超えた今、余生の時間が確実に目減りしている。健康寿命（平均７２歳）もとうとう今年一杯である。歩けなくなったら、旅行に行くのが困難になる。軽々にはもう行けないだろう。　京都のめぼしい場所はあらかた訪問しているが、宮廷建築家の片山東熊が設計した、煉瓦造平屋建てでフレンチ・ルネサンス様式の「京都国立博物館」（明治２８年竣工）をこの目で見ておきたいと思ったのである。　片山東熊は「京都国立博物館」のほかにも「赤坂離宮」、「奈良国立博物館本館」、「東京国立博物館表慶館」の設計に携わっている。　場所は、「三十三間堂」の隣である。「三十三間堂」には随分前に行ったが、そのときは時間足らずでここには来れなかった記憶がある。　入場券売場に行くと、７０歳以上はタダだという。老人に優しいのは、良いことである。　本館を目指す。この堂々たる景観だけで満足である。　残念なことに入館はできない、が仕方なかろう。　入館する。撮影は禁止。館内には平安時代から江戸時代にかけての京都の文化を中心とした国宝が約３０点、重要文化財が約２００点収蔵されている。　当日も国宝クラスの仏像などが展示されており、圧巻である。　京都に来たら、ここも外せない場所だと気づく。驚くことに観覧者には外人が多い。中国人が多数いる感じであった。日本人が国宝を観ないでどうするのだ。　インテリ風のアジア人に写真を撮ってもらう。　新幹線の乗車まで時間があまりないので、残りの時間を四条で過ごそうと思う。　京阪本線の「七条駅」まで歩く（炎天下なので日傘がいるが、雨傘しか持っていなかったのでほとんど役に立たない）。途中、路上でアイスを売っている。外人には珍しいのだろう。　そこから京阪本線で「祇園四条駅」まで行く。南座ではこういう看板が掛かっている。　藤山寛美もここで活躍していたのだろう。娘が頑張っている。　あわよくば舞妓さんに会えるかと思ったのだが、ここも観光客ばかりでごった返している。道が狭いから歩くのに苦労する。インバウンド需要が旺盛なのはよく分かった。　四条通りに面して「仲源寺（ちゅうげんじ）」がある。「目疾地蔵（めやみ地蔵）」である。おいらは目が悪いのでここでお参り。　祇園を通りながら八坂神社まで行く時間がないので、四条大橋から鴨川を眺める。この風情はいい。今も昔も変わらない。　四条大橋の麓で出雲の「おくに」の像に気づく。ここで名を馳せたのだ。　時間がないので、ここで京都を去った。久しぶりの京都は駆け足であった。

  August 21, 2023

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  急遽、大阪へ行くので本日はお休み

  急遽、大阪へ行くので本日はお休み　映画「ヘルメットワルツ」が本日１８日（金）まで大阪・十三(じゅうそう)の「シアターセブン」で上映されています（１６時５０分開演）。　思うところあり、それを観るために急遽大阪へ参ります。　この映画の予告編は、ネットで配信中。「ヘルメットワルツ」で検索！「ヘルメットワルツ」監督　西村洋介出演　佐々木和也、和田光沙、森羅万象、林和義、棚橋ナッツ、野田美弘、土平ドンペイ、田口トモロヲほか［２０２２年／日本／８９分］

  August 18, 2023

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  お盆に歯がズキズキ痛み、悶絶

  お盆に歯がズキズキ痛み、悶絶　災難は忘れたころに「一緒に」やってくる。　先週の金曜日の夜から右上の奥歯が少しずつ痛み始めたのである。正確に云うと、奥歯そのものより奥歯の根元である。　こういうことはままあることで、安静にすれば（歯の場合は、そっとしておけば、つまり、使わなければ）治るだろうと思っていた。　ところが、である。　翌日の土曜日、収まるどころか急激に「ズキズキ」状態になった。典型的な歯痛の症状である。患部は腫れていて、しかも３７度８分まで熱が出た。　奥歯の根元に病原菌が入り、それが原因で激痛になったのだろうと勝手に素人判断する。　歯科医院に行こうと思ったのだが、ここで大きな壁にぶち当たった。　そう、医院は全て「お盆休み」なのである。おいおい～！！　しかも、おいらの住んでいる地区の医院は木曜日定休なので、今週の木曜までがほとんどの歯科医が休診なのである。ヒエ～！！　これは、つまり、ほぼ一週間、歯科医がお休みで、おいらはその間、悶絶しなければならないんか～！！　だが、「捨てる神あれば、拾う神あり」である。「休日歯科診療制度」を思い出したのである。調べてみると「休日、祝日は営業」である。おいらは、痛み止めを飲みながら、翌日曜日の休日に治療してもらうことにしたのである。　診療してもらって、えがった～。　レントゲンを撮ってもらうと、予測どおり患部に膿がたまっている。先生は麻酔を打ち、切開手術をして膿をだし、とりあえずおいらの痛みは治まったのである。抗生物質と痛み止めを三日分もらっておいらは自宅に戻ったのである。やれやれ～。　ただし、根本治療ではないので、お盆明けにはかかりつけの歯科に行って、本格治療をしてもらうしかない。　ところが、ここにも問題があったのである。　お盆休みが長いのだ。しかも、お盆休みは祝日ではない。だから、休日診療には当たらないのである（これに対し、年末年始は休日診療が可能）。ヒエ～。　何が云いたいのか。結局、このブログを掲載している本日も歯科医はお盆休みである。おいらの歯は中途半端なままであり、未だに疼痛は続いているのである。トホホ～。　お盆休みに「一緒に」（つまり、お盆休みと同時に）病気になると、今の日本の医療体制はほとんど地獄である。　なぜなら、お盆が法的には休日ではないからである。しかし、このことを誰も云わないのが不思議である。　教訓。「日本では、お盆に病気になっては、絶対いけない」

  August 16, 2023

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  横尾忠則現代美術館（後篇）

  横尾忠則現代美術館（後篇）　ところで、「原郷の森」とは何だろう。　２階のメイン会場の入り口に説明書きがある。写真撮影が可なのだ。　それによれば、昨年３月に出版された「原郷の森（横尾忠則著、文藝春秋、２０２２年）」を絵画で表現しようという展示会である。　その「原郷の森」は、主人公であるYが美術、小説、映画など様々な分野で名を残した著名人たちと時空を超えて語り合うものである。　横尾が語る芸術論（人生論）は、先達に学ぶ芸術家としての、同時に、戦後日本文化の担い手かつ目撃者としての、さらには、西脇市に生まれ育った純朴な少年の記憶を保つ横尾の姿を浮き彫りにしている。　横尾がつづる言葉と描く絵が織りなす森のような展示室に分け入ると、半世紀以上の歳月をかけて形作られた横尾の芸術観が身に迫ってくる。　この展示会は、横尾の代表作となる美術展となるのではないか。そう思わざるをえない。　会場の内部である。いずれも横尾の代表作ばかりである（３枚目中央は、原節子）。　入館者がたまたまいない時間となったときに、係員にお願いしてスナップ写真を撮ってもらった。これは嬉しい。こういう機会はなかなかあるものではない。　３階に行く。ここの説明書き。　小ぶりな会場である。　ここでも撮影してもらう。　４階。このフロアは横尾氏所蔵の作品群が展示してある。　このフロアの展示室のみ撮影が不可。撮影できないのは残念だが、ダリ、キリコ、ウオーホルなどのリトグラフ（もちろん本物）が無造作に展示してある。　横尾氏はこれらの絵をどういう目的で、どういう経緯で入手し、そして、氏の作品にどういう影響を与えたのだろう。そう思いながら氏の収蔵作品を眺めるのはとても愉しい時間である。　さて、同じ階でありながら、一歩このフロアを横に進むと、乱歩の世界の鏡張りのような部屋に案内される。ここからは撮影可である。　眼下に観える景色である。横尾氏は新婚時代、この近辺に住んでいたのだ。６０年以上前のことである。　以上、見応えのあった美術展であった。変な話しだが、「ここに住んでみたい」。そう思わせる美術館である（この項終わり）。

  August 14, 2023

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  横尾忠則現代美術館（中篇）

  横尾忠則現代美術館（中篇）　大きな美術館が二つ横並びになっていて、正面に向かって右側が「横尾忠則現代美術館」、左側が「兵庫県立美術館王子分館（原田の森ギャラリー）」である。　横尾忠則の美術館ができたのは、２０１２年のことである。ことの発端は、同氏から兵庫県に対し、同氏の作品の寄贈や寄託の申出があったことである。２００７年のことであった。　要するに、（これはおいらの推測だが）１９３６年生まれの同氏が古希を迎え、自分の作品の散逸を恐れ、美術館に寄贈しようと思ったのではないか。　同氏は西脇市生まれだが、神戸新聞社勤務も経験しており、兵庫県立美術館なら両者がウインウインの関係となる。　兵庫県も偉かった。直ちに、「横尾忠則寄贈作品活用検討委員会」を発足させたのである。　その後、紆余曲折を経て、１９８２年竣工の兵庫県立美術館王子分館西館（村野藤吾設計）を改修し、２０１２年に「横尾忠則現代美術館」が開館する運びとなったのである。　こういう経緯を知っているのと知らないのでは、天と地との差があるなぁ。横尾忠則が力を入れて企画展を開催するはずである。実際、同氏は、開館後の展覧会の企画に５１の構想が湧き出たという。　同氏は、「年４回でも、終わるころには僕はもうこの世にいない。向こうから鑑賞するかもしれない」と発言している。　だから、今回の「原郷の森」展は通算３２回目の展示会となっている。　さて、「横尾忠則現代美術館」に入館である。　外界が熱地獄であるので、冷房の効いた同館に入ると同時に、あら、嬉しや、汗がすっと引く。　しかも、一階のフロアは広く、天井が高い。入館して左側のスペースにこじんまりとしたスーブニエ・コーナー（写真下）があるくらいで、ゆったりとした造りである。美術館や博物館はこうでなければならない。　受付で入場券を求め（入場料７００円。７０歳以上は半額）、２階から４階の展示室に向かう。２階がメインの提示である。嬉しいことに、写真撮影が許可されている。　おいらは、わくわくしながらエレベーターに向かった（この項続く）。

  August 11, 2023

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  横尾忠則現代美術館（前篇）

  横尾忠則現代美術館（前篇）　広島への帰省が終わり、帰路、神戸と京都を経由した。　今まで行くことのできなかった、横尾忠則現代美術館と京都国立博物館を訪問するためである。　まずは、新幹線で新神戸に立ち寄る。　なぜか新神戸から三宮までJRの在来線がないので、神戸市営地下鉄で三宮まで行く。新神戸の隣の駅である。　三宮は久し振りである。おいらが管理職のころ出張したのを覚えている。かれこれ３０年振りか。　こういう地図を観るのは愉しい。　広告も首都圏では観られないものばかりである。　横尾忠則現代美術館は阪急王子公園駅そばなので、大阪梅田行きの阪急電車に乗る。　午前中だが、神戸もひたすら暑い。乗客はまばらである。だあれも外に出たくはないのだ。　駅に到着。　しかし、暑い。持参していた折り畳み傘を開き、猛暑の中を差しながら歩く。日傘兼用ではないので、紫外線が容赦なく降り注ぐ。家内が日傘を用意してくれているのだが、重いので持参しなかったのが裏目に出た。　横尾忠則現代美術館は徒歩５分と聞いているのだが、５０分に思えるほどの距離であった。王子動物園の脇を通るのである。　見えてきた。　堂々たる美術館である（この項続く）。

  August 9, 2023

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  広島も暑かった

  広島も暑かった　首都圏も暑い日が続くが、広島も暑かった。　先週、無事、広島での墓参りが終了した。上の写真は市内紙屋町の市電。相変わらず市内は広電が頑張っているので、一安心。　さて、原爆ドームも広島のシンボルとして鎮座していた。　原爆を開発したオッペンハイマーのことがネットで賑わっているが、こうして被爆地の中心に立つと、人類は超えてはならない一線を簡単に超える愚かな存在だと思わずにはいられない。　誰の心にもオッペンハイマーがいるかも知れないからである。　そうだとすると、これはもう人間の「業」のようなものなのか。　俯瞰すると、人間というものは有史以来、もともと時限爆弾を内在しており、いずれ全てが無になるようにセットされているのではないか。　そうだとすると、原爆の誕生と今でも続くその存在は西洋史観（キリスト史観）に符合するようにも思える。かの史観によれば、この世はいずれ終焉するのである。　閑話休題。　盆になると、先祖が帰ってくる。　博識だった親父が戻ってきたら、このことについて聞いてみたいのぅ～。ひと昔前の世界観の親父だから、今だったら何と云うのだろう。　酒を飲みながら、「馬鹿たれ」と云うのだろうか。それとも、「あれから何十年経っても、まだ戦争をしてるんか」だろうか。　人間は、今もって愚かなままである。

  August 7, 2023

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  ポール・ジャクレー（後篇）

  ポール・ジャクレー（後篇）　ジャクレーの浮世絵が魅力的である理由を述べたい。　それは、ジャクレーの描く版画に３つの特徴があるからである。　一つ目はパリからやって来て、日本にいながら、毎年、ミクロネシアなどの南洋諸島や韓国、中国などへ旅行し現地の人々を描いているということである。エキゾチック以外の何物でもない。　普通なら日本に住んでいるのだから、日本各地を巡り、そこを描くだろう。ところが、南洋の島々の人々を描くのである。ジャクレーのポイントその１は、エキゾチックである。　続いて、描く対象である。絵の対象となる相手は、老若男女を問わない。版元は売れる版画を売りたい。だから、若い女性を描いて欲しい。しかし、ジャクレーはそんなことにはお構いなしである。年寄りを好んで描くのが二つ目のポイントである。　さらに、絵を描く基礎がしっかりしているのである。それは、ジャクレーの父親が高等商業学校附属外国語学校（現一橋大学）フランス語科のお抱え講師として来日したからである。高給取り、つまり、裕福だったのである。　このため、ジャクレーは幼少のころから日本語、書道、音楽、ダンスなどを習い、日本文化に親しむ。十代から一橋で父の同僚だった黒田清輝と久米桂一郎からデッサンと油絵を学び、さらには浮世絵の流れをくむ池田輝方と池田蕉園に師事し、日本画を習得した。これがジャクレーを知る三つ目のポイントである。　だから、ジャクレーは従来の浮世絵と同じ技法による伝統的木版画を制作しており、日本人の創る浮世絵と変わらない（１９３３年には自ら若礼（ジャクレー）版画研究所を設立して、彫師、摺師と共同生活をしながら木版画の制作を続けた）。ジャクレーの作品には、彫師、摺師の名前が一緒に記されている。　さて、ジャクレーの木版画は国内外の欧米人を主な顧客として頒布会形式で売られた。ジョージ６世、エリザベス２世、トルーマン、マッカーサー、チャーチル、グレタ・ガルボなどの蒼々たるメンバーがコレクターとなっている。　１９４５年の太平洋戦争後は軽井沢に疎開、戦後もこの地に留まり作画を続けた。　残念なことに、１９６０年に軽井沢で病没（享年６４歳）。 　こうしてみると、ジャクレーの持つ魅力の何たるかが分かるが、今回のジャクレー展でおいらが発見したことを書く。　ジャクレーの描く人物画が印象的なのは、等しく、その目である。ジャクレーの描く目は特徴的である。　例えて云えば、「京の五条の糸屋の娘　姉は十七、妹十五　諸国大名は弓矢で殺す　糸屋の娘は目で殺す」　ジャクレーも目で殺すのである。それほどジャクレーの描く目は鋭い。　そう気付くと、ジャクレー、只者ではない（この項終わり）。[お断りとお願い]　７月３０日（日）から墓参りで広島に帰省します。よって、恐れ入りますが、このブログは７月３１日（月）からの一週間、お休みをいただきます。再開は８月７日（月）からの予定です。どうぞよろしくお願いします。

  July 28, 2023

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  ポール・ジャクレー（前篇）

  ポール・ジャクレー（前篇）　先週も旧友のＴさんと呑んだ。甲斐荘楠音の美術展を一緒に観に行ったからである。　鑑賞後の吞みながらの話しである。おいらが浅川マキの話しを持ち出すと、Ｔさんとの話しが一気に盛り上がった。「地の底から出るような唄声がいい」　Ｔさんの浅川マキ評である。　おいらもそこに魅了されているのである。実は、おいらは浅川マキの隠れ大ファンなのである。それが、おいら同様Tさんも彼女の唄が好きだと知って嬉しくなってしまった。　閑話休題。　本日は、「ポール・ジャクレー展」のことを書く。　おいらは、「甲斐荘楠音展」を観る前に原宿で開催中の「ポール・ジャクレー展」（太田記念美術館。本日７月２６日まで開催）に出向いたのである。　遠方に隠れているので、都心に出ると交通費がバカにならない。場所にもよるが、小田急ロマンスカーに乗車でもすると往復３千円近くかかるのである。　だから、最近はイベントがあると、ダブルヘッダー（注）とするようになったのである。（注）ダブルヘッダー　死語である。おいらが二十代前半までのプロ野球は、日程の関係上、一日に二試合開催していた。二試合だから、ダブルヘッダーである（大リーグでも日程上、未だに稀にあるようだ）。　さて、「ポール・ジャクレー展」に行くのはこれが初めてではない。前回は、横浜美術館での「ポール・ジャクレー展」であった。かつて母が上京し、おいらがジャクレーを好きだったので、一緒に鑑賞したのである。　ではなぜポール・ジャクレー（Paul Jacoulet、1896年-1960年）なのか。　それは、彼がパリで生まれたフランス人でもあるにかかわらず３歳のときから日本で暮らし、死ぬまで日本で活躍した浮世絵師であるからである。　写真のように、間違えてフランス人に生まれたとしか思えない風貌である。そもそもジャクレーとは「若礼（じゃくれい）」の横文字である。　その彼の大表作のいくつかがこれらである。　では、なぜジャクレーの浮世絵が魅力的なのか（この項続く）。

  July 26, 2023

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  落語の深い謎（後編その２）

  落語の深い謎（後編その２）「落語のおあと」は、師匠の独壇場でもある。　後編その２、まずは、名作「芝浜」から。　おかみさんが一本つけてくれた酒を飲もうとして、亭主「よそう、また夢になるといけねえ」。ご存じ、芝浜のサゲの部分である。　しかし、師匠は二人がこのあと飲まずに済むであろうか、ととんでもないことをお考えになるのである。　おかみさんもいける口だし、魚勝も見事に通りへ店を持つまでになったのである。　亭主「では一杯位なら大丈夫だろう。大晦日だし、少し飲もうか」とお墨付きの一杯を飲む。だが、亭主はしばらく飲んでいなかったので直ぐに酔っ払って寝てしまう。　女房「今日はどんな夢を見ているかしら」　このサゲはいいよなぁ～。　続いて、妙に可笑しい「そば清（そばせい）」はどうだろう。　大蛇が人を飲んだ後、「蛇含草（じゃがんそう）」を舐めて腹が小さくなったのを信州で見た大食い清兵衛。　蕎麦屋に着くと、清兵衛は７０枚の蕎麦を食べると宣言。これまで３０枚を食った実績があるものの７０枚は無理だろうと賭けに乗る連中が続出。　多くの野次馬が見守る中、清兵衛は１０枚、２０枚と食べ始める。そして５０枚まできたところでさすがに苦しくなってしまった。ちょっと風に当たりたいと廊下に出て障子を閉めた。　その隙に、信州で取ってきた草を取り出し、ぺロペロと舐める清兵衛。　待っている連中は中々戻らない清兵衛を不審に思う。「野郎、逃げやがったんじゃないか？」その声で、一同勢いよく障子を開けると、そこには蕎麦が着物を着て座っていた（あの草は食べ物を消化する草ではなく、人間を消化する草だったのだ）。　普通はここで終わる「そば清」だが、これにも「おあと」がある。　この後は大変なことになる。まず家族を呼んでそばとなったなきがらを渡す。　葬式を出す。賭けをした連中は掛け金の何倍かの香典を包むはめとなる。　ここで、師匠のサゲである。「もりそばよりかけそばにしておけば賭けに勝ったかも」　ご存じ「目黒のさんま」はどうだろう。　ある大名、秋の野駆けで目黒に出かけると昼食を忘れ、農家で焼いたさんまを食し、その虜となる。さんまを食べたいと屋敷で命じたが、家臣が殿様の健康を気遣って新鮮なさんまから脂や骨を取り除き、蒸したりして出てくるので美味しくない。　殿様「これが余の申したさんまか？」　家臣「はい、日本橋魚河岸で求めてきた正真正銘の新鮮なさんまでございます」　殿さまはその言葉に落胆しながら言う。「う～む。魚河岸？ どおりで不味いわけだ。やっぱりさんまは目黒に限る」　ここで、師匠による「おあと」である。　この後、要職の三太夫が「さんまはゲスの魚屋敷から焼くにおいを発するので大名の沽券にかかわります。ご勘弁を」と大名のさんまは表に出るときだけの楽しみとなった。　目黒は河岸とはほど遠く、本来の場所ではない。　ところが、現在の目黒では、毎年秋に「目黒のさんま祭り（品川区主催）」と「目黒区民まつり（目黒区主催）」の二つのさんま祭りが目黒駅を挟んで開催され、それぞれ３万人、３万５千人の人出となる一大イベントとなっている。「目黒のさんま祭り」は毎年９月に開催され、岩手宮古市から新鮮なさんまが７千匹用意され、無料で配布される（すだち、大根おろし付き）。また、「目黒区民まつり」も毎年１０月に気仙沼からさんまを５千匹取り寄せ、しかも、大分のカボスを添えて提供するという目黒の秋の一大イベントとなっている。　ということで、師匠のサゲである。「やはりさんまは目黒に限るのぅ」　以上、師匠の「落語のおあと」を５編紹介した（１２編あるので、残りは第２部として後日掲載予定）。　とまれ、「落語のおあと」、いずれ劣らぬ力作揃いである。　これは、師匠が永年に渡ってお好きな落語を温められ、自家薬籠中のものとされたからだと思うのである。　言葉を変えて云えば、「落語のおあと」とは落語が師匠の中で醗酵し、その続きがどうしても聴きたいという「止むに止まれぬ」事情から師匠の頭の中に自然に出てきたマグマのようなものであろう。　それにしても、どの落語にも「続き」があり、その落語によっては続きを聴かざるを得ない落語があるというのは新発見である。しかも、その「おあと」が本編よりも面白いのである。これだから落語はヤメラレナイ（この項、一旦終わり）。

  July 24, 2023

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  落語の深い謎（後編その１）

  落語の深い謎（後編その１）　さて、ここからが師匠の本領発揮である。　師匠はこれを「落語のおあと」と述べられ、自分ならこの落語をこう終わらせると云われるのである。　前回述べたように、続きを聴いていたいと思う落語は１２編ある。その全てを紹介することはできないが、なるほどと唸るものから順にお披露目する。　まずは、「二番煎じ」である（師匠の最もお好きな落語の一つでもある）。　火の用心として町内の夜回りが役目を果たしているかどうか役人が見回りに来る。　旦那連中が「二つの斑に分けまして回っております」まではよかったのだが、土瓶だの鍋などを隠したのがバレて「煎じ薬」（お酒を偽っていた）をしこたま飲まれてしまう。　声をひそめて「月番さんこれじゃ全部飲まれちゃうよ…断っちゃいなさい、断っちゃいなさい」　そこで、お役人に「もう一滴もありません」「さようか。では、拙者ひと回り回ってくるあいだに二番を煎じておけ」というのが、「二番煎じ」のサゲである。　師匠がこの続きを考えられたのが何と数十年前のこと。その「おあと」が次のとおりである。「二番を煎じておけと云われた旦那衆は考えた。一滴もないと云った手前、残りの酒を煎じるわけにいかない。さりとて、家に取りに行くのはしゃくである。役人の機嫌を取っておけばなにかと都合が良いと衆議一決した。　そこで、『今晩は遅いのと既に火を落としてしまいましたので煎じることができません。次回に良い煎じ薬を仕入れましておきますが…』　役人も番小屋で飲んだことがバレるとまずいと思ったのか案外すんなりと『ではそういたそう。惣助さんとやら…次の勤番を●日と控えてくれ』　惣助『あんまりあたしの名前を出すもんだから覚えられちゃったじゃないか』『それもご愛嬌だと思いなよ』」　師匠宣う。「前回のゲストである吉川さんなら、役人は公務員法の収賄罪。旦那衆は贈賄罪のほかに夜回り掟違反の罪となろうか」。　師匠、もはや名人芸である。　続いて、「宿屋の富」である。　田舎から金算段に出てきた男うまくいかず、木賃宿でなけなしの一分を宿の亭主の内職の富くじに支払う。「当たったら半分やるよ」と言って椙ノ森神社へぶらり、買わされた「ねの１３６５番」が千両の大当たり。宿へ帰っても布団に入り震えている。　すると主人が「当たりましたよ。一杯やりましょう」といってふとんをまくると客は草履をはいて寝ていた…というサゲである。　さてこの師匠の「おあと」は？「主人は酒を注ぎながら『当たったら半分くださるとおっしゃったのでよろしく』と云うと、客は『そんな約束したっけ』とは云うものの宿屋の主人が買ってくれと云われたのが大当たりである。　話し合いの末、主人は２５０両貰うことで手を打った。　主人はその金で宿屋をリフォームしお客が増えたので使用人を雇って繁盛し、同時に富くじが千両当たったということから宿屋の一角を『富くじ売り場』とし、大繫盛するほどになった。　一方、田舎者は大金をもって自宅に帰ったのだが、金の使い方を知らない。そのままタンス預金とし、生涯日の目を見ることなく『猫に小判』　ゲストの吉川さんならどういう『おあと』になるか？『千両当たった男には所得税（現今は無税）、また、宿屋の主人は贈与税を支払うことになるでしょう』」　これも味のある「おあと」である。　さて、師匠の宣われる「おあと」である。要は、落語には必ず「続き」があり、その落語によっては続きを聴かざるを得ない落語があるというご宣託である。　しかも、その「おあと」が本編よりも面白い、というのがミソ、いや、必須であるということであろう。　だから、これは最早、新しい落語と云うこともできる（新作落語とは明確に異なる）。となると、プロの落語家がこの「おあと」をやっていないというのは不思議でもある（この項続く）。

  July 21, 2023

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  落語の深い謎（中編）

  落語の深い謎（中編）　師匠のお言葉は、あっと驚く大三元であった。「小生の場合は、ゲストのような学識のある発想には及ぶべくもありません。しかし、小生がこの落語の続きをお話しするとすれば、『普通なら熊さんは袋叩きに合うところを、先達さんが『みんな無事に帰ってきておケガなくておめでたい』と収める。　だから、熊さんを長屋から追い出すようなことはしない。　また、おかみさん連中も坊主頭のままというわけにはいかないし、熊さんの方もおかみさん連中を皆丸坊主にした負い目がある。そこで、出入りの髪結いに相談して鬘屋を頼んでかみさんたちに鬘を合わせる。　熊さんは鬘屋からいくらかせしめて酒代を捻出し、旦那連中の機嫌を和らげる、というように長屋の絆はおいそれとはくずれない』という結末を考えます」　つまり、S師匠はゲストがこの噺の続きを、「これは熊さんが信用棄損・偽計業務妨害にあたり３年以下の懲役または罰金刑です。判決は禁固１～２年の執行猶予付で、罰金は免れないでしょう！」として糾弾？されたのに対し、落語のオチの続きを本質的に考察されたのである。　ここに落語の謎がある。　どういうことかと云うと、落語には「どこで終わるべきか」という問題が本質的に内在されているのである。　師匠のお言葉を借りる。「元来、落語は噺家がどこでサゲようと演者がサゲところで『一席』が終わります。　特に『二番煎じ』は最高のサゲだと思います。お客は満足し、余韻をもって家路につきます。　小生の場合は余韻は余韻として気分をよくし、ところで、『役人が一回りまわってきたらなんとする？』が浮かんでくるのです。　この度、ゲストの話しを聞いて話しを暗くするような聞き方はいかがなものかと感じ、自分ならこの落語の続きをどうするかという、落語の持つ本質的な問題に迫ってみようと考えた次第です。　先のゲストは噺を暗くしましたが、小生は明るい方へ持っていくのを信条としています。　そこで、寄席で多く演じられることのある６０演目を聴き直してみました。その結果、落語の続きを聴いてみたいと思われるものはその内の二割（１２件）でありました。八割は後編が続かないもので、それが落語らしい由縁でもあります」　さすが師匠である。これは深い。　落語は「どこで終わるべきか」という問題を本質的に抱えており、終わり方によっては、続編をどうしても聴きたくなってしまうのである。これが落語の謎という所以である（この項続く）。

  July 19, 2023

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  【速報】ヘルメットワルツ、大阪で上映

  【速報】ヘルメットワルツ、大阪で上映　映画「ヘルメットワルツ」が４月上映の池袋に次いで、８月１２日（土）から１８日（金）まで大阪・十三(じゅうそう)の「シアターセブン」で上映が行われます（本日は休日（海の日）につき、「ヘルメットワルツ」の予告編です。「落語の深い謎」の続編は、水曜日から再開予定）。　昨年の１１月に自主映画「ヘルメットワルツ」（西村洋介監督。写真）が「第１４回日本映像グランプリ」の優秀作品賞に選ばれた。　このことは、すでにこのブログでもカキコしているが、「ヘルメットワルツ」はおいらの知己である映画評論家佐々木和也氏が製作・主演した自主映画である。　佐々木氏は、おいらと同じ広島出身（昭和３６年生れ）。横浜映専を卒業し、自主映画の製作や役者稼業などの傍らビデオ店の店長として一部の間ではそのするどい映画評論で名前が知られていた。　ストーリーは、主人公が国立競技場の建設現場で働きながらテレビや映画で端役稼業を続けているときに、自分のやりたいことをやり続けることの難しさとそれでもそれに挑戦し続けるという不屈の闘志の物語である。　時代はそれにコロナ禍の緊急事態宣言発令という難題をぶつけ、見応えのある内容となっている。　実際、この作品は「うえだ城下町映画祭　第２０回自主映画コンテスト」（過去には、大林宜彦などが審査員）でも受賞ノミネート作品になった。　なお、ラッシュ（映画編集）の段階でおいらも脚本の一部にアドバイスをしたことから、映画のエンディングロールの「協力」のトップに柚木惇の名前が出てくることも既にお知らせしたとおりである。　今回三度、この映画を紹介するのは、来る８月１２日（土）から１８日（金）まで大阪の「シアターセブン」で単館上映されることが決定したからである。　単館上映から全国に飛び火した名画も多数あり、この映画も皆さんに愛される作品として記憶に残るものとなって欲しいと思う。関西在住のお方には、ぜひともご覧いただきたい。「シアターセブン」は、阪急「十三駅」西改札口から徒歩５分。阪神を代表する単館系ミニシアターで、ドキュメンタリーから単館系まで様々な作品を上映。第七藝術劇場（６階）の階下にある（５階）（上下の写真は、「Movie Traveler」から転載させていただきました。謝々）。　なお、この映画の予告編は、ネットで配信中。「ヘルメットワルツ」で検索！「ヘルメットワルツ」監督　西村洋介出演　佐々木和也、和田光沙、森羅万象、林和義、棚橋ナッツ、野田美弘、土平ドンペイ、田口トモロヲほか［２０２２年／日本／８９分］

  July 17, 2023

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  落語の深い謎（前編）

  落語の深い謎（前編）　今月初めのことである。おいらの落語の師匠であるＳ氏から次のようなメール（以下、要旨）をいただいた（写真は、伊勢原市の大山）。「文化放送の長寿番組である『志の輔ラジオ落語でデート』の最近のゲストが『吉川ばんび』（司法書士）さんでした。　その日の一席は八代目分春風亭柳枝の『大山詣り』（注）であり、落語が終った後にゲストの感想を聞くのですが、その内容がユニークだったのでお伝えします。　実はそのときのゲストの話しをお聞きし、小生が落語に親しんできてから心の中に貯めてきたことに思い当たり、思わずほくそ笑んだ次第です。　そこで、ゲストが何と云ったかを想像してみてください」　まったく師匠はいつまで経っても弟子のおいらに無理難題を与えられるのである（だから、子弟なのである）。　おいらはこれに対し、次のように答えた。「これは難問ですねぇ。その答えは普遍的なものではなく、Ｓ師匠を含めた落語の通の思考パターンを考えなければいけないからです。　ただ、『大山詣り』は志ん生のCDを持っていますので、何度も聴いています。『大山詣り』と関係があるのか分かりませんが、小職の落語への考え方は、『手ぬぐいと扇子一つで時代と場所を自由に操り、庶民の夢を叶える笑いと涙の魔法であり、人間のどうしようもない業への諦めであり、ときには権威や権力へ挑戦する風刺劇』とでも云いませうか。　どういうユニークなお話しだったのでせう」　すると、師匠のＳ氏からは、あっと驚く内容の回答があったのである。「確かに難問でせう。貴殿のお答えは落語とはどのようなものか、落語の本質は何かと云った落語研究における優等生的お答えで談志師匠や圓楽師匠の言・著書などでもよく云われるものです。　しかし、ゲストからの感想は落語の本質からは離れたものでした。　ゲストは『これは熊さんが信用棄損・偽計業務妨害にあたり３年以下の懲役または罰金刑です。判決は禁固１～２年の執行猶予付で、罰金は免れないでしょう！』　これに対し、志の輔師匠は『ひぇ～、この番組は八百数十回やっていますが、あなたのような発想をされたのは初めてです！』といったものでした」　おいらも思う。こんなことを云うゲストに落語を聴く資格はない。いや、野暮というものである。　ただ、善意に解釈すれば、法律の持つ滑稽さをアピールしたということかも知れない。そこまで計算しての回答であれば、これはこれで回答自体が上質の洒落である。　では、ゲストの回答に対する師匠の感想はどうだったのであろうか。これがまた、あっと驚く大三元なのである！　落語の持つ謎への挑戦とでも云おうか（この項続く）。（注）『大山詣り』あらすじ　今年も、皆で大山詣りに行こうとの話しになったのだが、参加者の一人である熊五郎は毎年、酒に酔って皆に迷惑をかける問題児。　今年は掟を定めようという事になった。その掟とは「腹を立てた者からは二分の罰金を取り、喧嘩して暴れた者は皆で丸坊主にしてしまう」というもの。　この掟の効果があったのか、行きは何事もなく無事にすんだのだが、帰り道…。　宿屋に泊まったまでは良かったが、風呂場で酒に酔った熊が喧嘩をおっぱじめたという知らせが届いた。　急いで駆けつけると、熊に殴られた奴らが二分払うから熊を約束通り坊主にしてくれと言う。明日は江戸なのだからと何とかなだめてその場は収まったのだが、皆が寝静まったその夜。　熊に殴られた連中は、剃刀を持って熊の部屋に忍び込み酔いつぶれて寝ている熊を丸坊主にしてしまう。　翌朝の事。１８人分の膳が並んだが、昨日、熊を丸坊主にした連中が熊の膳を誤魔化した為、一行は熊五郎がいない事に気づかず出発してしまった。　そして熊五郎が目を覚ましたのは、皆が出発してから数刻後の事。　起きて、頭を触った熊は自分が坊主にされている事に気が付く。しかし、夕べの風呂場での大立ち回りは何一つ覚えていない。「しかし、ひでぇ奴らだ。向こうがそうゆう了見ならこっちにも考えがある」　熊は、江戸までの通しの駕籠を用意してもらうと、頭に手拭いを巻いて江戸の我が家まで一目散に帰ったのである。　熊は家に着くやすぐに、長屋のかみさん連中を集めた。「帰りに金沢八景を見ようという事になり、船酔いがひどいので自分は遠慮したが、連中は船を仕立てて出発した。だが、その船が沈んで全員死んでしまった」「俺も死のうと思ったが、お前さん達に知らせなければと思って帰ってきた」と嘘をペラペラ。　熊の事だ、いつもの法螺話だ！なんて誰かが笑い飛ばす。「これが証拠でぇ」と手拭いを取って、坊主頭を披露。　長屋のかみさん連中は、これで信じてしまった。中にはもう生きていけないから身を投げ出すと言い出す者まで出て来る。「それほど思ってるんなら、頭を丸めて尼さんになって朝晩念仏を唱えてやるんだ」　だったら尼さんにしておくれと、頭を丸める女房達。結局、熊の女房以外のかみさん全員坊主に…。　長屋の連中が戻ってくると、家には忌中の札。しかも、中から念仏まで聞こえてくる。　自分の女房が熊五郎に騙されて坊主にされたと分かると皆怒り狂ったのだが、その中で一人ニコニコ笑っている男がいた。「何を笑ってんだ！あんたの女房も坊主にされたんだぞ！」「いやいや、お山は晴天。家に帰りゃあ、みんなお毛が(怪我)なくっておめでたい」（了）

  July 14, 2023

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  荷風と紐育（後篇）

  荷風と紐育（後篇）　今回、この「荷風とニューヨーク」（末延芳晴著、青土社、２００２年。写真下）を読んでの素直な感想は、荷風がいた１２０年前の紐育とおいらがいた２５年前の紐育との間に本質的な差がないと感じたことに驚いたからである。　例えば、荷風は、住んでいたアッパーウエストのアパートから地下鉄に乗ってウオールストリートにあった横浜正金銀行に通ったのである（おいらも似たようなルートであった）。　実は、紐育の地下鉄が開通したのは１９０４年、荷風が紐育に着任したのはその翌年であり、荷風は地下鉄の恩恵を被っている。　日本で地下鉄が開通するには１９２７年まで待たなければならないので、荷風は早くから地下鉄を体験していたことになる。　荷風は退行後、マンハッタン南端からチャイナタウン、バワリー街を経て（無論、色街で散財しながら）ブロードウエーを歩いて自宅に戻るのである。　途中、２３丁目で奇妙な形をした「フラットアイアンビル」に出会う（余談だが、立花隆が生前に事務所にしていた「猫ビル」に似ていなくもない）。　おいらも数回このビルの傍を通ったことがあるが、この建造が１９０２年である。だから、荷風がいたときは既に名物ビルとなっていた。　何で有名であったか。それは、このビルに生じるビル風である。摩天楼が名物となっていたマンハッタンだが、まだ、珍しい時代である。老若男女が「フラットアイアンビル」見物に出かけるのである。　当時のアメリカ女性はヴィクトリア朝時代のファッションであり、コルセットによって胴体を縛り、ロングスカートの内部もペチコートなどで完全防備していた。当然、道徳意識もヴィクトリア朝時代同様に古い。だから、踝（くるぶし）などが観えようものなら、もうそれだけで失神騒ぎになるのである。　それが「フラットアイアンビル」風によって合法的にスカートが捲られるのである。古今東西、隠されたものを観たいと思うのは正常人の心持である。　だから、風の吹く日は大変となる。紳士たちが集まると警察も交通整理の名目で男たちを追い払う。すると紳士たちも何食わぬ顔で通行人を装い、行ったり来たりするので、とうとうこのビルはマンハッタンの名所となってしまった（参考ながら、当時の三大名所は「自由の女神像」と「ブルックリン橋」とこのビルである）。　荷風がこのことを知らないはずがない。日本から春画を送ってもらった友人への返礼に「そのものずばりより、チラリズムの方が刺激的である」とこのビルを出汁に述べている（「荷風とニューヨーク」９６頁）。　おいらたちもモンローの「七年目の浮気」での地下鉄の通気口の上でスカートを懸命に押さえる姿（この場所はレキシントン街）に微笑むのだが、その源は「フラットアイアンビル」にあるのである。　念のために述べるとおいらがいた当時はこのビルにそういう目的で集う人はいなかった。いや、そういう過去があったことを知っている人もいなかったと付言しておく。　ところで、このテーマはいくらでも書くことができるが、住んでいないと面白くない。だから、荷風がいた当時の未来図で締める。　ニューヨーカーは、紐育がすべての面で世界一になることを夢見た。　実際、かなりの面においてそうなったと思うのだが、写真のような空中都市は実現していない。　しかし、そのコンセプトは荷風がいた時代以前から始まっており、おいらがいた時代を経由して今でも脈々と続いているように思う。　だから、現在でも紐育は実験都市であり、そのことが続く限り、紐育は魅力を持ち続けるはずである。荷風がいた時代とおいらがいた時代を思い出し（藤田嗣治も一時いたのだ）、おいらも死ぬまでにもう一度紐育を訪れてみたいと考えるようになった（この項終わり）。

  July 12, 2023

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  荷風と紐育（前篇）

  荷風と紐育（前篇）　四半世紀前のことになるが、おいらは紐育に駐在していた。マンハッタンでの単身赴任である。　米国の某金融会社との提携がミッションであった。幸い提携はうまくいき、ミドルマンハッタンでのアパート暮らしであったことから紐育生活を満喫することができた。９６年から９７年にかけてのことである。当時のおいらは、４６歳を迎えていた。　さて、今回、紐育のことを取り上げるのは、「荷風とニューヨーク」（末延芳晴著、青土社、２００２年）（写真上）を読んだからである。　これがことのほか面白い。その理由は何かと考えたのだが、それはおいらが紐育にいたからである。荷風は１９０５年から１９０７年までマンハッタンにいた。摩天楼を見上げながら、マンハッタンの南端から北端まで歩いたのである。今から約１２０年前のことである。　実はおいらも同じことである。ただ、歩いたのではなく、愛用の「シマズ７段変速自転車」を東京から紐育に持ち込み、休日はおいらも荷風同様マンハッタン中を散策したのである。　約１２０年前と約２５年前の差が約１００年あるのだが、紐育の本質はさほど変わっていない、ということに気づくである。　これは江戸が明治維新によって東京に変わり、さらには太平洋戦争によって壊滅した東京と比較すると分かる。江戸情緒など数えるしか残っていない東京に対し、紐育のマンハッタンはその姿を基本的には変えていない。　荷風に話しを戻す。　もともと荷風は米国などに行く気はなかった。しかし、１０代のころから女遊びはするわ、落語家に弟子入りするなど、筋金入りの道楽息子であった。それに業を煮やした父親が実業を身に付かせようと横浜正金銀行の臨時雇い職員として米国に所払いしたのである。　荷風はフランスかぶれで、米国にいる気などなかったが、フランス滞在の費用捻出のため銀行員として米国西部タコマ（ワシントン州）に１年滞在した後、セントルイス、シカゴなどを経由して紐育に到着するのである。　１９００年初頭の世界情勢を一言で述べれば、前途洋洋である。大きな戦争もなく、なかでも米国の国力の充実は目覚ましく、政治経済社会文化の中心となったのが米国、就中、その中心が紐育であった。　紐育は世界最大の金融、経済、通商、流通の拠点であり、港湾都市でもあった。摩天楼が立ち並び、世界中から移民を受け入れ、多民族、多文化の受け皿となり、最新の情報、通信、交通、文化、消費が渦巻き、メガロポリスが誕生していたのである。　だから、紐育に行くものは皆、野心に溢れ、一攫千金の夢を見ていた。　だが、そういう気は毛頭ない荷風は紐育に対する先入観や期待など何もない。だから、米国や紐育のあり様をそのまま素直に受け入れることになるのである。これが荷風文学の原点となった「あめりか物語」誕生の背景である（この項続く）。

  July 10, 2023

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  柏原芳恵の実力

  柏原芳恵の実力　今、おいらの手許に柏原芳恵のアルバム「春なのに」（彼女の６枚目のアルバム。１９８３年２月リリースLPの「CD選書」版）がある。　これがすこぶるいいのである。特に１曲目の「ボギーボビーの赤いバラ」がいい。おいらが書斎で書き物をしながらイージー・リスニングするのに最適なのである。　いや、イージー・リスニングにはもったいない。　彼女の歌が巧いのが分かるのである。歌唱力はもとより、リズムの取り方が抜群。しかも、高音のときの喉のハリが秀逸。低音になるときのウイスパーボイスなどは掛け値なしに悶絶ものである。　なぜこのようなことを書くかと云えば、彼女のデビューが昭和５５年（８０年）。おいらの入社年次が昭和４８年で、本社勤務が５３年からであった。　だから、彼女のデビューをよく覚えている（「スタ誕」出身）。ジャケットを観ただけでLPレコード「ハローグッバイ」（彼女の３枚目のアルバム）を買ったものである（当時のおいらは気に入ったLPがあれば無条件に購入するのが日常であった）。　話しを元に戻す。この曲「ボギーボビーの赤いバラ」の作詞作曲は中島みゆき（編曲は、あの石川鷹彦！）である。だから、名曲である。　だが、驚くなかれ、このアルバム「春なのに」は全１０曲が中島みゆきの作詞作曲なのである。　あの中島みゆきだよ、天才中島だよ。その中島みゆきが気に入らなければ彼女に楽曲を提供する分けがない。　無論、畏れ多くも浩宮徳仁親王（現、天皇）もお好きな、あの名曲「春なのに」もこのアルバムに入っている。当然、「春なのに」も中島みゆきの作詞作曲である。　だから、唄が下手では話しにならないのである。　どうしておいらが今、柏原芳恵を聴くかといえば、おいらの残りの時間はどうせ知れている、と思うからである。　だから、昔、聴いた本物を今一度聴いておきたいと書斎を整理した結果である（余談だが、おいらの再生機は書斎の机上に置いたBOSEの「ウエイブ・レディオ」である。旧型だが、目の前にあり、低音の拡がりは追随を許さない）。　いやぁ、BOSEで聴く「ボギーボビーの赤いバラ」はいいわぁ。　柏原芳恵さまは昭和４０年生まれだから、現在５７歳。公称では独身だが、かなり年上のお方と事実婚らしい。　いいではないか、お幸せならば。

  July 7, 2023

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  山口小夜子、美は狂気に宿る（後篇）

  山口小夜子、美は狂気に宿る（後篇）　山口小夜子に話しを戻す。　４年前の話しだが、TBSに「爆報！THE　フライデー」という番組があった。山口小夜子が取り上げられたのである（１９年１２月６日）。　そこで、マツコ・デラックスが山口小夜子を論じるのである。「山口小夜子さんが資生堂のポスターになってるのを見て、恐ろしさというかさ…単純にキレイというレベルじゃなかった。狂気というか、怖いって言うか、くやしかったらここまで登って来なさい、ってのがあったよね」と絶賛するのである。　この表現は巧い。　おいらも「美はバイオレンス＝狂気にあり」と思っているからである。　つまり、山口小夜子は「想定外」を超え（実は「想定外」とは「想定内」の範囲内である）、おいらたちの心が壊れるまで「やりすぎる」のである。だから、怖いのである。だから、一流なのである。　ウイキペディアを参照しながら、今はなき伝説の日本人「パリコレ・モデル」の山口小夜子について述べる。　１９４９年９月、横浜生れ　身長１７０cm（公称）　京浜女子大学横浜高等学校卒業　杉野学園ドレスメーカー女学院卒業　７１年、山本寛斎に見いだされ、プロのモデルとしてデビュー（高田賢三のショーでも注目を集める）。当時はパリコレで活躍した松田和子や松本弘子のような大きな瞳の西洋風モデルが全盛であったが、山口小夜子は純日本風の黒髪のおかっぱと切れ長の目で日本人ブームを起こした。　彼女のエキゾチックな顔は熱狂的に支持され、「SAYOKO マネキン」というマネキン人形まで作られることになる（現在でもアナスイニューヨーク店に「SAYOKO マネキン」が残っている）。　７３年～８６年まで資生堂の専属モデル。CMに多数出演。　７７年、「ニューズウィーク」の「世界のトップモデル6人」にアジア人で初めて選ばれる。　また、女優として映画や舞台にも多数出演。　２００７年８月、肺炎で死去（享年５７歳）　２０１５年、東京都現代美術館「山口小夜子 未来を着る人」展が開催される（彼女を知らない若者たちにも熱狂的に受け入れられ、入場者数が５万５千人を超える）。　山口小夜子は生涯独身で子供もおらず、私生活は謎のベールに包まれていた。山本寛斎とは仕事上のパートナーを長く続けており、プライベートでも関係があったとの噂が一時流れる（真相は不明）。　とまあ、華々しい経歴であるが、山口小夜子の特徴は何と云ってもあの切れ長の美しい目とそのメイクである。白い肌に切れ長の目の美しさを作り出す繊細なアイライン、高い位置のチーク、くっきり縁取った赤いリップ。　実は、山口小夜子のすっぴんと思われる写真が残されており（出典不明）、切れ長の瞳はメイクで作られていたものだと分かる。　繰り返すが、「美はバイオレンス＝狂気にあり」。彼女の一貫したそのスタイルには敬意を表したい。おいら自身もその姿勢にはかくありたいと願うものである。

  July 5, 2023

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  山口小夜子、美は狂気に宿る（前篇）

  山口小夜子、美は狂気に宿る（前篇）　美は狂気に宿る。それにしても、山口小夜子（写真下）の美には比類がない。　なぜこのようなことを書くかと云うと、先日、大正デカダンスの雄、甲斐荘楠音（かいのしょう ただおと）のことを書き、今月から開催の「東京ステーションギャラリー展」鑑賞後に甲斐荘楠音についてこのブログで取り上げると述べた。　怪しい日本画の代表である、甲斐荘楠音のことをおいらはずっと考えていたのだが、なぜ彼に惹かれるのだろうか（写真下は「甲斐庄楠音『春宵(花びら)』大正10（1921）年頃」）。　これはグロを超えて、怖い。だが、大正デカダンスを「エログロナンセンス」と一言で評するわけにはいかない。　どういうことかと云うと、鎖国の時代にあった日本に明治期、全ての分野において西洋から科学知識や技術などが突然導入されるのである。　これは美術や文学の分野においても同様であり、我が国の文化や芸術は西洋に刺激されて新しく生まれ変わるのである。　その過程で西洋とは相容れない日本の土着的な文化が露わとなり、他方で大正という時代が生み出した、金満、刹那主義、退廃、妖艶、エロ、グロテスクなどのデカダンスが一気に華開くのである。　大正期という明治と昭和の架け橋となる時代は、人々の欲望や不安が社会に映し出された時代である。　この大正デカダンスは退廃的で妖艶が主流となったが、一部の芸術は怪しさを通り越すのである。いや、通り越すのではなく、怖いというレベルまでに達するのである。　では、その怖さとは何か。　それは「やりすぎ」である。　例えば、名作「羊たちの沈黙（”The Silence of the Lambs”米映画、１９９１年）」を持ち出すまでもなく、今まで考えたことがなかった、あるいは、考えてはいけないことまでが起こる世界は無条件に怖い。　大正デカダンスの全てがそうだとは云わないが、少なくとも甲斐荘楠音は「一線を越えた」のである。なぜこのようなことを書くかというと、山口小夜子も一線を越えたと思うからである（この項続く）。

  July 3, 2023

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  本日はおやすみ

  本日はおやすみ　本日の午前中、某公募小説の応募原稿を近くの郵便局まで持参した（レターパックライトなので局員に手交した）。本日付の消印有効である。　だから、少々「やった感」に包まれており、この原稿を書く気がしない。よって、本日のブログはお休みにさせてください。　閑話休題。　最近、気になっている人物に金子国義と山口小夜子がいる。二人とも鬼籍に入っているが、怪しさ満点の画家とモデルである（金子国義氏とは、神保町の古書店で遭遇したことがある。オーラが半端ではなかった。写真上は、山口小夜子）。この二人については、おいおいカキコする予定である。

  June 30, 2023

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  定点観測

  定点観測　定点観測、だけでは意味が分からない。　その示す意味は、おいらが定期的に友人たちと飲んでいることである。　必ず３か月ごとに開催している。コロナ禍の間であってもオンラインで飲み会を開催していた。明日も開催するのだが、事情があって今回もオンラインである。　この会合のよいところは、皆の定点観測になることである。　全員が７０代前半である。車で云えば、とっくに１０万キロは走っている、廃車寸前である。　皆が近況を報告するのだが、お互いが気の置けない仲間であるので、それがあるときは励みになり、あるときは警告となる。　ところで、この「気の置けない」という言葉は、どうも分かりづらい。「相手に遠慮がいらない」という意味であり、「気の置けない友人」とは「気を使わない親しい友人」であり、同様に「気の置けない仲間」は「遠慮のいらない人との親しい間柄」を表している。　だが、最近のネットでは逆の意味で使っている人もいるようなので、注意が必要である。　閑話休題。　この会合の長所の一つに、皆が近況を報告することがある。畢竟、おいらもこの四半期を振り返ることになる。　過去３か月分の手帳を振り返りながら、プライベイトな思い出に浸るのである。おいらもこの４月から６月までにはいくつかの慶事のほかに義母の一周忌があり、また、ジャズ祭りを堪能したり、美術館巡り、それに寺山修司の幻想映画を梯子したりもした。　さらに、今月末締め切りの某公募小説（四百字詰め原稿用紙１０４枚）を完成させた。そろそろ皇帝の使者にお目にかかりたいものである。　そして、おいらの老体はギックリ腰の再発となり、さらには今週初めに前歯が欠けたのである。やれやれ走行距離１０万キロ超のこれからの車検はどうなるのだろう。幸い、脳だけはまだフル回転しているつもりなので、好きな文筆活動だけは死ぬまで続けたい。　最後に。この会合の幹事はおいらが仰せつかっている。だが、結構、手間がかかる。しかし、その手間以上の果実が得られているので、おいらが元気なうちは続けるしかないと思っている。　ま、ボランティアじゃのう。「歳を取ったらボランティアを積極的にやるべし。情けは人のためならず」。おいらの先輩が遺した偉大な言葉である。

  June 28, 2023

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  群盲象を撫でる

  群盲象を撫でる　ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏の反乱があっけない幕切れとなって茶番劇の様相を見せている。　これについて報道各社がテレビや新聞などで報道しているが、それらは一様に海外のメディアやネット情報の受け売りで、しかも、断片的な情報のオンパレードである。　だから、全体像はもとより、そもそも、その内容が正しいかどうかも怪しいものばかりである（誰が考えても次に狙われるのはプリゴジン氏本人だと思うが、そういうことは表ざたにされない）。　だから、「群盲象を撫でる」以外の何物でもない。　もとより起きている場所が海外であり、しかも紛争地域だからということは理解できるが、それよりもっとまともな情勢分析ができないものだろうか。　本件については、今月（６月）１１日付の産経新聞で佐藤優氏が「分析官の養成を急げ」と提言しているように（写真上）、どうやら国内でウクライナ戦争の情勢分析に役立つもの（ヒトやモノ）はないに等しいようである。　だから、テレビではとんちんかんな解説者ばかりが幅を利かせているのである。　かつて日本では「陸軍中野学校」という諜報機関があった。世界でも有数の情勢分析を行っていたというが、敗戦で骨抜きにされてしまった。それはそれで分かるが、それをそのまま放置しておくという国家というのは三等国である。　やれやれ、戦争をする気は毛頭ないが、これでは闘う前から負けているようなものである。おいらたちは、どこで優先順位を間違えてしまったのだろうか。いつの間にか情報は他人に頼る国にしてしまったのである。

  June 26, 2023

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  持つべきものは友

  持つべきものは友　今更ながらではあるが、持つべきものは友である。　友とは、ある種のパートナーである。同じパートナーでも妻とは違う。妻とは分身である。おいらのいい部分だけでなく、悪い部分も引き受けてくれるのである。逆においらも妻の両方の部分を受け持っているのである。　ところが、友とは太宰治の「親友交歓」と異なり、お互いのいい部分だけを受け合う間柄である。なぜなら、いい歳になって友の悪い部分を受け持つほどこちらも暇ではない（まともな人生は病気をしなくても、７０代後半で終わりである）。逆もまた真で、おいらが無礼を働けば友の方から去っていくだけである。　だから、歳を取っても友であるという間柄は有難い。　そういう友から、気の利いたメールが忘れたころにやってくる。　過日は「NHKの『サラメシ』で『週刊朝日』編集部休刊の最後を取り上げているよ」とリアルタイムで教えてくれたのである。これは有難い。　若いときは食事に血道を上げるのはバカだと思っていた。だが、人生の深みを知るに連れ、食事は教養だと知った。会社時代には接待に便乗して個人ではお目にかかれない美食を堪能したものである。　さて、その番組である。築地の朝日新聞社の社食が覗けるかと思ったのだが、そうではなかった。図ったような弁当のオンパレードで残念であった。しかし、問題は週刊朝日の中身である。もっと面白い誌面にしてくれよぅ～。身内の雑誌じゃないんだよぅ～。ジャーナリズムなんだよ。時代を斬らないでどうするんだよ（週刊朝日さま、ゴメンナサイ）。　そして、昨日である。　友は「京都国立近代美術館」で開催されていた「開館６０周年記念『甲斐荘楠音（かいのしょう ただおと）』の全貌」展（写真上）のことを知らせてくれたのである（下は図録）。　詳細は割愛するが、この展示会、来月から「東京ステーションギャラリー」で開催されるという。これは嬉しいぃぃ～。実は、おいらは「隠れ甲斐荘楠音ファン」なのである。「甲斐荘楠音」について論じると時間がいくらあっても足りないので、「東京ステーションギャラリー」に出向いてからまたそのことについて触れたい。　げに、友は持つべきものである。来月、腰痛が治っていることを是非とも願うものである。友さえ良ければ、丸の内界隈で再び一献傾けるべし。

  June 23, 2023

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  夢幻の如くなり

  夢幻の如くなり　金（ゴールド）が暴騰している。　全くロシアの阿呆がウクライナに侵攻するものだから、有事の金となってしまった。おいらは金とは無縁の生活だが、「天皇陛下御在位６０年記念１０万円金貨」なら１枚だけ持っている。　１９８６年（昭和６１年）に昭和天皇の御在位６０年を記念して、造幣局より発行された金貨である（当時、約１３万枚発行）。　この金貨は重さが２０グラムで発行当時の金の価格は１グラム３千円程度だったから６万円しか価値のない１０万円金貨だったのである。　逆に云うと、政府は差額の４万円を濡れ手で粟の大儲けであった。全くやることがあくどいのぅ（だが、そのせいで大量の偽１０万円金貨がスイスより密輸入された。６万円で１０万円が造られるからである。このときの被害総額は約１００億円であった）。　だから、全く人気のない金貨となり、おいらの家でもタンスの奥に眠らせていたのである。　ところが、近時、金が暴騰である。なにせ１グラム当たりの買取価格が９千円程度まで急上昇しているのだ。　だから、今はこの１０万円金貨が２０グラム×９千円＝１８万円程度で買い取ってくれるというのだ。ひえ～。　閑話休題。　ロシアが崩壊すれば、ルーブルはただの紙切れになる。国家の裏付けのない紙幣はゴミと同じである。　でもね、冷静に考えれば、円だって同じである。円は日銀が印刷している紙切れである。おいらたちがそれに価値があると思っているから「お金」として通用しているのである。　だから、１万円札を日銀に持参しても金（ゴールド）に交換してくれるわけではない。砂上の楼閣と変わりはないのである。　なぜ、このようなことを書くかと云えば、若かりし永井荷風は放蕩がたたり、「横浜正金銀行」の行員として紐育とフランスのリヨンに放逐されるのである。「横浜正金銀行」（後の「東京銀行」、現「三菱UFJ銀行」）って、今では読める人はいないだろうなぁ。意味も知らんだろうなぁ。「正金」は「しょうきん」と読むのである。「正金」の意味はその名のとおり、紙切れではない本物のお金、つまり金貨や銀貨を意味したのである。当時は貿易で通用するお金は金貨や銀貨だったのである。　もう少し書く。その昔、紙幣は兌換紙幣であった。銀行に持っていくと金に交換してくれたのである。しかし、今や、世界中を探してもそのような紙幣を発行している国はどこにもない。皆、国の信用だけに頼っているのである。　だから、「新円切り替え」とか、「預金封鎖」など国にとっては何でもありなのである。考えてみると恐ろしい話しである。

  June 21, 2023

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  秋田音頭（後篇）

  秋田音頭（後篇）　実は、おいらのジャズの師匠である柴田朝生さん（落語の師匠でもある）は秋田に関係があるのである。　柴田さんは転勤で秋田の地に赴任され（管理職になられ）、その芸術的センスから秋田を自家薬籠中のものとされたのである。　くしくもおいらは同じ時期に新入社員として新潟支店に配属となっており、昭和５０年前後の円熟した昭和を同じ日本海側で味わっていたことになる。　だから、柴田師匠が秋田支店時代のエピソードを交えておいらに秋田音頭のことを伝授されたのは何かの縁だと思うのである（写真は師匠から送られてきた秋田音頭の「裏」の歌詞）。　その詳細は割愛するが、おいらにとっても秋田は他人事ではない。藤田嗣治が４番目の妻マドレーヌを都下で不慮の事故で亡くす。その涙を乾かす間もなく秋田で壁画の大作「秋田の行事」を描き上げるのである。おいらもわざわざ秋田までその作品を観に行くのである。　だから、秋田音頭に親近感を覚えるのである。　さて、その秋田音頭である。おいらが最初に気づいたのは、正調（定番）の歌詞がないことである。それは、秋田音頭が「天明の飢饉」のころに創られたと云われているほど歴史が長いことに起因する。　佐竹藩の中では庶民の間で風刺や春歌として藩内の各地で長らく歌い継がれていたので、詞もバラバラなのである。だから、今でも詞は勝手に創っていいのである。これが秋田音頭のいいところなのだ。　ところで、気にかかる詞がある。「コラ、秋田名物八森鰰、男鹿で男鹿ブリコ（アーソレソレ）能代春慶、桧山納豆、大館曲げわっぱ」の「桧山納豆」である。　納豆の専売特許は、本来水戸のはずである。なぜ納豆が秋田の桧山地方なのだ。しかし、これにも歴史がある。　江戸時代、秋田藩を治めていた佐竹氏はもともとは常陸国（茨城）の水戸を本拠とする戦国大名であった。だが、関ヶ原の戦いで秋田（出羽国）へ転封されたのである。　だから、水戸と秋田は線で繋がっているのである（転封のとき水戸美人を秋田に連れて行ったので、秋田は美人が多いという伝説あり）。　また、秋田と江戸も繋がっていた。秋田出身の国学者である平田篤胤（ひらたあつたね）を忘れてはならない。彼は晩年秋田に戻り、秋田で尊王攘夷運動を起すのである。　東北は「奥羽越列藩同盟」で皆、幕府側につくが、秋田藩だけは平田の影響で官軍側となった。佐竹藩は周囲を敵に囲まれ苛烈な戦争となり、秋田は旧幕府側で最強の酒田藩（山形）と激戦をまみえることになる（軍の近代化に遅れていた秋田は大きなダメージを受けた）。　そして、納豆である。平安時代末期、武勇名高い源義家が東北に向かう途中、煮豆の残りが発酵して納豆ができたと伝えられている。これが秋田桧山の納豆伝説である。秋田音頭は、奥が深いのである。なお、秋田音頭の春歌で最も秀逸なのは、師匠によれば、「院内峠」の作と宣われる（その詞は内容上、残念ながら割愛）。　最後に。秋田の民謡でもう一つ忘れてならないものに「ドンパン節」がある。ところが、このドンパン節が「あきたくらぶ」の「秋田おんど小唄」の小冊子に掲載されていないのである（それに対し、もとより秋田音頭は詳しい）。　国営の紅白歌合戦で朝丘雪路が昭和３５年に、ダークダックスが昭和４５年に「ドンパン節」を唄っているほど有名な唄である。だが、秋田音頭に比べて歴史が浅く（ドンパン節は生保（おぼね）地方の「どんさい節」が変化した明治の作で、戦後、一世を風靡するほど流行った）、どうやらお座敷で唄うには格が落ちるようだ。　以上、秋田音頭を語るとキリがないことに気づく。秋田音頭、奥が深いのぅ～（この項終わり）。

  June 19, 2023

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  秋田音頭（前篇）

  秋田音頭（前篇）　人生を愉しもうという哲学が最も進んでいる地域が元「佐竹藩」である秋田であると知ったのは、最近のことである。　実証的な話しではないが、おいらは若いときに新潟に５年間いたので秋田の雰囲気はよぉく分かる。いや、東北５県とも存分に旅行してきたので、かの地のいずれもが悪くないことは心得ているつもりである。　ではなぜ、このようなことを書くかというと、一つは、「芸者をあげて唄の一つでも歌おうとした場合に最も優れた唄は何か」と問われれば、その答えが秋田音頭ではないかと思うからである。　写真上は、その秋田の料亭で最も格式が高いと云われた「あきたくらぶ」（残念ながら２００３年倒産）の庭園内で撮影された昭和３０年代の写真である。　今一つは、全国各地にある春歌である。　幻の書と云われる「声に出して唄おう日本の春歌」（西はるか、竹内書店新社、２００２年、絶版）をひもとくと、東北地区を始め全国の春歌が満載されている。　掲題書によれば、秋田は夜這いで最も有名とされ、同時に「着倒れ」「食い倒れ」でもあるという（２１９頁）。秋田の夜這いが有名なことは知っていたが、「着倒れ」「食い倒れ」については知らなんだ。天下の関西地方も顔負けである。　さて、その秋田音頭である。もともとは「音頭」とだけ呼ばれ、明治時代の始め頃に「秋田音頭」という名がついたようだ。それほど音頭の代表格である。　おいらたちの世代は、ザ・ドリフターズの「のってる音頭」（作詞、なかにし礼）で秋田音頭を知っている。ユーチューブを閲覧しても秋田音頭は花盛りである。桜田淳子の秋田音頭は地元だけあって、巧い。　のっけから、秋田音頭の代表的な歌詞（抄）を挙げてみる。「（ヤートーセー）コラ、秋田音頭です（ハイ、キタカサッサー、コイサッサー、コイナー）　コラ、いずれこれより ご免こうむり音頭の無駄を言う（アーソレソレ）お気に障りもあろうけれどもさっさと出しかける　コラ、秋田名物 八森鰰、男鹿で男鹿ブリコ（アーソレソレ）能代春慶、桧山納豆、大館曲げわっぱ　コラ、秋田の女ごは 何してきれ（い）だと訊くだけ野暮だんす（アーソレソレ）小野小町の生まれ在所をお前（め）はん知らねのげ　コラ、何につけても 一杯飲まねば 物事はかどらね（アーソレソレ）飲めば飲むほど気持コ開けて 踊りコなど出はる　コラ、秋田名物 コの字づくしをつまんで言うならば（アーソレソレ）坊ッコにガッコ笠ッコに小皿コ 酢コに醤油ッコ　コラ、秋田の国では雨が降っても唐傘などいらぬ（アーソレソレ）手頃な蕗の葉さらりとさしかけ サッサと出て行かえ　コラ、秋田川端 日暮れに通ったばピカピカ飛んで来た（アーソレソレ）蛍と思ってギッシリ掴んだっきゃ 隣のハゲ頭　コラ、時勢はどうでも 世間は何でも踊りッコ躍らっせ（アーソレソレ）日本開闢天の岩戸も 踊りで夜が明けた　コラ、汽車も速いし 電車も速い電信なお速い（アーソレソレ）何でもかんでも速いどこいったば 足袋穿いで足洗った　コラ、オラ家（や）の婆（ば）さまと隣の婆さま青森見物に（アーソレソレ）目腐れ眼（めぐされまなこ）で函館見つけてアメリカあこだべげ」　などである。これは、「七・七・九」の立派なラップである。　実は、これらは表の秋田音頭の代表格であり、裏がある。無論、裏とは春歌のことである（この項続く）。

  June 16, 2023

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  ぎっくり腰の再発

  ぎっくり腰の再発　何がツライかと云って、ぎっくり腰の再発ほどツライものはない。　日曜日の深夜に本の整理をしていたら、このざまである。無意識のうちに腰を捻ったようだ。急に動けなくなった。トホホ～。　まさか、こんな形でぎっくり腰が再発するとは思わなかった。イダイヨ～。　それで最近、聞いてなるほどと思ったことを書く。　先週は、３７度５分程度の微熱が５日間続いた。二三日寝た位では、熱が下がらないのである。　こんなことはなかった、一昔前は。最大でも三日寝れば治った。　老人力がついたのもあるのだろうが、どうやら真相は、コロナの影響で３年間、皆の免疫力が低下した可能性があるのではないかというものである。　云われてみれば、おいらもこの３年間、手洗いとうがいを励行してきたので、発熱を含め、目立った病気になっていない。それが結果的に免疫力の低下を招いたのかもしれない、という説である。　ヒエ～！　そう云えば、おいらも根岸の里の侘び住まいに移って７年目を迎えるが、こちらに来てからはぎっくり腰が再発していなかった。　くしゃみをするだけで激痛となることを忘れていた。寝返りを打つだけでも死ぬほどの痛みである。　一病息災とは、よくぞ云ったものである。それにしてもぎっくり腰の特効薬はおいらの経験値では「日にち」しかないのが、ツライ。　事故当日の痛みが１０。月曜日が９。昨日が８。やっと今日７の痛みにまで低減した。それでもこの痛みは当分、３程度までが底で最低一月は地獄のような日々が続く。　偏に爆弾を抱えているのを忘れていたのがよくなかったのである。　本日は、実は秋田音頭の深い話しについて書こうと思っていたのだが、こういう話しになってしまった。今更ながらの教訓。「石橋は叩いて渡るべし。ときに渡るべからず」。

  June 14, 2023

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  だから、共産党はキライだ

  だから、共産党はキライだ　国営衛星放送の某番組で渡辺恒雄の特集を再放送で何度もオンエアしている。チャネルが合うとついつい観てしまう。　彼は、敵ながらあっぱれである。いや、右も左もない。ひとかどの人物である。一目を置いてよい。　そのナベツネが敵視するのが日本共産党である。彼が元日本共産党員であり、愛想をつかして離党したのは有名な話しである。細かい説明は抜きにして、ヒトをヒトと思わないのが共産党である（では、何と思っているのか。モノであろう）。　ところで、今回は、そのことが云いたいのではない。「開催２日前にいきなり電話で言われ…」共産党の申し入れで「水着撮影会」が中止に　騒動の裏側に迫る　デイリー新潮編集部6/9(金) 18:10配信　と、いうのがネットの目に留まった。　少々長いが、記事の冒頭をそのまま転用する。「ことの発端は日本共産党埼玉県議会議員団のTwitterが6日に行った「埼玉県営公園で女性の水着撮影会が行われます。未成年も出演するという情報については調査中です。城下のり子・伊藤はつみ・山﨑すなお県議は、本日、都市公園法第1条に反するとして、貸し出しを禁止するよう県に申し入れました」とのツイートだった。投稿には6月24、25日に開催予定だった近代麻雀水着祭のURLも併記されていた。　もともと埼玉県にある川越水上公園、しらこばと水上公園、加須はなさき水上公園は人気グラビアアイドルやコスプレイヤーが多数参加する大規模なプール撮影会の会場として頻繁に使われてきた。　日本共産党埼玉県議会議員団は、こうした水着での撮影会について、「明らかに『性の商品化』を目的とした興業」であり、都市公園法第1条の「都市公園の設置及び管理に関する基準等を定めて、都市公園の健全な発達を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする」にふさわしくないことを理由に、会場の貸し出しを中止などを求めたとホームページ上で発表した。　これに続き埼玉県の公園を管理する公益財団法人「埼玉県公園緑地協会」は水着撮影会へのプールの貸し出しを禁止し、開催が差し迫っていた10日のフレッシュプール撮影会（川越水上公園）、11日のはまなる大プール撮影会（同）、10日に開催予定だったミスヤングアニマルオーディションセミファイナルプール撮影会（しらこばと水上公園）が相次いで中止を発表した。そして共産党が申し入れの対象とした近代麻雀水着祭も6月9日18時に中止を発表した」　ということらしい。　やれやれ、世の中は戦時中の様相を示してきた。これではまるでファッショのようである。正義をかざす権力には泣き寝入りするしかないのだろうか。永井荷風がこの風潮を観たらどういうのだろう。彼の皮肉を聞きたい。

  June 12, 2023

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  憧憬の地　ブルターニュ（後篇）

  憧憬の地　ブルターニュ（後篇）　ブルターニュ展のよいところは、ブルターニュに限定して絵が展示されていることである。　それは、あたかもおいらがブルターニュに旅行している雰囲気に浸れるからである。　これが例えば、佐伯祐三展であれば、個人の足跡を通じて佐伯祐三の全貌に迫ることになるのだが、今回のようにブルターニュに限定して絵画を展示すれば、おいらもブルターニュに居る気になるのである。　上の絵がモネである。ブルターニュの海岸は断崖が連なっていることが分かる。　ゴーギャンによって、ブルターニュの少女たちもつぶさに分かる。　デュルメールの描く聖母マリアとキリストは、民族衣装を着ている。　ブルターニュの大地でジャガイモを収穫する景色も心を打つ。　ブルターニュの海は荒れると容赦をしない。　下の作品（漁師の父親が亡くなった我が子に最後のキスをしている）は１８９２年のサロンで発表されるとフランス政府が買い上げるほどの評価を受けた。　以上、絵の紹介には枚挙に暇がない。　それにしても、である。よくもまあ、タイミングよく二つの美術館が同じテーマで美術展をやったものよ。　なお、上皇ご夫妻も先月、国立西洋美術館をご訪問され、「憧憬の地 ブルターニュ」展を鑑賞されている。ご趣味がよい（この項終わり）。

  June 9, 2023

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  憧憬の地　ブルターニュ（前篇）

  憧憬の地　ブルターニュ（前篇）「憧憬の地　ブルターニュ」と聞いただけでは何のことか分からない。　そもそもブルターニュがフランスの一地方と知っている人は少ないはずだ。　似て非なる場所にブルゴーニュがあるが、これはワイン通なら馴染みのある地方である。ブルゴーニュは「シャブリ」で有名である。　４年前においらが「フジタ礼拝堂」を訪問したときの場所はシャンパーニュ地方で、ブルゴーニュはその隣である。　話しをブルターニュに戻す。フランス北西部のブルターニュである（ノルマンディーは北隣。モンサンミシェルもすぐ傍）。　来週１１日（日）まで、国立西洋美術館とＳＯＭＰＯ美術館でブルターニュ展が開催されているので、おいらは先月、両美術館を訪問した。　理由は藤田嗣治が１９２０年頃ブルターニュを訪問し、油彩「十字架の見える風景」を観たかったからである（写真上。何の変哲もない油彩に観えるが、フジタは中央奥右下に船のマストの上部を描いている。これだけでこの絵には奥行きが生まれている）。　ではなぜ、ブルターニュなのか。それはブルターニュがもともとはフランスとは別の国（公国）であり、古来より特異な文化（言語も「ブルトン語」）を紡いできた、自然豊かな地だからである。　フランスでありながら、フランスではない異郷の地ということになる。芸術家はそこに心を奪われたのである。　ゴーギャンやモネが競ってこの地に陣取り、本邦からは黒田清輝、藤田嗣治、岡鹿之助がこの地で作品を残した。　だから、この美術展は見どころ満載である。　また、偶然にも同時期に国立西洋美術館で「憧憬の地　ブルターニュ」展、ＳＯＭＰＯ美術館で「ブルターニュの光と風」展が開催されている。　したがって、上野（国立西洋美術館）と新宿（ＳＯＭＰＯ美術館）をハシゴすることをお勧めする。　写真上が、国立西洋美術館で「憧憬の地　ブルターニュ」展である。　写真下が、ＳＯＭＰＯ美術館で「ブルターニュの光と風」展である（この項続く）。

  June 7, 2023

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  幻のフライヤー

  幻のフライヤー　昨日から微熱が続いており、少々ふらつく。　コロナが始まってからウガイと手洗いを励行してきた。この３年間は全く熱が出なかったので油断したようだ。症状は喉が痛いのと、頭がボーッとする。親族に同じ症状がいるので、うつったのだろう。　そういうこともあって、論理的な記述ができない。　そこで、今回はフライヤー（ちらし）の話しをする。　写真上が来週の１６日から上映予定であった「緊急取調室」である。ご存じのとおり、例の事件で先週、正式にお蔵入りとなった（裏面は下）。　撮り直しになる可能性があり、この映画はこのままの形で上映されることはない。　したがって、このフライヤーは「幻のフライヤー」と云われる所以である。　おいらは収集癖があるので、こういうフライヤーを観ると涎が出てしまう。恐らく今後、メルカリなどでいい値が付いて出品される可能性がある。　閑話休題。　ネット情報によれば、公開中止による逸失利益（２５億円）と撮り直し費用（１０億円）を合計すると損害額は３５億円にのぼるらしい。猿之助個人で簡単に払える金額ではない。どうするんだろう。

  June 5, 2023

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  朝倉彫塑館、尋常ではない（後篇）

  朝倉彫塑館、尋常ではない（後篇）　朝倉彫塑館が目の前に現れた。　館内は鉄筋コンクリート造りのアトリエ部分と、純和風の数寄屋造りである住居部分からなる和洋折衷である。これにまず驚かされる。無論、朝倉本人による設計である。　アトリエ部分には多くの彫像が展示してある。その彫像の多くは戦時中に弾丸用に供出されたという。全く軍部の大馬鹿野郎である（戦争を起こした罪は天皇を含めた当時の日本国民全員にあり、端的に云えば無能とも云える軍部に大罪があると考えるがここではそれに触れない）。　アトリエで驚かされるのが、彫刻を上下に動かすことが出来るエレベーター（せり上げ装置）の設置である。　大きな彫像を製作するためには地下から彫刻をせり出せるエレベーターが必要だからである。しかし、このような大掛かりな装置を昭和１０年に造るということだけでも十分に見る価値がある。　続いて、アトリエの隣の応接室である。骨董や陶磁器などのコレクションが展示してあり、それに続く書斎には膨大な蔵書が納められている（この書斎が見もの。本好きだと涎が出る）。　そして、廊下を渡ると木造建築である。これには驚く。佇まいが素晴らしい。高級旅館も裸足で逃げ出す。しかも、中庭を見渡すと大きな池の日本庭園に気付く。　この庭園が尋常ではない。四季折々に白い花をつける木が植えられ、池の中には五つの巨石（儒教の五常「仁・義・礼・智・心」を造形化）が配されている。　何という心の安らぎだろう。　今、この彫塑館を創るとしたら数十億円はかかるだろう。それがわずか５百円の入場料で満喫できるのである。この庭は樹木の花々が四季に応じて繚乱となる景色に変わるはずだ。リピーターが多いというのも頷ける。　おいらはいっぺんに朝倉文雄彫塑館の大ファンになってしもうた。次回は愛妻と行こう、そう心に決めたおいらであった。ありがとう、朝倉彫塑館（この項終わり）。以下、付録。　と、以上まで書いていたら、おいらのジャズと落語の師匠であるＳ氏から次のようなメールをいただいた。「朝倉彫塑館は小生も好きで何度も行きましたが、作品もさることながら屋上の草ボーボーを踏み分けながら歩くのも風情がありました。彫塑館の前の狭い通りの向かいに鰻屋があり、そこで食べたことがありますが、まだありますかね。損保ジャパン本社ビルの最上階にあるシャンデリアは朝倉文夫の次女馨子のデザインだと記憶していますが…」。　師匠、朝倉彫塑館がお好きだったとは流石であられる。おいらは嬉しくなってしまった。　その彫塑館の屋上だが、日本で最初の屋上緑化庭園だという。朝倉は自然に触れることを芸術の基本と考えていたので当初は大根やトマト、東洋ラン等を育てていたが、現在は花壇となっており、外には出られないようであった。　また、鰻屋はないようであったが、下の写真のように風情のある建物が彫塑館の斜め向かいに現存している。　おいらはリピーターになりそうじゃのぅ。東京の下町にはまだ戦前の空気が残っているところがある。荷風好みだろうか。いや、荷風はその前の江戸情緒か（この項、ホントに終わり）。

  June 2, 2023

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  朝倉彫塑館、尋常ではない（前篇）

  朝倉彫塑館、尋常ではない（前篇）　朝倉彫塑館（あさくらちょうそかん）と聞いただけで、それが何かと分かる人はそういまい。　国の指定名勝であると同時に有形文化財である、彫刻家の朝倉文雄のアトリエ兼住居（自宅。写真上）である。　おいらは彫刻が好きなのである。それが何故かと考えると、高校時代の図画工作の時間のときに創ったモアイ像もどきの木彫の出来栄えに惚れ惚れとしたからである。今でも実家のどこかにその木彫があるはずだと思うのだが、そのときにおいらは彫刻が好きなのだと実感したのである。　彫刻で一番好きなのは平櫛田中である。高村光太郎や北村声望も嫌いではない。そこで、「東洋のロダン」と呼ばれた朝倉文夫（1883年〈明治16年〉～1964年〈昭和39年〉）の登場である。　あまり馴染みがないと思う人には、早稲田大キャンパスにある大隈重信像を創った彫刻家と思えばよい。　また、彫刻家として初めて文化勲章を受章した人だと云えば、インパクトがあるかも知れない（芸大の教授でもあり、高村光太郎のライバルでもあった）。　その朝倉が台東区谷中に造ったのが朝倉彫塑館である。　昔から一度は訪れてみたいと思っていたのだが、時間が取れず、されどこちらの残された時間を考えれば都心に出向いたときに行くしかない。　しかも、生誕１４０年特別展「アトリエの朝倉文雄」は５月２８日（日）まで開催というではないか。　そういうこともあって閉展直前の先週訪問した。おいらが昔住んでいた場所近くの日暮里駅で降りる。　同駅の北改札口から５分程度歩くと、ありました（この項続く）。

  May 31, 2023

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  寺山修司没後４０年（後篇）

  寺山修司没後４０年（後篇）　さて、寺山の映画である。最高傑作は仏映画の「草迷宮」（プロデューサーがフランス人だから、仏映画）である。　原作が泉鏡花であるが、そういうことはどうでもいい。前回述べた支離滅裂、精神分裂が全編を通じて横行するのである。ストーリーはあっても、なきが如しである。つまり、感性で観る映画である。　しかも、おいらの好きな見世物小屋もどきが氾濫する。ふんどし一丁の女関取を始めとし、海軍兵士、糸車、小坊主、手鞠、波などの幻想の世界が次々に登場する。露悪趣味の権化である。　だが、それらの映像には不思議と違和感がない。自分が昔の日本人であることを思い知らされるからである。　さらに映像美である。漆黒のスクリーンに深紅の旗が閃くのである。千利休の一輪の美と同じである。そうかと思ったら今度は極彩色の連続である。一瞬、台湾の極楽寺に迷い込んだかと錯覚する。　JAシーザーの単調な音楽もすこぶる良い。単調すぎるから逆に心を揺さぶる。　そして、１７歳の三上博史が耳なし芳一に。怪しげな三役に伊丹十三が登場する。　これでは、フランスで絶対ウケルよなぁ。「日本とは摩可不思議な国、ジャポンだよなぁ」ということになる。　寺山は、一貫してこういう映画の撮り方をした。「田園に死す」もそうだし、「さらば箱舟」もそうである。「さらば箱舟」はガルシア・マルケス「百年の孤独」が原作だが、そんなの関係ねぇである。　そうだ、露悪趣味のほかにも寺山の世界で忘れてならないものがある。　狂気と怨念である。　狂気は時としてバイオレンスとなる。厄介なのは、それが誰の心の中にもあることである。人間はそれを平常心で抑えているだけである。狂気があるから正常がある。　さらに、日本人の持つ原罪のような怨念が映画の底辺に流れている。何だか分からない怨念が延々ととぐろを巻いているのである。　寺山はそういう、もともとは人間が封じ込めたおいらたちの原罪を不躾に取り出そうとし続けたのである。ま、劇薬だわな。いや、毒そのものである。　だから、死後４０年経っても寺山は色褪せない。いや、寺山は今後も禁書として永久に生き続けるに違いない（この項終り）。

  May 29, 2023

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  寺山修司没後４０年（中篇）

  寺山修司没後４０年（中篇）　おいらが寺山を知ったのは、学生時代である。昭和４０年代前半のことである。　大学時代から乱読で手当たり次第に何でも読んでいたが、貧乏学生であったので固い本は専ら図書館であった。他方で当時からサブカル系にも目を配っていたので、書店では珍しい本を漁っていた。　当時、目についたのが寺山の新書館シリーズの「ひとりぼっちのあなたに」（昭和４０年、新書館）や「さよならの城」（昭和４１年、新書館）などである（写真上）。イラストと装丁が宇野亜喜良によるもので、一目で虜になった。　当時の寺山は、詩人であった。「ひとりぼっちのあなたに」の著者略歴には、次のとおり記されている。　それがあっという間に「職業は寺山修司」となるのである。彼は好きなことであれば何でもそれに熱中し（実際、写真家になろうとして、あのアラーキーの弟子にもなっている）、しかも、その全ての世界で華々しい成果を残すのである。　だから、おいらも寺山にはメロメロになった。この新書館シリーズは残らず手もとにおいて、寺山の世界に入り込んだものである（新書館シリーズは引越しで散逸したので、社会人になって古書店で再び入手した）。　同時においらは、寺山の世界が嘘くさいのを見抜いていた。いや、嘘の塊りと云った方がよいだろう。嘘を云えば云うほどそれが真実となるのである。それを一番知っていたのは寺山自身である。　だから、寺山の世界は突然、表が裏となる。現実が何の前触れもなく虚構となる。脈絡もなく、夢が真実となる。真実が夢となる。白黒映画の一部が突然深紅のカラー映画になる。ハイカラのはずが土着の見世物小屋になる。現代の都会が一昔前の田舎になる。民主主義が軍国主義になる。　人間は嘘をつけばつくほど、自分自身に対して嘘がつけなくなる。相手を信じるには、そもそも自分を信じることが出来なければならない。猜疑心の塊りは、自分が信じられないからだ。　強さを表に出すのは、弱さの裏返しである。愛しているから憎み、嫌いだから好きなのである。誤解を恐れずに言えば、人間の本質は支離滅裂、精神分裂であり、それだからこそ人間は厄介なのだと寺山は教えてくれたのである。　寺山の詩、短歌、俳句、小説、戯曲、映画は、そう補助線を引くと全てがそれだと分かるのである（この項続く）。

  May 26, 2023

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  寺山修司没後４０年（前篇）

  寺山修司没後４０年（前篇）　寺山修司が亡くなってもう４０年も経つ。　寺山は４０年前の１９８３年（昭和５８年）５月４日に肝硬変で亡くなった。享年４７歳。早死にである。　その５月４日は「修司忌」である。今年も三沢にある「寺山修司記念館」で修司忌が開催された。今年は、没後４０年の節目に当たる。　写真上はその模様を報じた東奥日報である。　寺山の戸籍上は本籍が弘前であるが、三沢で生まれ少年期は三沢で過ごした。記念館が三沢にあるのはこのためである。　随分前だが、この寺山修司記念館に行った。そのことはこのブログに書いているので割愛するが、寺山の全体像を知るにはこの記念館を抜きにしては語れないだろう。それほど寺山についての資料が充実している。　惜しむらくは三沢が遠方なことである。首都圏にあれば頻繁に出向くことが可能だが、飛行機か新幹線に乗るしかない。しかし、寺山が過ごした場所を実際に知るためにもやはりこの場所が一番なのだろう。　さて、今年は没後４０年ということもあって、渋谷の「ユーロライブ」で今月の１８日から２１日まで寺山の映画作品が一挙上映となった。　フランス映画の傑作である「草迷宮」や幻の名画「トマトケチャップ皇帝」も上映されるとあって、おいらは渋谷に足を運んだのである。　その顛末も含めて、今回は寺山がおいらに与えた影響や寺山の魅力について語りたい（この項続く）。

  May 24, 2023

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  新宿でのカレー余話

  新宿でのカレー余話　前回のカレーの話しを受けて、日本カレー党党首のＭさんから貴重な情報をいただいた。　氏も「C＆C」本店にカツカレーがないとはひどい話しだと感想を述べられ、同時に、同じ新宿でも新線新宿店（京王新線新宿駅。写真上）のメニューには「焼きロースカツカレー」というのが載っていると紹介されたのである。　それを受けて、おいらの返事である。「そうなんですよ。カツカレーのないC&Cなんて、C&Cではありませんよ。　おいらは久しぶりにC＆C本店に入ったので（テイクアウトのレトルトはこれまでも結構買っていたのですが）、『カツカレー！』と注文したら、『ありません』でした。カックン！　それで、狼狽して『んなら、ポークでいいや』としたのですが、今では『プレーン』と呼ぶそうです。浦島太郎になっていました。　帰り際、女店員に『カツカレーはどうしてなくなったのですか』と聞いたら、怪訝な顔をされたので、『いや、いいです』とそのまま店を出ました。変なおじさんだと思われたのかも知れません。　ま、カレーそのもので云えば、ここのところ、新宿に頻繁に出入りしているので、カツカレーに代わるものとしてブログにあるようにメンチカツを所望した次第です。　カツカレーがメニューから消えていると云うのは、世の中がずれてきているのか、それとも団塊の世代（もどき）がずれてきているのか、カツカレーでこういう問題を抱えるとは思ってもいませんでした」。　以上が「C＆C」本店での経緯であるが、おいらは昨日、新宿に出向いたので、早速、Ｍさんの述べられた「C＆C」新線新宿店を訪問してみた（おいらも物好きである）。　すると、あったのである。　しっかりとカツカレーがあった。嬉しい。ただし、時間がなかったので、カツカレーの所望にまではいたらなかったが…。　カツカレーは、次回、新宿を訪問するときの愉しみにしておこう。　だけどね、（これは、Ｍ党首も云っておられることだが）「C＆C」は京王電鉄グループ運営のチェーン店であり、同じ店舗でありながら、しかも、カツカレーは看板メニューにもかかわらず、どうしてこういうことになっているのだろうか。謎である。

  May 22, 2023

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  新宿でのカレー

  新宿でのカレー　新宿に出向いたときに小腹が空いた場合、食べたいのが某所でのカレーである。　このブログでもカキコしているが、おいらは紀伊国屋書店本店地下に所在する「モンスナック」のカレーが好きであった。独特のスープカレーで一度食べたらクセになるカレーなのだが、残念なことに紀伊国屋書店ビルが改装中なので今はその店がない。　しかし、日本カレー党党首も兼務するＭさん（全オム連会長）ご推薦のカレーがある。京王百貨店新宿本店脇（地階）にある「C＆C」の立ち食いカレー屋（写真上）のカレーである。　これがことのほか旨い。このカレーにも習慣性があるので、何か入っているのではないかと思ってしまうほどである（下は、プレーンの中辛）。　さて、そのカレーの中で一番のお薦めが「ここのカツカレーは、カツがカレーライスの上で程良く柔らかくなっており、その歯ざわりには打ち震えてしまうほどである」とこのブログでも書いているカツカレー（余談だが、日経の「文化欄」で食通の外人も推薦していた）であったのだが、残念ながら何故か今はそのメニューがない。　そこで、おいらの一押しはメンチカツカレー（写真下。中辛）である。　このメンチカツが旨い。メンチカツは肉汁などその味を主張しすぎるとしつこくなるが（ときとして、それもまた良い）、ここの味はほど良い主張のそれである。　今回はカレーだが、新宿には旨いラーメン屋も多数あるので、ちょこっと食べるにはカレーであってもラーメンであっても不自由しない。　最後に。寺山修司の言葉で締めくくる。「あなたは、カレー、ラーメン、どちら派ですか」。

  May 19, 2023

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  ４年ぶりの新宿ジャズ祭り（後篇）

  ４年ぶりの新宿ジャズ祭り（後篇）　さて、今回のジャズ祭りでのおいらの目玉は、「広島Hot Cats」（写真下）と「下田卓カンザス・シティ・バンド」である。「広島Hot Cats」は４年前の前回も出演しており、今回も広島からわざわざ上京しての演奏である。広島の安井ご夫妻（ご主人がトランペット、奥さまがクラリネット。写真左から二人）がメインで、メンバーの中の一人は転勤で横浜に移ったりしながらも今回もジョインしており、微笑ましい。　特筆すべきは、ウオッシュボード演奏のミッチーさんが「広島Hot Cats」へ特別参加されたことである（上の写真、右端）。　ウオッシュボード演奏とは、その名のとおり、洗濯板での演奏である。ミッチーさんは、このウオッシュボードの名人。ユーチューブでその名人芸が鑑賞可能。笑顔が百万両である。　おいらは嬉しくなってサインをねだってしまった。ミッチーさんはいい人である。快諾してもらったサインが下のとおりである。　続いて、「下田卓カンザス・シティ・バンド」。おいらの一押しバンドである（写真下。下田卓氏は左から２人目）。　正統派のトラッドジャズを演奏するのだが、コミックバンドの一面も持つところがまたいい。　具体的にはオープニングが毎回、「St.James Infirmary」で始まるのだが、その曲が途中から「夢は夜ひらく」に変わり、さらに、「ミニーザムーチョ」のハイディハイディホーとなるのである。これは、芸である。　今回のオープニングもこれで、「下田卓カンザス・シティ・バンド」は健在であった。今でも浅草のライブハウス「HUB」で毎月、第３金曜日で公演しているという。嬉しくなってしまう。　下田卓さまからもサインをもらった。　外山喜男（写真下、左から４人目）にも触れなければならない。　云わずと知れた、「日本ルイ・アームストロング協会」会長である。だが、外山氏も今や７９歳であられる。この世界にもひたひたと少子高齢化の波が押し寄せている。　最後に、おいらはジャズオルガンが好きなのである。　今回は「小林創オルガン・ジャム」が光っていた（写真下）。小林創氏の先輩でもあるブル松原氏（ヴォーカル。写真下の白スーツ）とのセッションも見逃せない。　余談だが、「小林創オルガン・ジャム」のメンバーであるトランペットの曽我清隆氏（写真上の左から２人目）は「相鉄ローゼン」（相鉄系スーパー大手）の（６月からの）新社長である。　ほんまかいなと、ネットで調べたら本当である。おいおい。こういうことがあるからデキシージャズはアマチュアの集まりだと分かるのである。氏のトランペットは聴かせるよ。　と、まあ、書き連ねてきたが、ジャズ漬けの一日であった。これは心地よい。帰宅してもジャズのCDを取り出し、おいらは余韻にひたったのである。何度も云うが、ジャズは心を豊かにさせてくれる。ある種のイージーリスニングでもあるからか。人間の本能を目覚ましてくれるでもあるからか（この項終わり）。

  May 17, 2023

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  ４年ぶりの新宿ジャズ祭り（前篇）

  ４年ぶりの新宿ジャズ祭り（前篇）　第１６回「新宿ジャズ祭り」がこの１３日（土）に「新宿文化センター」で開催された。実に４年ぶりである。　このブログで再三紹介しているように、この「ジャズ祭り（「トラッド・ジャズ」＝１００年以上前にアメリカ南部ニューオリンズで誕生した伝統的なジャズが中心。誰もが知っている名曲では、ルイ・アームストロングの「聖者の行進」）」をおいらに紹介していただいたのはおいらのジャズの師匠である、Ｓ氏である。　第１２回（２０１６年）から氏とともにこのジャズ祭りに参加してきたが、この３年間はコロナ禍で開催が中止、そして今回は師匠の体調不良により、おいらだけの単独参加となった。　だが、久しぶりにジャズ漬けの一日となった。これは、心地がよい。人間はどうしてこうも良い音楽を聴くと心がやすらぐのだろう。恐らく脳と関係しているに違いない。母親の中にいるときには目が観えない。だから、耳が発達したのからだろうか。　どうでもいいことだが、おいらは温泉、いや、お風呂が大好きである。心が解放される。これも胎内にいるときに母親の体温でずっと温まっていたのからだろうか。　それはさておき、４年ぶりということもあってか、新宿のジャズ会場は超満員。さらにジャズプレーヤーも約１５０組の参加で、その数は総勢約８００人。いや、こりゃスゴイよ。日本のジャズプレーヤーが一堂に会したのである。　だから、と云うことでもないが、会場は熱気に溢れ、あたかも芋の子を洗うような盛況であった。ただし、コロナの余韻もあって、会場内はアルコール禁止。例年ならプレーヤーを含めて皆がほろ酔い加減でジャズに親しむのだが、今年は勝手が違うのである。　だから、おいらもウイスキーを入れたスキットルを尻ポケットに入れていたのだが、これはお預けとした。　なお、会場である新宿文化センターは老朽化しており、今後、改修工事に入る予定だ、という。だから、来年以降の開催場所は未定らしい。しかし、これほどの会場はなかなか見つからないと思うので、今後は秋のように新宿東口での分散開催になる可能性もある。　さて、おいらの当日は、１３時半過ぎに会場に到着（１１時から開演）、まずは３階のロッカーにリュックを預けて、会場を一通りなめ回した。　３階の小ホールでは、バンジョーの青木研が天下一品の名演奏中である（写真下、右端）。今、日本で一番バンジョーが旨いのは青木研だろう。　４階の会議室も、皆、覗いた。ザ・サーフサイド・ストンプのピアノ、三嶋淳子（写真下、左端）がいい味を出している。　１階のお祭り広場では、相変わらず猪熊橋蔵氏が名調子の司会である。クラリネットメンバーが一堂に会し、演奏をしている。一瞥し、地下１階と２階にも顔を出す。　これであらかた、すべての会場を回ったので今回の開催の雰囲気が分かった。例年のそれそのものである。嬉しい、それ以外に表現しようがない（この項続く）。

  May 15, 2023

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  本好きには、たまらない美術展（後篇）

  本好きには、たまらない美術展（後篇）　グーテンベルクが１５世紀に活版印刷技術を発明して以来、それまでの写本や木版は過去のものとなった（写真は、「鳥類図譜」。館内には撮影可のものが少なからずある）。　活版印刷の発明は中世史上、最も重要な出来事の一つであり、ルネサンス、宗教改革、科学革命の発展の基礎となったのである（活版印刷は全世界に普及し、羅針盤や火薬とともに「ルネサンス三大発明」の一つとされた）。　ま、人類の発展を支えたのは紙の発明と印刷技術の発明と云っても過言ではない。　で、初期の印刷された本と云えば聖書に決まっているが、１５世紀に始まった本の歴史を紐解くと、博物誌が多いのに驚く。それは、動植物はもとより（草本誌や動物誌）、寓話誌、エキゾチックな国の紹介誌などに及ぶ。　だから、この美術展では、かの「エジプト誌」も展示してある。　云わずと知れた１９７８年のナポレオンによるエジプト遠征の成果が纏められた稀覯本である。その現物が目の前で視ることができるのである。ヒェ～。　おいらは一瞬、荒俣宏氏になったのであるが、この手の書物がゴロゴロとあるのだから腰を抜かす。　また、寓意的な叙事詩にも目を惹かれた。　「ペトラルカの凱旋」（１５３９年頃）である。ペトラルカ（フランチェスコ・ペトラルカ）とはイタリアの桂冠詩人のことであり、彼が詠った「凱旋」は古代ローマの凱旋行列を素地にした一大叙事詩である。　この名高い叙事詩の中に、「愛」、「貞潔」、「死」、「名声」、「時」、「永遠」が銅版画（エングレーヴィング）として図像化され、書物となっているのである。　叙事詩では、「愛」と「貞潔」に対して「死」が勝つとする。死はいつの世も不敗である。　だが、その「死」も死後に残る「名声」には負けるのである。　ところが、その「名声」も「時」の流れに消えてゆくという運命である。　まことに時間とは恐ろしいものである。そして、この叙事詩は、結局、最後に残るのは「永遠」しかないとするのである。　時間を超越する概念として永遠を生み出したペトラルカとは只者ではない。　実は、おいらは未だに時間という概念がよく分からない。　実際、哲学を読み漁っても「時間とは何か」は難題の一つとされており、何も解決されていない（余談だが、認知症になると「時間」という概念が無くなり、現在・過去・未来が分からなくなる。だから、朝ご飯を何回も食べる。また、動物にも時間の概念がない。したがって、動物は将来（未来）のことを考えないので心配症にはならない）。　叙事詩がこの「時」を古来から問題視していることに、おいらは興味を覚えたのである。　話しがそれた。　本好きなら町田に行きゃれ。「町田市立国際版画美術館」の「自然という書物」展は、２１日（日）まで開催している。まだ間に合う（この項終わり）。

  May 12, 2023

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  本好きには、たまらない美術展（前篇）

  本好きには、たまらない美術展（前篇）　おいらは、つくづく本好きだと思う（写真下は、「町田市立国際版画美術館」で開催されている「自然という書物」展）。　その理由はよく分からないのだが、一つの理由として、例えばナポレオンが実際に愛した（読んだ）本が手もとにあるとする。　おいらがそれを手にすることによって、ナポレオンと同時代に生きたという感触を味わうことができる。ナポレオンもこの本を愛したのだ、その本を今おいらが読んでいるのだ、という感触である。　それは、陶磁器鑑賞にもつながる話しである。　もし、「鍋島」が手もとにあれば、時空を超えて江戸時代の大名においらもなることができるのである（余談だが、箱根の「岡田美術館」にはこの鍋島がゴロゴロ展示してある。よだれが出るのぅ）。　しかも、本フェチである荒俣宏氏や鹿島茂氏の著作を読んで気づくことは、両氏が海外の稀覯本を購入するにあたり、湯水のごとき代金を嬉々として支払っておられることである。まことに生きたカネの使い方とはこういうことだと知るのである。　ここで何故生きたカネの使い方に言及するかと云えば、カネの至極は人間を幸せにするために使う、である。それ以外は下策である。　これを個人ベースで云えば、カネを使ってモノを手に入れる喜び以上にそれによって心が豊かになることが大切なのである。つまり、良いカネの使い方とは、それによって心の安らぎを得ることである。　特においらのように老い先が短いものは、好きなものと生活をともに過ごすのが達人なのである。　だから、今でも好きな本に埋もれているし（それだけで心が安らぐ）、好きな稀覯本があればそれが遠方であっても観に行く（心が豊かになる）のである。　さて、そのおいらが身震いするほどの美術展が今、町田（地形的にはどう見ても神奈川県だが、東京都である）の「町田市立国際版画美術館」（写真上）で開催されているのだ。　名付けて「自然という書物」（５月２１日まで開催）展である。眩暈がしちゃうよ（この項続く）。

  May 10, 2023

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  本好きの病

  本好きの病　本が好きな人なら知っているのが、「校定」という作業である。「本文校定」とも呼ぶが、例えば、源氏物語を読むとする。源氏物語の原本は現存していないので、写本を基に原本を策定することになる。　ところが、源氏物語の写本は一つとは限らない。おびただしい数の写本を調べると細部は見事に異なっている。そこで、紫式部が書いた原本に一番近いと考えられる本文を定める作業を「校定」と云うのである。　つまり、本好きとは、こういう校定の作業まで好きなのである。ほとんど病気である。　ところで、類似のものに誤植探しというのがある。　評論家の呉智英氏がそれで、岩波新書で誤植を見つけると溜飲を下げるのである。　なぜ岩波かというと、岩波は一流である。生原稿から活字を起こし（今ではパソコンだろうが）、校閲を何度も行うのが一流の出版社の証である。三流出版社と異なり、岩波に誤植などあってはならないのである。しかし、呉氏はそれを見つけては喜ぶのである（二刷りで直ちに修正されるのだが）。　連休明けにこのような文章をなぜ書くかというと、数年前に山中湖にある「三島由紀夫文学館」を訪れたことがある。　なぜ三島とは縁もゆかりもない山中湖に文学館があるのかが当時は不思議であったが（三島の作品の中に山中湖が出てくるものがあるからのようだ）、生原稿と初版本が中心で少々物足りなかった。そのとき残念だったのが、図録が売り切れだったことである。　三島の展覧会はこれまで何度も行われており、一番有名なのは自決直前に開催された東武百貨店のものである。三島自身が企画に携わったためでもあり、自決前だから遺書のようなものである。おいらはこの展覧会を観ていないので残念なのだが（当時、東京にいなかった）、図録を古書店で求め（三島の一般の展覧会の図録は数千円が相場だが、これだけが一万円程度と高価）、その余韻に浸ったものである。　だから、三島由紀夫文学館の図録が手に入ることになれば、今一度文学館の雰囲気に浸ることができると思っていた矢先、この度ネットで図録をゲットできたのである。　それを読んで分かったことは、この文学館は生前瑤子夫人が保管されていた三島の全ての直筆原稿を中心に収録しているということである。つまり、三島作品の「校定」を行うのであれば、ここに行けばよいのである。　本好きのお方は、山中湖方面を散策するのであれば「三島由紀夫文学館」に迷わず立ち寄るべし。

  May 8, 2023

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  今週は連休につきお休み

  今週は連休につきお休み　今週は連休につきお休み、とします。　しかし、「週刊現代」の今週号（５月６日、１３日合併号）の見出しはスゴイ。「『ＡＩ』が人類を５秒で滅ぼす日」、「東京『大地震で消滅する町』マップ」、「６月解散へ！自民党なのに落ちる議員３０」などなど。　久しぶりに週刊誌を読む連休となりそうです。　再開は、５月８日（月）からです。よろしゅうに。

  May 1, 2023

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  日本映像グランプリ優秀作品賞「ヘルメットワルツ」、池袋「シネマ・ロサ」での上映、本日最終日

  日本映像グランプリ優秀作品賞「ヘルメットワルツ」、池袋「シネマ・ロサ」での上映、本日最終日　インディーズ系（東宝などの大手ではないという意味）の映画「ヘルメット・ワルツ」の上映が本日最終日となる。　おいらも本日の千秋楽に映画館に足を運ぶ予定である。実は、この映画を観るのは、ラッシュ（編集）で２回、本番の上映で本日を含め５回の合計７回目である。　佐々木氏の創る自主映画は今回で３作目（ただし、深く関わったのを入れると４作目）。これまでの作品はストーリーを追ったものであるが、今回は文芸作品となっている。　ただ、この映画、もともとは２０１９年にクランクインした。信濃町の新国立競技場が２０２０年までに出来るまでの世相を前回開催の東京オリンピックと比較してみようという試みである。したがって、２０２０年には完成する予定だったが、例のコロナで様相が一変する。　そこで、コロナの時代も併せて映像にしようとしたものが今回の作品である。不思議なことだが、コロナを前面に押し出した映画は未だにない。　そういうこともあって、また、西村監督の才能もあって今回の作品に仕上がった。おいらもシナリオの一部でアドバイスをしたので、エンディングロールの協力のトップにペンネームの柚木惇が出て来る次第である。　ただ、鑑賞したお方の一部のご指摘のとおり、画面の切替りが性急だったり、少々分かりにくい場面もある（ネタバレ注意。例えば、主人公の奥さんは死んだのか？など＜＝＝亡くなっていた奥さんの過去の回想）。　したがって、映画は荒削りながらテーマの良さ（国立競技場完成を支える社会構造（格差）とコロナ禍、また、そこでもがく人間の苦悩とやさしさなど）で優秀作品賞を受賞したものと考えている。　なお、キネマ旬報の映画評にもあるように、いい役者が揃っている（奥さん＝和田美沙、頭領＝林和義、太ったおじさん＝森羅万象、クビになるおじさん＝棚橋ナッツなど）のも幸運であった。　また、７５歳以上になると生死を選択できるとした話題の映画「プラン７５」（主演、倍賞千恵子）の監督である早川千絵氏もこの映画の西村監督にエールを送っている。　なお、池袋の映画館「シネマ・ロサ」はインディーズ系専門としては老舗で、特にレイトショーは登竜門としても有名である。　興行上は、二週間の上映期間で観客が５００名を超えれば及第（一日平均３０名以上）と云われており、初日や舞台挨拶のある日はそれなりに集客していたが、それ以外の日はやはり辛いところである。本日が最終日なのでご興味のあるお方は是非とも池袋まで足を運んで欲しいと思う。　最終日の舞台挨拶に立つのは、西村監督、佐々木和也、林義和、芦原健介、目黒貴之、丸山智巳の予定。　おいらの予定では本日のブログは他の話題を掲げ、本日の最終上映を終えて明日この話題を連休前のものとしてカキコしようと思っていたが、明日ではもう映画が終わっている。観ないのは惜しい。そこで再びこの話題にした。　ご興味のお有りの方はぜひとも「シネマ・ロサ」最終日の本日、足をお運びください。午後８時半開演。おいらもいます。

  April 28, 2023

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  ウエル・エイジング

  ウエル・エイジング　巷では、「アンチ・エイジング」の話しをよく聞く。　特にハリウッドである。そのメソッドはよく分からないが、海外では注射が多いようだ。シワをなくすらしい。　ところが、ネットを観ていたら、ブルック・シールズのウエル・エイジングの記事に目が止まった。　ブルック・シールズ、云わずと知れた「プリティ・ベビー」（７８年、ルイ・マル監督）で１２歳の娼婦を演じてセンセーションを巻き起こした大スターである。　そのブルック・シールズもそろそろ還暦の今や５７歳（６５年生れ。余談だが、今上天皇（現天皇)は、若き皇太子時代、柏原芳恵とブルック・シールズの熱烈なファンだと公言されていた。これはウイキペディアにも掲載されているので、ここで書いても不敬罪にはならないだろう）。　さて、そのブルック・シールズである。　過日、あるファンが、Instagramでブルック・シールズに、「あなたが年を重ねることを恐れない姿が見られてうれしいです。秘密は何ですか？」と質問したのである。　すると、彼女は今年４月１１日に投稿した動画で、次のように答えた。「シワが好きとは云いません、そう云うと嘘になります。　でも、私が云えるのは、私はシワを手に入れたということです。シワは私の笑顔から来ていますから」。　こういうのをウエル・エイジングというのだろう。おいらはブルック・シールズのファンになってしもうた。　赤瀬川源平が生きていたら、彼もまたブルック・シールズのファンになっていたに違いない。「良い老人力」の付け方の見本だと。

  April 26, 2023

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