読書「タフの方舟1」
「タフの方舟1」(ハヤカワ文庫/ジョージ・R・R・マーティン) 「サンドキングス」や「ワイルド・カード」でおなじみの作者による連作短編SF。どことなく懐かしい雰囲気がして、とても読みやすいSF(要するにハードなSFではないということですな)。ロジャー・ゼラズニイやジャック・ヴァンス好きの私のような人間にとっては、まさしく「好み」の一言につきる。 作品の発表順ではなく、年代系列に編纂されたという本書はおかげで初心者にはとっつきやすくなっている。主人公(菜食主義で巨漢、猫をこよなく愛し、人間に触れられることを嫌う)タフが、それまでの商人から方舟を手に入れて環境エンジニアになるまでが第一話。 第二話は環境エンジニア初の仕事であり、また魅力的なキャラクター、トリー・ミューンとの三部作第一話でもある話。 第三話は大自然の脅威(と簡単に言えないけど)の物語。 どれも、非常に凝っていて面白いが、何よりも主人公が際だっている。その慇懃無礼な言葉遣い、他人を煙にまく長口舌、嫌みったらしい台詞の中にひそむ鋭い皮肉。彼は自身の言う通り確かに誠実で善良だ、ある意味。しかし、同時に非常に「やりて」で切れ者でもある。その切れ味は時に鋭すぎるきらいもある。 原文を見ていないので訳文だけで判断するが、このタフの話し方が実にいい。なんともむかつく、いやみったらしい、それでいて憎めない話し方なのだ!! 素晴らしい!(ついでに訳者敬白も面白かった!) 今回読んだのは第一巻。二巻も既に持っているので、あとは読むだけ。楽しみに読んでいきたい。しかし、タイトルすべてが聖書に絡めてあるとか。私は実は聖書には疎いので、そこんとこの機微が今ひとつ理解できず無念。旧約聖書は小説みたいで面白かったから読んだ記憶があるのだけど・・・。やはり欧米文学に触れるためには、新約聖書も一度は読まないと駄目なのかなあ。(個人的には「大蔵経」大好きなんだけど。そっちのほうが好みっス)