6CA7(T)パラPPの解説(15) 高域時定数の設計
高域についてはどうだろうか。出力トランスのところで説明したように、出力トランスを半分のインピーダンスで使っているため、超高域ではインピーダンス特性にピークが出てしまう。それを抑えるために、まずCRによる補正(C2-R2,C3-R3)を行っている。 高域の時定数は実質3段と考えられ、出力トランスのところで2段分(T2,T3)が働き、1段目は初段と2段目の間(T1)である。この他にも各段で時定数は存在しているが、影響の大きいのはこの3段と言うことである。出力トランスの帯域が狭いため、そこ(T2,T3)を第1ポールにするより他無い。この2つの間ではスタガー比を取る余地がほとんどないので、大量のNFBをかけることは不可能である。T2,T3は70kHzと120kHz程度と見積もられた。両者は近いところにあるがどうしようもない。 1段目のT1も、元々の定数では230kHz程度であった。せめてこの時定数は、T2,T3から遠ざけたいものだ。苦心の末編み出したのが中和回路である。図のように時定数の原因となっている2段目のP-G間容量を、逆位相のPからGへの容量を追加することで打ち消そうという寸法である。3.3pFを追加したことでT1は380kHzとなり、ほとんど影響はなくなった。。 出力管周りについて補足である。出力管のグリッドには元々200Ωが直列に入っていた。グリッド電流の測定などに使っていたのであるが、直列抵抗があると歪み率が悪化するため、短絡することにした。10Φ10Tのコイルを並列に入れてある。計算してみると0.5uH位なので、全くコイルとしては機能していないことになる。出力管のスクリーングリッドには、直列抵抗を入れずに直接プレートとつないでいる。SGの損失の点でも、発振防止という意味でも、特に必要はないと判断した。 NFBは8.6dB程度である。NFBをかけることで、左右の利得もそろい、歪みも低くなる。高域の安定度については、時定数がほぼ2段に近い配置であるため、特別な積分補正は設けず、NFB抵抗(1.6kΩ)に微分補正のC(330pF)を並列にしているだけである。600kHz付近に生じるピークが気になったので、入力段にLPF(4.7kΩF×68pF→500kHz程度)を入れることにした。最終的なチェックは方形波特性で見る。定格負荷では10kHzの方形波がオーバーシュートのみでリンギングを生じないこと、0.1uFのみの負荷で発振しないこと、の2点をチェックする。高域特性は、余り補正しすぎない方がよい。適当なところに止めた方が生き生きとした音になる。