ツブコの茶店

私の住んでいる街には、私鉄が一本通っていて、

都心に出る人たちの唯一のアシになっています。

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最寄の駅では、たまに知った顔に出会ったりするものですが、

今日はいきなり、私の目の前に、助役のサカイさんがいました。

サカイさんはホームのふちに立って、上り電車の来る方を見ていました。

電車が来るまで、あと２分です。

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「おっはよーござーる」

私は、去年の屋久島旅行のときと同じ挨拶をします。

屋久島旅行はこの私鉄の主催で、

サカイさんはそのときの団長さんでした。

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「おおっ、元気だなあ、いつも」

「ハハハッ、サカイさんも、いつもさわやかァ」

　　　　　　　　　　　　　　

屋久島の四泊五日の旅では、サカイさんと私は漫才コンビの仲でした。

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「今日はどこ行き？」

「うん、かっぽれのお稽古。京王線まで

電車４コも乗り換えていくんだよ～」

「おう、コジロー線通ってか。ウンウン、

あの線はねえ・・」

と、サカイさんは、少しキチンとした顔になって、説明します。

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１分がたちました。

。。。。。。。

「ところでツブちゃん、８月３１日あたり、忙しい？」

「（おっ、旅行のおすすめかな？）・・・ウーン、いっぱいいっぱいだなぁ」

「そーか、いっぱいいっぱいか。室戸のほうに行くんだけどな」

「オカネのほうも、いっぱいいっぱい」

「わはは、そりゃムリだあ」

「うん、ジャンネン！いっぱいジャンネン！」

「わはははは」「うはははは」

笑いながらサカイさんは、電車の来る方向をチラと見ました。

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１分３０秒たちました。

。。。。。。。

電車の音が聞こえてきました。

「じゃネ。ハイッ、オシゴトオシゴト」

私は背伸びをして、サカイさんの肩を　”ポン”　と叩きました。

サカイさんは

「うーい」とへんじをしながら、目はピカッと線路の先を見ています。

電車が来ました。

私はサカイさんのわきを、もう知らん顔をして通り抜け、

電車に乗りこむと同時に、ドアが閉まりました。

窓の向こうにサカイさんが、

音を消したテレビの画面のように、見えています。

すぐに発車のベルが鳴り、電車は動き出しました。