ツブコの茶店

「えーっ、この涼しいのにクーリッシュ！？　　

寒くないの？」と、トラちゃん。

「寒いだよ。

でも、おいしいもーん」

　　　　　　　　　　　　　　　＊

夏からずっと、私のおやつは、クーリッシュだ。

ソフトアイスを凍らせたようなものだから、

アイスクリームよりさっぱりとしている。

バニラとカプチーノとあるが、だんぜんカプチーノがスキだ。

今日みたいな気温が１４℃くらいな日でも、買いだめを冷凍庫から

出してくる。

　　　　　　　　　　　　　　　＊

「スキだねえ」

「そーよ。クーリッシュは座右のアイスだもんネ」

「ふーん。そんなにおいしいのかねえ」

「スグレモンだよ。カプチーノにシナモンを入れるってところに、

考案者のヒカルもんが感じられるなー（しみじみ）」

「へえ～～」

「大リーグを見ながらクーリッシュをチューチューする。

コレ、至幸至福のひとときです」

「って、さっきから見てると、ちっとも溶けていないみたいじゃん。

チューチューじゃなくて、ウーンウーンて言ってるよ」

「いーの、そのうち溶けてくるんだから。

ウーンウーン」

「手が凍えてない？」

「う、そんなもん、こ、こーすりゃいーの、ホレ」

と、私は着ているジージャンの袖に両手を引っ込めて、クーリッシュを

持ち直す。

「ほらネッ、こうやって、リスみたいに持てば、楽勝さ」

「ま、ご自由にどーぞ。ちょっと床屋に行ってくるね」

クーリッシュを咥えたまま玄関について行く。

「ぅってらっさーい」

両手の指先をそろえて、はの字にクーリッシュささえながら

お見送り。


「わはは、イジョーでいいなあ　　じゃねー」

　　　　　　　　　　　　　　　＊

ベランダにまわって、トラちゃんが自転車置き場にやってくるのを見張る。

西日にあたって、クーリッシュはやわらかくなり、あっというまに

たべてしまった。

トラちゃんの姿が見えたので、いつもの通り、合図の口笛を吹こうとしたら

ぜんぜん音が出ない。口がチューチューのかたちのまま、

すっかり凍えている。


「ふ、ふひっ。

ふう－　－　－－－い

ふいー、　フ、フ、ひ・ひい・ぴ・ピーーーー♪」

やっと鳴ったときは、トラちゃんの姿はとっくに消えていた。