荒れ狂う花粉の中を
『詩人の計画』/第一話『仕立て屋社長と私の話』の概要はこちら今日という日は、風の強い日だった。猛然と吹き荒れる花粉の中を、相変わらずの散歩。それでも、極力花粉を吸い込まないように、いつもの3点セットは欠かせない。帽子、サングラス、マスク。怪しいいでたちで、もくもくと歩く。服をあえてオーダーしようとする人たち。どんなときに服を作ろうと考えるのか。どんな気持ちでオーダーするのか。ぐるぐる、ぐるぐる考えた。その人たちになりきって、なりきったら、同じような心持ちになれるかと、演じることを懸命に試みたが、なかなかどうして、すんなりいかない。自分にオーダーしようという気がないから、やはり同じレベルにまで気持ちを高揚させるのは難しいのか。なりきるべき役に、するりと入ろうと近づくと、さっと遠ざかられるような感じだ。磁石のSとNのように、それはことごとく反発しあう。しまいには、社長に、実際に服を作られた方のエピソードでも聞いてみようかと、ふらふらしていた始末。人の動くところへ、お金が動き、お金が動くところは、その人にとっての価値がうごめくところ。何に価値を見出してお金を出すかは、ほんと人それぞれだなあ、なんて考えていた。自分はこの強風に流され、動かされ、自分の周りには、きっと花粉がうごめいている。「これは大切だ」「これはこうでなくちゃ」「これだけはこだわっている」そういうお金以上の価値を見出せるもの、なんだよなあ。オーダーしてまでも欲しいときの「服」って。あ~、こんなところから作れそうでは。社長の言う「女の執着」はあまり意識せず、思うがままに、出来上がるように、出来上げた。縛りがない、ゆったり感っていいなあ。ゆったりしていると、ゆるゆると詩が湧いてくる。夜、社長に詩を送った。