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テーマ:好きなクラシック(2316)
カテゴリ:ブラームスの日々
先日,旧知の韓国人の留学生から,びっくりするような話を持ちかけられてしまった。
「ブラームスさん,一緒にドイツに行きましょう。」 え? 耳を疑った。 「ワタシは,日本への留学のあとは,ドイツへ行くつもりデス。」 彼は,韓国のエリート公務員。仮にKさんとお呼びしましょう。 Kさんは,年のころは40代半ば。 「その業界で年に一人」という難関を突破して,韓国の公務員を代表する国費留学生として,先日入国したばかり。 でもそんな人にありがちな冷たい天才肌の人ではなくて,あたたかく柔和な努力の人である。 そのKさんの歓迎会での席だった。 その柔和な表情のまま,さらっと 「今度はドイツで会いましょう。」 と言うのだ。 おいおい,僕は狼狽した。 あのですね,Kさん。僕はKさんみたいに全然頭よくないし,ドイツ語だって大学でちょっと勉強したと言っても,いまじゃ「イッヒ・リーベン・ディッヒ」と「レーベンブロイ」しか知らないの。だいいち,日本のうちの業界にそんな留学の制度があるなんて聞いたことないですよ。Kさん,ご冗談を。飲みすぎですよ。 「いや,ダイジョウブですよ。ワタシも日本語勉強始めたのは34歳デスよ。ブラームスさんまだ若いデショウ。日本にもドイツへ留学できる制度ありますよ。ワタシちゃんと調べましたよ。それに,ワタシはブラームスさんの能力を信じてマスよ。」 ・・・ ちょっと待って。 そんなことを眼を見て言われると,嬉しくて涙がでるじゃないか。 「ダイジョウブですよ。信じてマスよ。」 とKさんはかまわず連呼する。 その席にいたうちのヨメさんに,Kさんがこんなこと言ってるけど,と報告すると, 「あら,いいんじゃない。」 とやけに軽い。 Kさん,そう言ってくれるのは非常に有り難いし,とっても嬉しいけど,Kさんのその言葉,にわかに「はい」とも「いいえ」ともお答えでできません。来年度,また会える機会を作りますので,そのときに御返事させてください。でも,これだけは言っておきますが,買いかぶりです。僕はそんなエリートでもないし,そんな能力はありません。 それでもKさんは, 「ダイジョウブですよ,信じてマスよ。」 と言った。 その日はずいぶん飲みすぎたみたいで,次の日のお昼過ぎに,やっとKさんとそんな会話をしたことを突然思い出した。 ねえ,僕はドイツに行くみたいだよ。 とヨメさんに言うと, 「そうよ。」 と当たり前みたいに言う。 みんなして僕をからかっているのかい? ドイツへ そんなことを,しばらく考える。 僕の人生の選択肢の中に,まさか ドイツへ が入ってくるなんてね。 今のところはまだ全然 ドイツへ? だけど, そんな選択肢もあるんだと考えただけでも, そんな人生が待っていると想像しただけでも, 人生に何かを与えられたような気がする。 ドイツへ Kさんの言葉が,僕の心の中でこれからどんな風に育っていくのかはわからないけど,Kさんのその言葉,Kさんのその気持ち,大切にしたいと思う。 トスカニーニのベートーヴェンを聴きながら,そんなことをつらつらと考えながら,降り始めの雪道の中を駅から歩いて帰ってきました。 トスカニーニの音は,意外と暖かかったです。 おわり。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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