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テーマ:好きなクラシック(2316)
カテゴリ:ショパン
僕は,ショパンの第3ソナタには特別な思い入れがあります。 一時期,この曲が本当に手許から手放せなかったことがあって,毎日毎日聴いていました。 そのときのCDはアルゲリッチ。 痙攣するような緊張感のある狂気じみた演奏,という記憶があります。 それはそのときの僕の精神状態そのものだったのかもしれませんが・・・ そういうわけで,おそらくグレン・グールド(以下,「GG」と略します。)の唯一のショパンであるこの録音を大変興味深く聴きました。 ショパン嫌いの彼がこの曲を選びその演奏を残しているのは,きっと何か理由があるはずなのです。 とても不思議な演奏です。 まるでシューベルト聴いているような,繊細でとりとめもないものを感じます。 ためらいがちに始まる第1楽章など,とてもスロー・テンポに聞こえるのですが,意外にもアルゲリッチのそれよりも1分近く早いタイムで終わっています。 私の勝手な憶測ですが,GGは,このソナタ全体を第3楽章「ラルゴ」の世界からとらえようととしたのではないでしょうか。 本来激しくあるはずの第1楽章をこれほど静かにひっそりと演奏しているのは,この楽章を第3楽章の序章という位置付けにしていることにほかならないと思います。 この第3ソナタの第3楽章は,辛く身を切る音楽です。 だれにも痛みを伴う記憶というものがあると思います。 そして,何の前触れもなくそれが突然蘇ってくるということを,僕たちはしばしば経験します。 そんなときは,じっと目を閉じてその痛みが通りすぎるのを堪えているしかありません。 それがちょっと甘美なものを残していくものだから,余計にタチが悪いのですが・・・。 ふと立ち止まって,過去を振り返る。 この「ラルゴ」はそんな音楽です。 そしてGGは,神聖で静謐な世界としてこの楽章を描いています。 第2・第4楽章はGGの独壇場です。 「ああ,またやってくれたな~」という感じ。 ウ~ウ~唸って,猫背でピアノに向かってる彼の姿が目に浮かびます。 蛇足ですが・・・聴いててふと思ったのですが(僕はピアノのことはよくわかりませんが),GGのピアノはソフト・タッチというか,意外にやさしい指の動きをしているように感じました。 おまけです。 アルゲリッチの「アルゲリッチ!」な演奏も,もちろん今でも色褪せることなく素晴らしいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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