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テーマ:お勧めの本(7394)
カテゴリ:ブラームスの本棚
無期囚佐久間清太郎は、極寒の北の大地の刑務所を次々と脱獄した。
関節を自在に外し、壁を蜘蛛のように登る超人的な肉体と、看守の心理と刑務所の拘禁力の弱点を見抜く洞察力、そして何よりも不屈の気力を備えたタフな男だった。 彼は史上未曾有の4回の脱獄に成功した。 しかし、彼は化け物ではなく、ただの人であった。 府中刑務所へ移送されたあと、府中の所長は、これまでの彼の処遇方法~厳重な独居房に閉じ込めて頑丈な手錠でその自由を奪うやり方~を多くの周囲の反対を押し切って180度転換した。拘禁力を大幅に緩和し、人間的な心の目覚めへ訴える処遇法を取り入れた。 そして、それは成功した。 佐久間清太郎は、炊場(刑務所の囚人の食事を作るところ)へ出業するようになり、長い期間、重労働に寡黙に耐えた。 あるとき、「もう逃げないのか」と所長に問われた彼は、 「もう疲れましたよ」と笑って答えた。 所長は、大阪矯正保護管区長へ異動した。ほどなく、佐久間の仮出所が認められたことを知った。 仮出所した佐久間は、保護観察を受けながら、まじめに働いた。 もはや老境に入っていた彼は、普通の人のように、普通に死んだ。 本書は、それだけの話なのだが、極めてリアルで、その文章の迫力は無類。 それは著者吉村昭の「史実よりも忠実な」骨太で繊細な筆によるもの。 ご存知のように、吉村昭氏は、先日、他界されました。 日本人はまたひとり貴重な文豪を失いました。 本書は、故・吉村昭氏の代表作です。 謹んで、ご一読をお勧めします。 そして、もしよろしければ、ちょっとだけ考えてみてください。 看守たちと囚人たちの闘いは、今日もなお、全国津々浦々の刑務所で絶え間なく繰り返されていることだろうと。 その闘いの目的は、いったいなんであるのだろうかと。 答えは、本書の中にあります。 ~蛇足~ 本書はフィクションですが、「佐久間清太郎」にはモデルがいます。 そのむかし、脱獄王と言われた『白鳥由栄』という男がおりました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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