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2006年10月08日
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 我々がコーヒー・ハウスに戻ったのは三時少し前だった。

 レイコさんは本を読みながらFM放送でブラームスの二番のピアノ協奏曲を聴いていた。

 見渡す限り人影のない草原の端っこでブラームスがかかっているというのもなかなか素敵なものだった。

 三楽章のチェロの出だしのメロディーを彼女は口笛でなぞっていた。

 「バックハウスとベーム」

 とレイコさんは言った。

 「昔はこのレコードをすりきれるくらい聴いたわ。本当にすりきれちゃったのよ。隅から隅まで聴いたの。なめつくすようにね」・・・(村上春樹著『ノルウェイの森』より)


 バックハウスとベーム。

 そしてウィーン・フィル。

 最上の組み合わせによるブラームス。

 僕はこの録音を初めて聴いたとき、

 出だしのバックハウスの無骨で大胆なソロに、

 「こんな表現があるのか!?」

 ととても驚いたものだった。

 真のマエストロだけが持つ毅然とした風格により、この録音は仕上がっているが、

 カール・ベームでさえ、この鍵盤の獅子王の貫禄には及ばなかったようで、

 バックハウスの悠揚たる音楽に、壮年のベームが汗を流して必死についていっているのがわかる。

 事実、この録音セッションでは、ベームがバックハウスの迫力に押され、

 「どうしたのだ!諸君!もう一度!!」

 とウィーン・フィルのメンバーを叱咤し、その様子をバックハウスが笑顔で見守っていた、というエピソードが残されている。

 ところで剣道の世界では、竹刀を合わせなくても、立ち会った瞬間から相手の力量がわかるのだそうです。

 どの世界にも、「格」というものが確実にあるんですね。


 今日はとても素敵な秋晴れでしたが、

 僕は役所という名の箱の中で一日を過ごしてしまいました。

 役所の中でイヤホンを通して聴くブラームスの第2コンツェルトも、なかなかオツなものです。

 無機質なコンクリートの中にあって、十分に秋の風を感じることができました。


 バックハウスとベーム。

 この録音、尋常ではありません。

 決して色気のある演奏ではありませんが、ブラームスの聴き手にとって、この録音を避けて通ることはできないようです。

 レイコさんのように。





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Last updated  2006年10月08日 23時01分57秒
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