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カテゴリ:ブラームスの日々
「昨夜はお疲れ様でした」
雪降る役所の朝の玄関で、僕はその初老の職員の背中に声をかけた。 昨夜は、彼の部署でちょっとしたことがあって、彼はとても遅くまで残って後始末をしていたのだ。 もちろん、その「ちょっとしたこと」は彼のせいではなく、不可抗力の事態だったのだけど。 彼は一言も愚痴を言わずに、黙々と自らの本分を果たしたのだ。 もう何十年も繰り返しやってきたことだ。 昨夜も、いつもとおなじように。 そういう彼に対する感謝の気持ちを込めての 「おつかれさまでした」だった。 「どうも」 と無表情に振り向きもせず、親子ほど歳の離れた僕に答えた彼だったが、 数分後、やおら僕の事務室に入ってきて、 「お言葉ありがとうございました。おかげで疲れが取れました」 と頭を下げた。 ちょっとだけ、僕の眼が潤んだかもしれない。 心のこもった挨拶。 言葉とは大切なものなのだ、と思った。 僕の小さな役所は、こういう朴訥な人々によって支えられている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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