音楽は一定の風景に結びつく ~ワルター=NYP マーラー第5交響曲(1947)~
かつて、僕がとても若く、とても孤独だったころ、よく聴いていたCD。 このワルター=ニューヨーク・フィルの第5交響曲は、 彼のマーラー録音の中ではさほど重要ではない位置にいるようだが、 僕にとっては貴重な音楽のひとつである。 戦後間もないモノラル録音は、音質は決して悪くないにしても、あまりよくはない。 しかし、この録音には不思議な力がある。 出だしのトランペットのファンファーレからして、誰も聴く者のいない孤独なつぶやきのようである。 第2楽章の派手で大掛かりな闘争も、あくまで内省的。 中間部のにぎやかなスケルツオも、最後まで自分の殻を破り切れない。 しかし、「アダージェット」になってようやく自分を見つめ、落ち着くことを知り、 フィナーレのロンドは一点の曇りなく明るく晴れやかな音楽となる。 音楽が盛り上がるにしたがって、音質が徐々に上がってくるように聞こえるから不思議である。 たまに、この録音の助けが必要になるときがある。 そして、ワルターはいつも、僕を静かに元気付けてくれるのだ。 あのころと同じように。