階段の上の世間話。
階段の下から階段の上を垣間見るようなことは、働き出してからもありました。 去年の今頃、美術館で派遣司書として働いていたときがそうでした。 そもそも美術館という場所自体が、異世界です。 作品一点の購入に、何十万、何百万のお金が動きます。 収蔵品の性格上、職員はかならず警備員さんのチェックを受けて出勤・退勤。 学芸員さんは人と人とのつながりの中で展覧会の企画を立てたり、論文を書いたり、展覧会のための作品を借りたり化したりします・・・。 展覧会の企画のために訪れる著名人(画家・建築家エトセトラ)もいます。 月に何度かは演奏会がイベントとして催され、テレビの取材も日常茶飯事。 時には映画の撮影もあったりして・・・。 その中で司書は、学芸員や利用者の手伝いをするために存在し、私たち派遣の司書はその下で専門性を要するものの、資料の持つ性格上必要な煩雑で細かい作業や力仕事や整理整頓を任されました。 外での華やかさとは裏腹に穴倉といってもいい、窓ひとつない書庫の中で蛍光灯の灯りと時計を友達にして作業に没頭するという、まさしく「階段の下」の労働状況。 侍女のように若くて華やかな資料室受付、パーラーメイド然とした受付嬢や館内案内嬢のみなさま。 レストランも併設してたのでコックやギャルソンのみなさんもいたし、掃除のおばさんもいたんで、なんとなく「お屋敷に年季奉公しにきた人」な気分でした。 仕えていたのは、館長さんでも上司でもなく、「美と技芸の女神たち」・・・だって、「Museum」は「ミューズの館」という意味があるんですから。