ルリユールおじさん
理論社が再生法適用を申請したという話をtwitterで聞いて驚き、思わず買ってしまったのがこの本でした。どちらかといえば、大人向けの絵本です。物語の舞台はパリの街角。そこに住む少女と、製本職人のおじさんのお話。言葉は少なく、絵から状況を読み込むタイプ。少女が繰り返し読んだ本。その本が壊れてしまいます。美しい絵のついた、古い植物図鑑。繰り返し繰り返し読み、本の背が取れてバラバラになってしまった本を本に戻すために少女は街中を探して製本職人のおじさんを見つけます。おじさん、いや、おじいさんというべきか。ベテランの製本職人は少女(名前はソフィといいます)のためにページを揃え、紙と表紙の革を選び、手間暇を惜しまず本を生き返らせます。 ・・・美しい表紙と、自分のためだけの装丁。お気に入りの本はソフィの本当に特別な一冊となり、彼女の人生を切り拓くきっかけになりました。個人的に、私は本の姿が変わるのがイヤな人間です。できるだけ大事に、買ったときの姿のままでいてほしいのですがそうもいきません。何度も繰り返し読んで、本当にぼろぼろになってしまった本を、より特別なものとして甦らせる技術と職人さんの心ばえは素晴らしいほど。一時期私も仕事として本の修理をしていたこともありますが、それは代えの効かない雑誌や絵本などの修理で、お世辞にもうまいとはいえない代物でした。 日本だと本は大量生産で基本的に工業製品です。私家版で刷るとか自費出版となると自腹を切って工場にオーダーする事に。同人誌やパンフレットの作成などで印刷屋さんに近づく事はあっても、自分の本を修理してもらうところはないでしょ?ヨーロッパでは古書は価値ある財産、日本で言えば書画骨董の書に位置するもののようです。掛け軸の表装をやり直してもらうように、本の表紙や装丁を自分の好みに変えてもらう・・・そういう伝統を感じる一冊でした。