歌舞伎『風の谷のナウシカ』を見る
長らくご無沙汰しております、麗月です。今年は私にとって歌舞伎の年のようです。昨年、『歌舞伎刀剣乱舞 月刀剣縁桐』を配信で拝見し、今年になってからスクリーンで拝見し、その衣装展に足を運びました。そして、『風の谷のナウシカ』をこれまた配信で拝見した訳です。……お能や狂言は学生時代に親しみましたけれど、歌舞伎はまだ直に拝見したことはありません。テレビで拝見するばかりで正直な話、知識はあっても目はあまり肥えていません。いわゆる2.5次元は昔から色々と見ておりますが、女性がメインの演目が主で、男性キャストがメインの作品は『ヘタリア』を娘と見ているくらいでしょうか。初心者でも解りやすくてきゃあきゃあ楽しめるものと、作品世界にどっぷりと浸かって重く考えながら見られるもの…『風の谷のナウシカ』 は演目としては後者でした。1日がかりの通し狂言で、配信を見るのに何日かに分けて拝見しました。難しい原作をかっちりした歌舞伎の様式に落とし込み、長い時間上演する…マラソンみたいな演目です。難易度の高さはお能に近いかな…ただ、板に乗せるジャンルとしては歌舞伎で正解だったかも?と全編通して思いました。というのも、人物の描写や表現が現代劇ではそぐわない部分が多々あるからです。特に道化や蟲使い、僧侶、風の谷の民たちは現代劇の若い役者さんだと表現が難しいだろうな…と。役の位どりとか、土臭い、生活観を覗かせるような雰囲気とか。これは歌舞伎だからこその強みだと思いました。反面、「ここでこうなるのはどうして?」が解らないシーンもありました。特に踊りのシーンがミュージカルで唐突に歌い出すような感じで。これは歌舞伎の文脈に対してあまり慣れていないせいかもしれません。それでも見せ所・見所であるのは間違いなくて、『藤娘』を思わせるナウシカの腐海での舞(王蟲の目の殼が笠代わり…)は自然への思いと若い娘の狂気にも近い一途さ、出で立ちからして『石橋』の、大詰めでのオーマと墓所の主との戦いはいにしえからの勢力と、若い、のちの世の人々の対立を表現した素晴らしいものでした。衣装もうまくイメージを移し変えてて素敵でしたね。和の柄がうまく国々や人を表していて、面白かったです。これから先きものを選ぶ時にイメージしてしまうかも。(ナウシカは雲立湧、クシャナを初めとするトルメキアは鱗模様、風の谷の衆は風車紋とか…)蟲や動物たちもよかった。特にキツネリスのテト、トリウマと言った独特な動物たちがかわいかった…トリウマは騎乗してほしいけど難しいか…これからの課題は、キャラクターの深め方とキャスティングですかね?全体を通して見ると、タイトルロールはナウシカなのに、目立つのはクシャナ殿下やクロトワなんですよね…見ててカッコいいと思う歌舞伎らしいシーンはすべて殿下の持ち場。クシャナ殿下メインで後に大歌舞伎の夜の部にかかったのも納得の活躍ぶり。一方で静かに訥々と世界を救おうとするナウシカの描き方が難しすぎる…生々しくならずに凛々しく説得力を持たせるなら、女性の起用もありなんですが、神々しさを求めるならやはり性別を越えたものが欲しい。若手の実力ある役者さんだと軽すぎるのかな?ユパさまやアスベル、クシャナ殿下、クロトワ、道化と行った周りがピタリとハマってたのに対して、ナウシカやケチャといった若い娘さんを演じる女形に違和感を感じるんですよ…ケチャはいっそのこと、子役を卒業したばかりの、若い役者さんがいいかもしれません。ナウシカはタイトルロールで舞台を引っ張っていかなきゃならないから、そうもいかないとは思いますが、キャラクターとしてのバランスが何とも難しい。透明感としなやかさと知性があって、若い娘なのに母性もある…ピタッとハマる役者さんがいれば良いのですが…。あ…これは人が演じる芝居、映像配信だからこそ見えたものですが、ユパさまやアスベルにあって、ナウシカ役の方にないもので感じたキャラクターとしての要素として目があります。澄んだ目元と迷いない眼差し。座長となると役目上色々難しいかもしれませんが、眼差しの迷いなさは重要だと思いました。