将来、ヴェテリネール(獣医)になりたいという上の娘のエミは、昨年来、犬を飼いたいと繰り返し私たちに訴えていた。
実は、私はそれに猛反対だった。
・まずは、娘たちが犬の面倒を自分だけで見られる年齢に達していないこと。エサの準備やトイレの後始末、躾、散歩・・・・それらの面倒は、間違いなく私の仕事になるだろうこと。
・今年、もしくは来年、カレイチ(アンタルヤの旧市街)の事業所がオープンした後、私はともすれば早朝から夜遅くまで仕事場に詰めることになる。そうなった時、犬の世話はいったい誰がみるのか。
・犬を飼い始めたら、好きな時に好きな場所へ出掛けるということは難しくなる。日本に長期間帰国する際、また国内にしろ旅行する場合、どこに預けるのか。
・病気になれば獣医に診せ、きちんと看病をしてやらねばならない。普段の健康管理にも気を配り、寿命が尽きるまできちんと育ててやる覚悟があるのか。妊娠させないための手術。あるいは仔犬が産まれた場合の世話・手続き。それらはどうするのか。経済的にも時間的にも、それを支えられる余裕があるのか。
などなど、反対理由はいくらでもあげられた。
しかし、トルコ人の夫は、いつもながらの馬耳東風。私のいうことを「細かすぎ」「心配しすぎ」「問題ない」「なんとかなる」と言って片付け、エミに早々に約束してしまったのである。
10歳(トルコ式なので、日本では満9歳)の誕生日にプレゼントとして買ってやろうと。
私はそんな夫と娘に対し、我ながら相当渋い顔をしていたと思う。しかし、父と娘の間でなされた約束については、決定的な干渉はしないことにしている私は、憂慮しつつも成り行きを見守るしかなかったのである。
そしてエミの10歳の誕生日がやってきた。
誕生日から3日遅れでアンタルヤの自宅に戻った夫と一緒に、先週金曜のこと、ペットショップの集まっているチャルシュ(商店街)に出掛けた。
まずは、どんな犬がいいか、値段はどれくらいか、周辺グッズにはどんなものが必要で値段はいくらくらいか、事前調査をするつもりで。
アンタルヤで手に入る犬種は普段でも少ない上、暑い夏の時期はさらに少なくなる。
ラブラドール・リトリバー、ゴールデン・リトリバー、ロットワイラー、ドーベルマン、テリア系(正確には不明)。時にチワワやチャウチャウも見る。映画の影響で、春頃にはシベリアン・ハスキーの仔犬が相当出回っていたが、今は影を潜め、代わりにパグが多くなった。
私自身は、小型で毛足の短いウェルッシュ・コーギーやビーグルなどが好み。肝心のエミは、コムシュ・クズ(隣人の娘)で仲のいいオズレムが黒いオスのラブラドールを飼っていて、一緒にトイレを掃除したり散歩に出掛けたりしているため、ラブラドールが気になっている。ゆくゆくは繁殖させようと、イエローのラブラドールかゴールデンのメスを、とまで考えていた。
ペットショップを端からゆっくりと見て廻る。ゴールデンなんかも可愛いのだが、今ひとつピンとくる仔犬に出会えない。
一番最後に、ハムスターの飼いはじめ以来馴染みになったペットショップで、ふと足がとまった。ケージの中に、2匹のコッカー・スパニエル。起きて動いていた仔犬は、鼻が赤いために皮が剥けたように見え、ちょっとコミック。私はその横で眠っていた一回り大きな仔犬が気になって仕方なかった。店主が仔犬を起こし、ケージから出してくれる。
顔を見た途端、私も娘たちも一目で気に入ってしまった。つややかな毛並み。愛らしい顔立ち。胸に抱き寄せると、つぶらな黒い瞳でひたっと見つめてくる。この時点で、もうこの仔犬に決まったようなものだった。
最初は下見だけのつもりだったのだが、あれよあれよと話が決まった。前金を置き、首輪をつけてもらい、自宅の準備や予防接種(ペットショップが獣医を呼んで最初の1回目はやってくれる)のために余裕を見て、3~4日後に引き取りにくることにした。
エミはペットショップから帰るなり、オズレムから仕入れた知恵を運用し、自分ひとりで仔犬を迎える準備を始めた。バルコンに新聞紙を敷いてトイレとし、使わないオモチャ入れとして放置されていたプラスティック製の3段ボックスを仔犬の世話用グッズ入れとして用意。電気のケーブルは子犬が齧るので危ないからと取り外し、同時にテレビも部屋から運び出した。
3段ボックスには、ティッシュやゴミ箱用のビニール袋、トイレ用の新聞紙、犬用オモチャなどを詰めてあらかじめ準備。後ほどペットショップで買い込む予定のエサやブラシもここに入るはずだ。
最後に、インターネットでコッカーの特長を調べ、名前の候補リストからクッキーという名前を選び出した。
半日でこうした準備を終えてしまったエミは、待ちきれず翌土曜日にペットショップに会いに行くほど興奮していた。
エミの誕生パーティーは翌週の月曜日、つまり24日に行うことになった。
そして、パーティーが終わった翌日か翌々日くらいに迎えに行こうという私たちの提案をよそに、パーティーの時には仔犬にもぜひ居て欲しいと、エミが頑として譲らなかったのである。
招待するのは、同じスィテ(共同住宅)の仲良し友達と、義妹セラップの家族くらいなものではあるが、たくさんの子供たちに手当たり次第に触られ、可愛がられすぎた場合、いったいどういうことになるか。
私の懸念していたことが、すぐに結果となって現れてしまった。
月齢の小さな仔犬は、人間の子供以上に繊細だということを、私はそのときになって初めて実感したのである。
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