ドイツの引っ越しはちょっと大変。
新住居には台所の流し台もガスコンロもありません。
壁はむき出しなので自分で壁紙を貼ります。
でもその代わり、自分の一番好きな色に塗ったり貼ったりできます。
台所はいわゆるシステムキッチンを買うか、引っ越す際に前に住んでいた人から買い取るかします。
システムキッチンは台所の間取りにあったようにできていますから、引っ越した先でまた使えるとは限りません。
それで結局新しいシステムキッチンを新居用にまた買うことになるんですね。
若い人たちは お金が限られているから、入居するとき 前の人からシステムキッチンを安く買い取ったりします。
引っ越していく人たちは、ちょっとでもお金になれば嬉しいから、お互いに話し合って解決します。
私たち夫婦も引っ越すことにしました。
ちょっと広めの住まいに越せるだけの余裕ができました。
今晩、若い男の子が我が家に来ました。
このアパートに引っ越そうかと思って下見に来たのです。
礼儀正しいブロンドの男の子でした。
20歳ぐらいでしょうか。
とっても気に入ってくれたようです。
特に床が気に入ったと言ってました。
我が家の床板は100年以上前の床板をやすりで磨いたものなんです。
これは我が家の自慢です。
お客さんが来るとお褒めいただくのです。
私たちがここに来る前は荒れ果てた状態で、何十年も前のペンキが何度も何度も塗り重ねられて厚さが1センチ近くあったでしょうか。
元の床板にするまで毎日朝から晩まで何日もかかりました。
私も主人も古い建物が好きで、わざわざ古い建物に引っ越してきたわけです。
手間をかけても100年前の床板を復元したかったのです。
キッチンは置いていってくれるんですか。
彼は聞きましたが、私はまだはっきり答えませんでした。
実はこのキッチン、引っ越してもまた使えるようにと思って、システムキッチンではないものを選んだのです。
ブロックタイプのちょっとごっつい、プロっぽいタイプ。
気に入ってくれたのは嬉しいのですが、まだね、若い人たちにぜーんぶは置いてってあげられないのよ、わたし。
このアンティークの床板と、キッチンの床のタイル、これもね、特別なの。
イタリア職人の手仕事のタイルよ、一枚一枚色が違うでしょ。
これはただで置いていってあげます。
こうやって私はちょっとずつ 若い人たちに貢献していくのです。
ちょっとお姉さんになったわけです。