柳美里の世界
今回読んだ本はこれ。 雨と夢のあとに 本の帯には「柳美里、初の怪談」って書いてあるみたいなんだけど、怪談というカテゴリーで括れないほどの、壮大な話だった。 筋書きには敢えて触れないけど…柳美里の筆力に圧倒された。取材の緻密さもすごいと思ったんだけど。どうか生きていて、いなくならないで、ずっとそばにいて…という願いや、人の情念の強さに引っ張られて、心に湧いてくる思いが抑えられなかった。そう、目に見えるものだけが「在る」わけじゃないよね。そう信じたくなる。 私、本を読んで声をあげて泣いたのは初めてかも…いつの間にか、私の最愛の祖父と、雨の父親を重ねていたのかもな。死者にもう一度逢いたい、もう一度話したい…私も常に思ってること。祖父が元気な頃…私がまだ幼児の頃…から「おじいちゃん、年取って死んじゃったとしても、絶対に逢いに来てね。」ってよくお願いしてた。そんな時祖父は、困ったように優しく笑っていたけど、どうして「わかった。」って約束してくれるまでお願いしておかなかったんだろうって、今でも悔やんでるほど。作者も、東氏への思いを重ね合わせながら、これを書いたのだろうか…哀しくて、痛くて、読んでて息切れしそうだった。そうして、雨は、時間を引き留めることも、引き延ばすこともできなくて・・・読み終えて寝ようと思っても、体の芯がそれを拒絶してるみたいに眠れなくて、またラストシーンを読み直して・・・雨の2歳の誕生日にひとりで家を出て行った母親との再会、婚約中でありながら、婚約者を愛し続けながらも自死を選んだ雨の隣人、雨の友人との関係や、初恋であろう北斗とのつながり、様々な背景の紡ぎあわせが本当に見事。 柳美里は「血を流し続ける作家」だなんていわれているけれど、なんだか・・・わかる。「怪談」というのは、死者が蘇ってくる恐怖なんかじゃなくて、「孤独」という恐怖を描きたかったのかな。本当に本当に美しい小説。すっかり柳美里の世界を愛してしまったわ。 やっぱり、次はこれを読みたい。