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私が出会ったちょっと不思議で切ない恋愛物語。
私は恋の主役じゃなくて脇役だけどね。 私は数年前、いろんなサイトを作っていた。 そんなサイトの中に、ちょっとした思いつきで作ったサイトがあった。 それが、 『 Part Time Lover 』 「区切った時間の恋人」って意味で。 当時、そのサイトのトップページには、こんな一文が書いてあった。 恋ができる環境にない人がいる でも、恋がしたい人がいる そんな男女が集まる場所、Part Time Lover ひとときの恋人を、ここで探してみませんか? 掲示板と、チャットと、メールの私書箱があるだけのサイト。 それでも、いろんな男女が集まってきた。 そこのチャットで知り合った28歳のプログラマーがいた。 仕事が忙しくて、なかなかプライベートな時間が取れない。 給料日には、いい金額のお金が振り込まれるけど、 使い道と言ったら、ゲームと漫画くらい。 そもそも、遊ぶ時間がなかったんだ。 彼は、恋愛未経験者。 パートタイムでいいから、恋人がほしい、本気で思っていたみたい。 そんな彼が、本当にパートタイムの恋人を見つける。 最初はチャットで話しただけの女性。 その女性は、チャットをするのも初めてみたいで、 どんなところだろうと、おっかなびっくり参加したみたい。 その時、たまたまチャットにいたのが彼。 いろんな話しをして、お互いに私書箱を作って、メールの交換を始めたらしい。 しばらくして、ふたりは実際に会うことになる。 ここからは彼の視線で説明するね。 ☆。.:*:・’゜★゜‘・:*。.*:・’゜☆。.:*:・‘゜★゜’・:*。.*:・‘゜☆ 実際、会ってみてびっくりした。 彼女はすごくきれいな人。 ろくに恋愛をしたことがない僕には、とても手が届くとは思えない人。 最初、僕は彼女の悩みを聞いただけ。 彼女はすごく大変な環境にいた。 まだ3歳の娘さんがいるのに、離婚した後は、昼、夜ずっと働いていた。 それでも、家賃と保育園のお金を払うとぎりぎりの収入しかない。 働いて、働いて、働いて。 本当に自分の時間なんて全然持てない。 恋をしていた頃を思い出したくて、あのサイトを見てみたという。 「ごめんなさい。娘を迎えに行かないと」 彼女はピンクのかわいらしい腕時計を見て言う。 仕事が終わり、保育園にいく途中に僕と会ってくれた。 でも、彼女には、ほとんど時間がない。 それから、メールでいろいろ話した。 「お仕事、がんばって」 僕よりもずっと長く仕事をしている彼女は、毎朝、そんなメールをくれる。 そのメールを見ると本当にやる気が出てくる。 そんなことが、半月くらい続いただろうか。 僕は彼女に一つの提案をした。 「僕のために、時間を作ってくれないだろうか」 彼女が働いているパートの仕事。 週に一日だけ減らしてもらって、僕との時間を作ってもらう。 その代わりと言っては変だけど、その給料分以上のお金は僕が渡す。 この提案をするとき、「愛人」って言葉がよぎった。 でも、そうじゃない。 パートタイムラヴァー。 僕は彼女とそんな関係になりたい。 この話をしたとき、彼女はびっくりした顔をした。 そして、ちょっと考えて答えた。 「わたしでよかったら」 僕はすごく嬉しくなった。 彼女と、ほんのひと時とはいえ、恋人同士になれる。 僕にも恋人ができる。 僕の仕事の休みにあわせて、彼女もパートのシフトを空ける。 その日、ふたりは恋人同士。 彼女の環境も僕の状況も、すべて忘れて、普通の恋人がするデートをする。 一緒に遊園地に行く。 クルージングデート ちょっと有名なおしゃれな店で食事する。 今までは興味がなかったタウン情報誌。 それが今では雑誌の、お勧めデートスポットは、僕の大切な情報源になった。 「あ、このデートはきっと彼女は喜んでくれるはず」 僕は彼女が喜んでいる顔を見るのが嬉しくて、 いろんなデートを考えて、予約とかして彼女と会える日を楽しみにしていた。 もちろん、デートの後はホテル。 泊まることはできないけど、パートタイムの時間で一緒にいられるとこ。 彼女はホテルの中では、ういういしい。 かわいい彼女が僕の腕の中にいると、 「僕は幸せだなぁ」と本当に思う。 ☆。.:*:・’゜★゜‘・:*。.*:・’゜☆。.:*:・‘゜★゜’・:*。.*:・‘゜☆ パートタイムで働くスーパーのレジ係。 わたしの仕事が、これ。 毎日、毎日、レジに立ち、商品の値段をチェックしてお金を受け取る。 毎日、毎日、それだけで時間が過ぎていく。 仕事が終わると、次の仕事。 コンビニのレジ係。 やっぱり、商品をチェックして、お金を受け取る。 それが終わるのが、夜の9時。 それから、娘を預けている保育園に行く。 この時間まで預かってくれるのは、公共のとこでは無理。 かなり高いけど、預かってくれるとこに頼むしかない。 寝ている娘を連れて家に帰る。 疲れがずっしりと感じる。 でも、家事をしないといけない。 食事の準備をして、食事して、後片付けして、娘をお風呂に入れて、洗濯して、掃除して・・・。 終わる頃には、1時を過ぎている。 6時に目覚ましをセットして眠る。 毎日、毎日、そんなことの繰り返し。 ずっと、このまま歳をとっていってしまうのかな。 そう考えたら、寂しくなった。 そんなときに「パートタイムラヴァー」というサイトを知った。 そして、彼に知り合った。 そのときから、わたしの中に輝きが戻ってきた。 好きな人がいる。 それだけで、生きてる実感があった。 やさしい彼。 彼が資金的に援助をしてくれるから、仕事が楽になった。 無理をして働き続けなくても、なんとかやっていける。 彼に見てほしくて、新しい服を買った。 それまで自分の服なんて、考えたことがなかった。 娘の服もろくすっぽ買えないのに・・・。 彼と会っているときは、昔に戻ったみたい。 何も考える必要がなかった頃に。 彼のことだけ考えて、楽しい時間をすごす。 たった週に一回。 その日をいつも待ち望んでいる。 その日のために、仕事を頑張れる。 楽しい時間。 楽しい関係。 本当を言うと、ずっとこんな時間が続いていくものだと思っていた。 でも、そうは、ならなかったの。 それは、一週間、待ちに待った約束の日。 彼からのドタキャンの電話で始まった。 「ごめん。今日、いけない。仕事がどうしても抜けられない」 最初、本当に仕事だと思った。 でも、そのときを境に、彼のメールの返事が遅くなった。 レスがないこともしばしば。 次の週に会ったとき、わたしは覚悟した。 もう、この時間は続いていかない、と・・・。 たぶん彼に好きな人ができた。 もちろん彼はそんなことを言ったりしない。 相変わらず、やさしい彼。 でも、なにかが違う・・・、どこが違うとは言えないけど・・・。 それからしばらくたって、彼がデートの日以外に会いたいと言ってきた。 わたしのパートタイムの仕事のあと。 ほんの少ししか時間が取れないのを知っているのに。 そして、喫茶店で会った。 「ごめん。実は・・・、好きな人ができた」 それだけ言うと、彼はつらそうに下を向いてしまった。 わたしは、・・・覚悟していたといえ、やっぱりショックだった。 でも、責められはしない。 もともと二人は、本当なら、重なることがない二人だった。 パートタイムの一瞬、お互いに交わっただけ。 彼の前には、いくらでも可能性のある未来がある。 その未来を、わたしが奪うことはできないと思った。 「わかっていたわ」 そう言うと彼はびっくりした顔をした。 「そうね。終わりにしましょう」 わたしは、おだやかに声を出そうとした。 でも、“終わり”のところでは、声がちょっと震えてしまった。 こうして、私のパートタイムラヴァーの時間は終わりを告げた・・・。 ☆。.:*:・’゜★゜‘・:*。.*:・’゜☆。.:*:・‘゜★゜’・:*。.*:・‘゜☆ サイトマスターをしていた私は、すべてが終わってから、このことを知った。 最初はプログラマーの彼からメールで報告を受けた。 私のサイトに来ることをやめるという報告をね。 理由を聞いたら、彼は彼女とのことを話し始めた。 しきりに謝っていた。 私は、彼女が傷ついているんじゃないかと心配になって、彼女にメールした。 でも彼女は、元気にパートタイムの仕事を続けているらしい。 「彼とのことが、わたしにも恋ができるって教えてくれたの。 今は、すぐ別の人、とは思えないけど、きっとまた恋はできるようになると思う」 そして、「彼にめぐり逢えて良かった」 「わたしにも、『新しいことが起きる』と教えてくれて、ありがとう」 私にそんな話をする彼女。 私は何もしてあげてないのに・・・。 ちょっとした思いつきで始めたサイトが、こんな出会いと別れを生み出した。 そう思ったら、切なくて、胸が痛んだ。 でも、このことで私は、誰にも新しいことは起きるんだって、改めて思ったんだ。 少しだけ踏み出せば、誰にも新しいことは起きる。 もちろん、素敵なことがね。 U.E.Mckenzie お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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