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カテゴリ:お題
自転車から転げ落ちて泣いて、困らせた。 彼は、なんでもできる私の王子様だった。 私が自転車から落ちるハメになったのだって、大人用の自転車を軽々と乗りこなす彼がひどく煌びやかな存在に見えて、そんな彼に向かって『恋人同士みたいに私を後ろに乗せて走って』と無理矢理お願いしたからだ。そんな乙女の願いを渋々聞き入れてもらったのにも関わらず、結局私は自分でバランスを崩して自転車の荷台から落ちた。 無様に尻餅をついて歩けなくなった私を(彼が悪いんじゃないのに)彼は申し訳なさそうに自分の背中におぶって家まで送ってくれて。 それは『初恋』と呼ぶのもおこがましい程の淡い淡い恋心と、夢見がちな少女の勘違いだったのかもしれないが、まあ、そんな彼を見て私はますます彼を気に入った。 私は勝手に彼のお嫁さんになるんだと意気込んで散々つきまとって彼の腕に手を回していたが、おそらく彼は他の女の子が好きだという確信もあった。でも彼が照れ屋で、好きな女の子に優しくできないのも、そうそう簡単に「女の子」という動物に冷たくできないのも知っていて、常に彼の腕を捕まえていた。好きな子に優しくできないかわりに、私を否定しないし、私に優しいのだ。 知っていたけど彼の傍にいて、拙い独占欲を満たせるならそれで幸せ。 しかし、そのかりそめの幸せも長くは続かなかった。 私の両親の離婚に伴う転校。 私たちは自力では逢うことも叶わない程、遠く離れる事になった。 引越しの日、父と祖父母が住む家から私たちの荷物が次々と運び出されていき、それを遠巻きに見ている近所の人々の中に、彼の姿を認めたが。 彼は、自ら私に逢いに来てなんてくれないだろう。むしろ世話の焼ける幼馴染がいなくなっていくのを、肩の荷が降りた思いで見ているのかもしれない。 そう思うと、目を合わせるだけで、彼の気持ちも何も分からなくて、何か言いたかったが何と言ったらいいのかも分からなくて、見つめあうだけで声はかけられなかった。 そのまま、彼とはそれきりだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005年06月12日 17時29分08秒
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