『恋人までの距離』
■原題 『BEFORE SUNRISE』 ■監督 Richard Linklater ■脚本 Kim Krizan ■製作年 1995年 ■受賞暦 '95ベルリン映画祭銀熊賞(最優秀監督賞)受賞作品 ■キャスト Jesse:Ethan Hawke Celine:Julie Delpy■ストーリー :★★★★☆ ■映像 :★★★★★■音楽 :★★★★☆ ■総合評価 :★★★★☆-------------------------------■コメント■-------------------------------2005年に公開された『BEFORE SUNSET』はこの映画から9年が経過した後の作品です。-------------------------------■ストーリー■-------------------------------ソルボンヌ大の学生、セリーヌはパリに向かうユーレイル(ヨーロッパ横断鉄道)でアメリカ人新聞記者のジェシーと出会う。大喧嘩している夫婦の騒がしさから逃げるように二人で食堂車へ。簡単な自己紹介から始まり、自分のこと、仕事のこと、家族のこと、幼い日の思い出、死についてなどを語り合う。ジェシーはウィーンで途中下車するつもりでいたが、セリーヌとの会話は面白く、離れがたい。とうとう「一緒に降りてウィーンの街をぶらぶらしよう」と切り出す。2人はウィーンの街へ。残された時間はジェシーがアメリカに帰る飛行機に乗るため、あと14時間しかない。そんな中でのひとつの恋が始まる瞬間を見せてくれる映画です。-------------------------------■ここが見どころ!■-------------------------------ストーリーは至ってシンプル。なのについついス引き込まれてしまう。例えばユーレイルの中で一生懸命ジェシーがセリーヌに途中下車を薦めているところ。ジェシーは「アメリカ人」ではあってもさほどフレンドリーな性格ではない。だけど一生懸命に「降りようよ。一緒にウィーンの街を歩こうよ」と誘っている様子がかわいい!どちらかというとセリーヌのほうが強くて、会話の主導権はすべて彼女が握っている。後半部分で彼女は、ジェシーから途中下車を言い出されたときには一緒に降りることを決めていたと白状するのだけれど、誘ってもらうのを何食わぬ顔して待っている。観客もちょっとわくわくしながら事の成り行きを見守っている。そう、まるで、二人の側でこの恋がどうなっていくかを見守っている気分。この映画の主要キャストが主役二人しかいなくて、二人の会話にフォーカスされる仕組みになっているからなんだろうなぁ。それ以外の出演者はすれ違うだけの「行きずりの人」。 途中下車をしてすぐ、どこに行こうかと考える二人が話しかけた男性二人連れ。 お茶をしていたときに現れた女性占い師 ドナウ川沿いを散歩している時に声をかけてきた宿無し詩人 ボトルワインを恵んでくれたバーのマスター。ウィーンの街を散策しながらいろいろな人達に会う。二人の恋を応援しつつ、自分も一緒にウィーンの街を観光しているみたい。最初は身の周りの出来事や子供の頃の思い出、両親のことなどを話していたけれど二人の会話が「相手の反応を伺う話」になっていく様子が面白い。だって、長い時間をかけて相手のことを知っていくのを、14時間内でやってのけ、セリーヌを口説き落とさなくてはならないわけなのですから!○路面電車(バスだったか?)内でウィーンに降り立ち、まずは質問タ~イム! 「今までで一番セクシーと思った男性は?」 「人を好きになったことがある?」○ドナウ川沿いを散策 「いつも一緒にいたら私のどこが頭にくると思う?」 今までは自分についての話が中心だったけど、相手の反応を気にするようになっていく。○ナイトクラブでピンボールをしながらの会話 「ところで、パリではデートするような相手は待ってるの?」 確信に触れた~! これは絶対気になるところ。○喫茶店に入っての会話 セリーヌが「パリにいる友達に電話する」と言い出し、ジェシー相手に話しだす。 「明日のランチ、一緒にできなくなった。 今、ユーレイルの中で出会った人と一緒にウィーンにいるの。 彼に一緒に降りるように説得されたの。でも降りるということは決めていた。 食堂車で彼のひいおばあさんの幽霊を見たという話を聞いた時、恋したの」 ジェシーが突っ込む。 「彼とつきあうつもりなの?」 「わからない」○ドナウ川に浮かぶヨハン・シュトラウス号の船上カフェにて 「人はいつか死ぬからこそ一瞬一瞬が貴重。」 「もう二度と会えないかもしれない。それが悲しい」 「Telを教えても一度か二度電話しておしまい。それが嫌。」 「いずれ別れる。だから今夜を楽しもう。」 夜になり、二人が別れる時間が刻々と近づいてくる。 別れた後のことを考えるようになる。○恵んでもらったワインを片手に野原での会話。 「一緒にいると楽しい、でももう二度と会えなくなるから一緒にいるのは辛い」 「また会おう」 「『理性ある大人の誓い』を忘れたの?寝るためだからって次に会う約束を とりつけるのは嫌。」 お互いの出方を伺いつつ、言葉で仕掛ける。そうそう、恋愛ってこういう会話のやり取りや探りあいが楽しかったり切なかったりするのよね。そして夜が明ける。ジェシーは空港へ、セリーヌは駅へ向かわなければならない。急ぎ足で二人はセリーヌを見送るために駅へ。この時点では二人の仲には結論は出ていない。とうとうジェシーから切り出す。 「もう二度と会わないなんて言ったけど、嫌だ。また会おう。」 「そう言い出してくれるのを待っていたの。5年後は?」 「長すぎる。1年後は?」 「半年後。半年後の昨日にここで」半年後に再会する約束をして別れる二人。バスの中で疲れきったようなやるせない表情のジェシー。ユーレイルの中でぼーっと窓の外を眺めるセリーヌ。だけどちょっと微笑んでみたりする。ジェシーとセリーヌの表情の対比が印象的でした。二人の表情が違うのは、ジェシーがちょっと悲観的な性格で、セリーヌが楽観的な性格だからか?それとも男女の考え方の違いからくるものなのでしょうか。-------------------------------■キャストについて■-------------------------------イーサン・ホークがとても自然。臆病そうな目は「いまを生きる」当時と変わらず。でも、ほんのちょっと投げやりな男「ジェシー」になりきってましたね。若い頃の突っ走ったり、やるせない経験をし、大人の厳しさを知った上で「ジェシーになった」ってそんな感じがしました。イーサン・ホークはこの手の「未来や現状に不安や不満を抱え、くさくさしている男」を演じるのが上手い。ジュリーが演じるセリーヌはこれとは反対に、不満を自己の中に留めておかないで、発散させて自分のエネルギー源にしちゃえ!というポテンシャルの高い女性。(が、後の作品でこのセリーヌも成長し、「強い女でいる故の悩み」を抱えているというのが 痛いくらいわかるんだけど、これはまた次の機会に。)スクリーンで見ると特に超美人というわけではないんだけれど、とてもチャーミングでした!主役の二人の関係が自然に見え、会話やデートにリアリティを感じられたのは、監督と主演の二人が一緒になって徹底的にものづくりをしていったからなんでしょうねぇ~。-------------------------------■ 英語の台詞 Check it out! ■-------------------------------ジェシーがユーレイルの中でセリーヌを口説くシーン。ジェシーが一生懸命に「このまま一緒に話をしていたい」と口説く。 You know? I have no idea what your situation is but, Oh, but・・・I feel like we have some kind of・・uh・・connection, right? 「君の私生活は何もしらないけど、その・・・僕達すごく気が合うだろう?」「ほぅ~」と思ったのはconnectionの使い方。そもそもconnectionの意味は「接続」「関係」「つながり」「関係性」。「○○にコネがある」の「コネ」もconnectionから来ているんでしょうね。そこから転じて「(相性の良い)関係性」という意味もあるのかしら?と思ったら、ちゃんと辞書に載っていました。「feel a kind of connection to 」で「~に何かつながりのようなものを感じる 」。日本的な言い方にすると「ご縁がある」って感じでしょうか?直訳するとジェシーの台詞は 「僕達って何かつながりのようなものを感じる」となってしまうわけだけど、それを「気が合うだろう?」と訳したのは、うまいなと思う。初めて会って、たいして話もしていないうちに「何か縁があるように感じる」とかって、口説き文句としては、なんか気取りすぎというか上滑りしているでしょ?------------------------------- ■ 総評 ■-------------------------------他の恋愛映画として重要な要素を徹底的に削ったところが逆に面白かったりします。1)例えばワイン片手に野原に寝そべる二人。 キスをして・・・でそのあとどうなったの!???? →次のシーンは夜明けなのでよくわからない。 ただ、セリーヌがワンピースの下に来ていたシャツを着ていなかったりする。 ということは・・・?2)半年後に再会の約束をして別れる二人。 →ていうか、半年後にちゃんと出会えたの!?「見る人のご想像にお任せします。」だからこそ、見終わった後に「あれって結局どうなったと思う?」と会話も弾むし想像も出来る。ちなみに1)に関しては続編である「BEFORE SUNSET」で真相が明らかになります。「BEFORE SUNSET」は「恋人までの・・・」の設定を全て踏襲していて、ほんとの「続編」。この映画だけでももちろん楽しめるんだけど、随所に「恋人までの・・・」の回想シーンが出てくるので、「恋人までの」を見ておくことをお勧めします。続きモノって前作のシーンを使ってくれなかったり、ひどいときには主要キャストすら変わっちゃうこともあるけど、「BEFORE SUNSET」は前作からのファンを裏切らない。ある意味「ファン泣かせ(嬉し涙)」の映画。2つ揃ってひとつの作品なので、ぜひ両方とも見てくださいな。