テーマ:読書の愉しみ(1002)
カテゴリ:読書
近年は進行する老眼の所為もあり、読書にあたる度に楽しいことは楽し いが「何とか読み終る」といった感が拭えない状況になっていました。 そんな中で本日、遅ればせながら読み終えた「天地明察」は、久しぶり に残りページ数が少なくなって来る事での「読み終えて仕舞うことの寂 しさ」を感じさせてくれる良書でありました。 此処で詳しく内容を語りながらの感想は野暮であり、未読の諸兄には 「是非ご一読を」とお勧めするばかりですが、読後の感動の触りを少し ばかり・・・
苦難の末に日本独自の太陰暦を構築した江戸時代の実在人物である渋川 春海。宮廷・将軍家に出入り御免の「碁の達人」にて、「数学者」「天 文学者」「神道学者」という肩書きを見れば、後世から「天才」の一言 で片付けられてしまいかねない人間に光を当て、その一介の人間として 繰り返される挫折と苦悩から生み出される真理・原理への到達過程を、 数理の世界をベースにしながらも、人間としての在り様を問う作者の暖 かい視線を持って見事な「物語り」として仕上げてあります。 「未知こそ自由」という一節にこの小説の真価があります。 前向きな誤謬を肯定し、「真理に辿り着く為に大いに間違うべし」とい う姿勢にも勇気付けられた心持がしました。 正しく本来の「知の研鑽」とは、単なる蓄積では無く「変化」なのだと 考えさせられる一冊でした。
随分と前に映画と小説両方で「博士の愛した数式」を日記に取り上げ、 小川洋子氏の力量を称えた事があります。作品として「天地明察」と比 べると文筆家としての技術・力量で小川洋子氏に長があると私は判断し ますが、難解な印象を受け敬遠されがちな数理の世界を題材とする事は その考証を含めて作家には重労働で、万人に数理への興味と敬意を抱か せつつ人間ドラマとして成立させる沖方丁氏のセンスの良さが感じられ ました。
年代的に強度の「理系コンプレックス」を抱き続けている私は、「文系 の情緒的アクセス」等と言い訳がましく表現して「数理の真理」と 「数理の幽玄性」を並び称し日記や文章にしたりしていますが、いい気 になって少し暴走すると直ぐに専門的な理論や数式に突き当たって手と 脳細胞が止まります。 このサジ加減が微妙に難しい・・・
以前のリーマン予想の日記にも書きました。 輪廻もあの世も考慮しない私ではありますが 「生まれ変われるものなら、数理科学の真理を求める人として生きてみ たい」と再び思わせてくれた作品でありました。
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