テーマ:お勧めの本(7395)
カテゴリ:読書
小説日本芸譚 松本清張著 新潮文庫 490円
30年以上前に一度読んだ本の再読です。 映画の影響か世の中で千利休が何かと話題になる事が多く、私が利休に関心を持つ切掛けとなった当書を思い出して本屋で探して来ました。 昭和30年代に芸術新潮に松本清張氏が連載した我が国の歴史的な芸術家12人の内の10人分が纏められて出版されたものです。 運慶 世阿弥 千利休 雪舟 古田織部 岩佐又兵衛 小堀遠州 光悦 写楽 止利仏師・・・なんと豪華なキャスティング?でしょうか^^ 日本の芸術・芸道史を語る時に欠く事の出来無い古の達人達個々を、松本清張氏が綿密な取材と稀代作家の想像力をもってアンソロジー的手法で短編歴史小説として成立させています。 最初に読んだ時には教養主義的な知識としての「数寄者入門書」の様な捉え方で読んでいたと思うのですが、年齢を経た現在に読み直してみると芸術家、芸道の頭首としての彼等の人間的な揺らぎに思いが及び、彼等の権力・権威への意思が時の政局に翻弄される苦悩も偲ばれます。利休・織部・遠州という孤高にして華麗な数寄者の流ればかりが印象に残っていたのですが、再読してみると此の本の白眉となるのは遠州の芸術芸道への懐疑と、問わず語りで語られる光悦の芸術に秘められる独善的性質への記述こそだと気付かされました。 此処は清張氏独自の社会的視点をもった芸術芸道への卓見でもあり必読です。 我々市井の人間は一人の大家の名をもって一つの芸術の完成を語ってしまう傾向がありますが、それが如何に直感粗雑の極みであるかにも松本清張氏は言及している様に思います。どれ程に至高の芸術や芸術家であっても、人間社会の物語から逃れる事は出来無いということなのでしょう。 歴史ファン・芸術ファンどちらにも楽しめる物語であり、新たな視点も提供してくれる秀逸な一冊だと思います。 読み返してみて良かった^^; お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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