|
カテゴリ:亜爾然丁にて
事の始まりは仲良くさせてもらっている釣り好きの和食屋の板前さんのこんな一言から始まる。 「最近、ドラードが絶滅の危機に瀕しているらしいよ・・・全く釣れてなくて、ドラード目的の釣り宿がバンバン店じまいしちゃってるんだって。」 「へぇ、まぁ前回俺が行ったときも数が減ってるとは釣り宿のオーナーが言ってましたけどねぇ。でもそう言われると何が何でも上げたくなってくるのが釣り師としての使命というか、、全く居ないわけじゃ無いんでしょう??」 「全く居ないってことは無いと思うよ、ただ、数が少なくなってるから釣れるポイントも絞りにくくなってるんじゃないかな」 「なるほど。まぁ何だかんだ言っても俺、5歳の頃から釣りやってますからね。そういう釣れない時の魚の釣り方ってのも心得てますよ。あくまで日本式ですけどね」 「じゃ、行く?」 「いいっすね、行きますか!」 こんな会話から2週間後、今年に入って2回目の連休を貰い、LA PAS(ラ・パス)というブエノス・アイレスから500Km離れた土地まで車で向かった。前回ドラードを釣りに行ったエントレリオスよりも70kmほど上流になるが、本流は同じイグアスの滝から流れる川。70kmばかし上流とは言っても日本の川の70kmとは全く規模も規格も違って、たった70kmくらいじゃ上流だろうが下流だろうが川の幅も水量も何も変わらない。 水質はドンヨリと茶色に濁り、流れもキツイ。水面から10cm、何かを沈めたらもうその物体が見えなくなるほどに濁っている。そんな中を4人乗りのボートで流れに逆らいながら更に上流へ向かう。ボートに乗っているのは板前さん(以下K氏)、当方とそして船長の3人。 今回の船長はシルベスター・スタローンを30kg痩せさせて身長を10cm低くし、筋肉を剥ぎ取り、10歳年齢を足してもっと黒くしたような雰囲気だったので、「シルベー」と名づけてやった。本人にそれを言ったらいたく気に入ったようでウキャキャキャはしゃいでいたので、ムカついたから途中で「ピカチュー」に改名。 当方「ねぇ、最近ドラードが全然釣れてないって本当?ピカチュー」 ピカチュー「はい。前回上がった日ももう忘れてしまったくらい上がってないです」 当方「前回上がった日すら・・・・そうか。で、一体何があったのよ?」 ピカチュー「推定ですが、殆どのドラードがずっとずっと先の上流に行ってしまったようです」 当方「イグアスの滝付近まで、ってこと?」 ピカチュー「そこまでは行かないと思いますけど」 当方「なんでまたそんな上流に逃げるのよ?」 ピカチュー「上流はドラードを釣ってもココとは違って持ち帰れませんからね、食べることも出来ない。だから魚にとったらすごく安全なわけです。」 当方「それって、上流に逃げたんじゃなくてココでの乱獲が原因なんじゃないの?」 ピカチュー「かもしれませんね」 当方「まぁ、幻の魚だからね。そう釣られてもらっちゃ有り難味も薄れるってもんだけど、このくらいが丁度良いんじゃないの。」 ピカチュー「・・・。商売上がったりです・・・。」 当方「俺には関係無いし。あはは」 こんな近況事情を聞いておくのもまた作戦のうちで、前回魚が上がった日を忘れてしまうくらいに釣れていないということは釣るお客が少ないか、魚が少ないかのどちらかだろう。話からするとまず間違いなく後者であることは疑う余地も無い。ということは、つまり他人と同じ釣り方をしていては釣果に期待が出来ないという事でもある。 ・・・・・ 5歳か、それよりももっと小さい頃、父親と釣堀で釣った小さな鯉が当方の釣りデビューだった。 もちろんそんな子供が垂らしている針に魚が掛かるわけも無く、親父が当方の針に自分の釣った魚を引っ掛けて、それを上げてワイワイ釣った気になっていた。釣りに関してのの師匠は親父。小さい頃から川やら海やらダムやら色んな場所で2人で釣りをした。鯉から始まり、野ベラ、ヘラブナ、少しして海で本格的に鯛を釣るようになる。 釣り好きは社会人で一人暮らしをするようになっても止まることは無く、給料の大半がタイヤ代とガソリン代に消えていく中、余った小遣いをコツコツ貯めてダイワの「トーナメント」というリール(3万円くらい)を買ったときその日は一緒に寝たっけ。愛車RX-7で夜は富山の峠を攻める傍ら、その足で朝から黒部川上流で大和岩魚の48cmを上げたときも、上平村で虹鱒の60cmと桜鱒58cmを上げたときも、シーバス77cmを上げたときも粘りに粘って考えに考えた「仕掛け」で釣果を出してきた。 釣り暦25年。その中でも今回が一番厳しい戦いになるかもしれない、そんな不安が頭をよぎる。普段から通える範囲内ならば今回釣果が出なくても次回にその無念を持ち越せるけど、休みが中々取れない以上次回は無いと見て間違いない。 ココに来るには日帰りじゃ無理だから。 どんだけ趣味は釣りです!やら何だかんだ言っても外国で魚を釣るのは二回目。日本に居るときの毎週毎週釣りに明け暮れていた頃から見ると、ココに来て3年でたったの2回とは釣り勘だってどうしても鈍ってしまう。前回2匹釣れたは釣れたんだけど、川の流れの速さは元より、「針合わせ」のタイミングや、キャストしてからの餌の泳がせ方などが自分の知っているものとは微妙に違っていたので最初は慌てたのを思い出した。 「最近ドラードが全く上がってない」 という先入観だけで、ココまで消極的になってしまう。これはあくまで他の日、他の人の釣果であって、勿論当方が何したわけでもないんだけどこの時ほど無用な情報を手にして後悔したことは無い。たとえば「最近ドラードが入れ食い状態」という情報を先入観として持っていれば、もっと前向きな釣りが出来るし派手に攻められる。 積極的に釣ろう!というテンションを忘れ、消極的な攻めが続く当方。それに気づかないまま開始から5時間、時刻は昼の12時過ぎ。釣れども釣れどもピラニアしか釣れない。照りかかる強い日差しと、水面からの反射熱、少しでも森付近に近づいたときの恐ろしいほどの蚊の数。日焼けクリームも虫除けも「時期的にまだ大丈夫だろう」という慢心が少しづつ自らのモチベーションにも影響を及ぼし、徐々に心も折っていく。 投げてはピラニア、投げてはピラニア・・・そんな中、一言も発さず冷静に事を進めていた板前K氏。ココで第一号のドラードを上げる。小型ながらもK氏の針に食いついて、何とか口に引っかかっている針を外そうと水面から空へ飛び立つようにも見えるドラード。 日の光にキラキラと反射する鱗の輝かんばかりの黄金色。 数々数種類の魚を上げてきている当方もこの時ばかりは心臓の鼓動がやけに早くなる。ピカチューも小型ながら久々に見るドラードの姿に「おお!」と叫ばずには居られないようだった。だが、型は小さめの35cm程度だったので即リリース(魚を逃がすこと)。 しかし、結局それから暫く魚のあたり自体が消える。 ピラニアすら釣れない。 こんな事態を誰が予想しただろうか。 開始から7時間、時刻は昼の14時を回っていた。 正午の一番高く上ったお天道様が徐々に西へ沈んでいく。辺りが暗くなる前に帰るとしたらもう時間が無い。残り時間4時間と言ったところか・・・このまま坊主(目的の魚が釣れない事)で終わるのは絶対に嫌だ!と思っても、魚にはそんな熱い気持ちが伝わる訳も無く。向こうも命がけなわけだし。 西日に反射し光るようにうごめく蚊の大群が、直射日光に照らされてまるでカゲロウを見ているように美しかった。 ~次回 制限時間残り僅か!!!果たしてM君は幻の黄金魚と対面出来るのだろうか!!??? 何回も言うけどカメラが無いから、もうね、どうしようもない。豊かな自然をたくさん写したかったんだけどね、残念です。この日のために買っちゃおうかとも思ったんだけど、何となく抑制理性が働いた。ということで、次回をお楽しみに!! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|