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カテゴリ:亜爾然丁にて
アルゼンチンで当方の友達に映画の勉強をしているT君という奴がいまして、まあ、ぶっちゃけポルノ映画関係だったとおもいますけど、そんな彼と映画のことに関して色々話していくうちにそれを見る視点が随分と変わってきてですね。
年齢も近いし、たまに会って酒を飲んでると必然と映画の話になるんですけどやっぱそれ専門に勉強している人から得るものは多大なものがありまして。 何回か書いたことあるかもしれないですけど、当方はほんと映画が好きで、日本に居るときは6本のビデオをレンタルしたら一夜で6本見て次の日に返却という狂った事も何回もしたことあるし、レンタルビデオ店に行っても新作以外はすべてフルコンプリートしてしまって、新作が出るまで見るものが無いような状態が続いた事も数知れず。 といっても、恋愛モノや余りにエグそうなホラー映画は除いてですけど。ちなみにアダルトな方は一人じゃチビッて借りられなかったチキンですが、それはあんま関係なくて、こんなに映画ばっかり見てると自分の好む路線が見て消化した本数に比例して徐々に鮮明になってくるんです。 路線つーのは大まかにですけど、ストーリーだったり、好みの俳優だったり、もっと突き詰めると好きな監督だったり。あーアイツが出てんなら見てみようかな、とか、あーあの監督の初期作品か、ちょっと借りてみよう、とか。 そんな感じで、俳優の演技や、監督の個性的な面白さに重点をおいて今まではずーっと見てきたわけです。 で、普段邦画はあんま見ないんですけど、たまたま最近「仁義無き戦い」などで有名な「深作欣二」の1960年代に撮られた映画をネット動画でチマチマ見てまして、そんな深作作品群に対してある事を不思議に思いT君にこんな風に聞いたことがあります。 「なんかこの人っていつも同じようなストーリーだし、映像も代わり映えしないし、撮影セットも使いまわしみたいに同じだし、彼はもう亡くなったけど何で映画監督として評価されてるのか俺には全く判らん。タランティーノとかから尊敬されてるって聞いて見始めてはみたものの、ちょっと俺には何が評価に値するのかわからん。映画ってのはエンターテイメントだろ?娯楽だろ?料金取ってるんだろ?もっと練りこんでサッパリとシャープにいかんもんかね」 するとT君、 「深作欣二監督の凄さは編集にあります」 と一言。 「あーそういゃ、お前、編集の勉強してるんだったな。ポルノの。で、編集て何?」 「ポルノじゃありませんって。彼の映画の『間』は独特ですよ。フィルムのコマ数もシーン別に最初から最後まで一貫して同じコマ数です。彼は監督の中でもそれのほぼ第一人者でしょう。」 「・・・。ふーん」 と、まるで俺の使ってる包丁はグレスデンなんだけど、ゾーリンゲンも捨てたもんじゃないよ。でも刃が少しだけ硬いね。というようなちょっと深めの専門的な意見を出されて、後日あまりにも悔しいから深作作品を見ながらカットとカットの間の秒数を測ってみたら終始一貫同じ雰囲気のシーンではピッタリ「間」が同じだったからこれには流石にビックリ。 やるな。やるじゃねーか。当方の稼業は普段あまりお客さんの前に姿を現すことの無い裏の仕事なので、そういう決して表から見えない仕事ってのには普通の仕事をしている人よりも若干敏感なところがある。編集っていう仕事も、映画という作品にとったら最重要な仕事なんだけど表立って脚光を浴びることはほとんど無い。せめて業界内で評価されるくらいが関の山だろう。 このことがあるまで、編集って言うものを映画を見るにあたって意識したことが全く無い。かといって映像のリズムがおかしいと不愉快に感じる。パチパチと画面が切り替わるとスピーディに感じるし、キスシーンなんかではマッタリと、画面が切り替わることなくカメラを寄せたり離したり。 そんな事を考えながら映画を見ていると、うわっ!ここでズームが欲しいな~、とか、ここはカメラ流しちゃだめだろ、とか、うまい!この「間」はうまいなぁ!などと別の視点から見えてくる映像をより楽しんで見ることが出来て、更に映画というモノが楽しく感じる今日この頃。こうなると「娯楽」の枠を通り越して複数の人間が一つのモノを作り上げる「作品」「アート」に見えてくるから本当に不思議に思う。 料理にもこういう「間」っていうかテンポ、リズムは大切だけども、書きたいのはそれじゃないんだな。 さて、ここまでは前置きね。 今さっき、休憩時間に松本人志の「大日本人」を見た。Amazonとかでこの映画のDVDを購入した人のレビューを見たらそれはそれはヒドイ言われようなんだけど、松本フリークな当方は誰かがいつYOUTUBEやらにUPしてくれるかなぁ・・とアルゼンチンから虎視眈々とこの日を待ってた。 やっと見つけた。 以下はネタバレ含むから、これから見ようと思っている人は見ない方がいいね。まぁネタバレほどには書く元気ないけど。 彼のコントやギャグは頭をスッキリさせとかないと理解できない事が多く、ツーと言ったらカーみたいな笑いではない。ツーとカーの間にドアがあって、そのドアは見てる側が自らが開けないと理解すらできず何とも面白くないことが多い。で、この映画に散りばめられた笑いはいつもよりも間に挟まれたドアの枚数が多く、見てる方もある種構えて緊張してしまう。 んで話し戻るけど、この映画、結構スゴイ。一つの「娯楽」としては、まぁちょっとナニがアレかもしれないけど、一つの「作品」としては立派なアートだと思う。まず、斬新というか今までに無い目線で話が進むこと。次に序盤からバラバラと散りばめられた伏線がちゃんと回収されてること。んで上にも書いたけど編集のリズム。 この作品の言いたいことは「誰も解ってくれない」、これに尽きると思うんだけど、見る人によってはまた違った絵に写るのかな。これだけ世間にダウンタウン松本、松本って言われて、そう言われてるってことはやっぱり理解されてるってことだし認められてもいるのに監督の言いたいことは「解ってくれない」。 寂しくも感じるし、どれだけ貪欲なんじゃ、とも思うけど100人全員に人間としてもそうだし芸人としても面白いと言われるのも無理な話であって。アク強いしね。もし2作目を撮るのであれば、今度は見る側も更に色々と知識武装しないと理解できないかもしれませんが、期待して待つことにします。 映画っていいよね、ほんと。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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