うしろの人
みなさんは覚えておられますか?『君が連絡してくれるまで、俺からはしないから。 じっくり、ゆっくり考えて。』空港のセキュリティゲートの前で優しく、でも力強く、私を抱きしめながら彼がそう言った。数日前の日記の一部。確かに一ヶ月前、夫は私にこう言いました。そして私はそんな夫をアメリカに置き去りにし、こうして日本に出戻ったわけです。離れて暮らす?こと早一ヶ月。昨日(6/17)私は大学時代の友達と久しぶりに出かけました。行き先はネオン輝く夜の街。素敵な雰囲気のレストラン、美味しいディナー、そして久しぶりに会う旧友たちの笑顔。”なんて楽しい時間なんだろう”抱えているものを全て忘れられたひと時。そう、ひと時。夜も更けて、落ち着きのある良い感じのクラブへ移動し、お酒を数杯。平日なのにどこからともなく人が集まる。大好きな曲が流れ出したところで体を、そして心を動かすためにフロアへ。見渡せば久しぶりにみる沢山のガイコクジン。土地柄、ミリの方々だったのかな。「君と踊りたがっている奴がいるんだけど・・・」”踊りたいなら、勝手に踊ればいいのに。”聞えないフリをして、踊り続ける私。確かに人として、礼儀はとても大切なモノだと思う。でもその場の雰囲気や流れってものがあるでしょ。律儀にお伺いたてなくてもさ、いつの間にか体が触れ合っているそれくらいが理想なんだけどな。しばらくすると急に誰かにしがみつかれた。”え?!?! ちょっと何?!?!”気がつくとさっきまで楽しそうに踊っていた友達トモカが棒立ちでいる。「ねえ、あれ・・・うちのダンナが・・れて・・男・・・」音楽で彼女の声があまり良く聞えない。「何? 聞えないよ。 何? M君来たの? どこどこ?」M君とはトモカのご主人。今夜は急用が出来たとかなんとかで、このクラブで合流することになっていた。薄暗い中入り口の方に目をこらすと、そこにM君の姿があった。「久しぶり! もう遅いよ! 働きすぎだってば!」近づいてきた彼にそう伝える。「ごめん・・・ちょっと用事があってさ。 オレ、トモカに話があるからさ、リコもう少し踊っておいで。」「早速夫婦ですか。 いいですね、まったく。」二人を残し、フロアへ戻った私。そのうち誰かが私のうしろで踊っていることに気がついた。いつの間にか体が触れ合う。そしていつの間にか体が離れる。”そうそう、こんな感じ。 触れているような、触れてないような。”その人は、私との間にあるそんなほんの少しの距離を楽しんでいるように思えた。”同じだ。 私と同じ。”その曲が終わっても、次の曲が終わっても、その人はずっと私のうしろにいた。そして流れ出したあの曲。それは私と夫ダンクが初めて一緒に踊った曲。”この曲は・・・この曲だけは誰とも踊りたくない。”私は体を止め、トモカたちのいるカウンターへと向かおうとした。次の瞬間、私の体は強引にうしろに引っ張られ誰かの腕の中に吸い込まれた。”イタイ! ちょっとなんなの!!”押し返そうにもピクリとも動かず、その腕から逃れることができない。「嫌、離して!」必死で逃げようとする私をより一層強く抱きしめるその人。そしてひと言。「I DID MISS YOU SO MUCH, baby ...」聞き覚えのあるその声。懐かしい匂い。私は全身の力が抜けていくのを感じた。抵抗する必要のない人の腕の中にいると知ったとき、素直に身を任せていた。 『君が連絡してくれるまで、俺からはしないから。 じっくり、ゆっくり考えて。』確かに連絡はしてきませんでした。何の前触れもなく、夫はそこに現れたのです。出戻った私の前に。そして安心しきったように、今こうして私のそばで寝ています。一ヶ月ぶりに見る夫の寝顔。少し痩せたように見えるのは、気のせいでしょうか。そろそろ夕方。いい加減、起こそうかな。(17:20)今日の日記は昔話あり、現状報告あり、なんだかワケがわかりませんね。ごめんなさい。とりあえず、夫が日本に来ました。そして昨夜突然私の前に、いやうしろに現れました。「なんだか丸く収まって、”デモドリ娘”ではなく、ただの”里帰り娘”になったりして・・・」これはさっき電話で友達トモカに言われた言葉。”知ってるでしょ、そんなもんではないのよ。”さて彼のシャワーが終わる前にみなさんのところへおじゃまします。今夜のご報告はまた明日。そんなのいらないですかな?(21:13)タイムアップ。夫が仕事でPCを使うというので、私のPCタイムは終了です。レスの続きはまた後で。(22:29)夫が父に呼ばれて行きました。義息子と義父の話し合いのようです。と、思ったら二人で日本酒なんて飲んでました。なんなんだ、この義理親子。と、私まで呼び出されました。強制連行です。”あーこのまま私書箱チャットしたかったのにー”心の叫びでした。(22:55)「I DID MISS YOU SO MUCH, baby ...」聞き覚えのあるその声。懐かしい匂い。私は全身の力が抜けていくのを感じた。抵抗する必要のない人の腕の中にいると知ったとき、素直に身を任せていた。と、まあこんな日記の終わり方をしたせいでしょうか?みなさんから頂いたBBSのレス、私書箱のメールの中に”素敵な旦那さま” ”行動力のある男” ”置き去りにするなんてもったいない”と、夫ダンクを絶賛する言葉が多いことに驚いている妻です。期待を裏切るようで大変申し訳ないのですが、誤解のないように記しておきます。夫の今回の来日は決してこのデモドリ娘を連れ戻すためではなく、出張の途中に立ち寄った、つまり仕事が目的であり妻はそのついでなのです。今日はお昼過ぎまで寝ていたので、ちっとも眠気が襲ってきませんが、色んな意味でお呼びがかかりそうなので、この辺で失礼します。ちょっとほろ酔いのデモドリ娘でした。おやすみなさい。(0:54)