11月文楽公演、夜の部に行ってきました。演目は、
鶊山姫捨松 (ひばりやまひめすてのまつ)
女殺油地獄 (おんなころしあぶらのじごく)
「女殺~」が見たかったのです。
以前池澤夏樹編集の日本文学全集で、この現代語訳(桜庭一樹 訳)も読みました。読み物としてたいへん面白く、まったく古さを感じさせない殺人事件でした。それで、そののち歌舞伎DVDで仁左衛門さんの演じるものを買ったし、舞台では幸四郎さんの演技を見ています。もともとは文楽作品なので、文楽ではどうなのか?とずっと見たいと思っていました。
そして、これほど面白い作品はないなあと思いました。現代的で、まったく飽きさせない演出。油がこぼれた床で滑りこけながら女に斬りつけるシーンは、少し滑稽でもありながら凄絶で恐ろしい。
出来の良い兄と妹に挟まれた放蕩息子。父親が継父なためワガママを許しているうちに、ひねくれてどんどん悪くなっていくバカ息子が最後には強盗殺人。それも、相手はいつも自分を気にかけてくれていた近所の若奥さん。
両親が自分を思ってくれる姿を覗き見して感激→借金を今日のうちに返さなくては親に迷惑がかかる→しかしそれをいまさら親にも兄弟にも言えない→親切なおかみさんにこれからは真人間になるからと借金を頼む→断られたから強盗殺人!!という普通考えられない思考の過程が面白いのです。
ただ、歌舞伎でも文楽でも、殺人のあとの段を上演しないのが残念です。この男は、懲りずに相変わらず放蕩しているうえに、自分が犯人だと思われたくなくて、殺した相手の法要に顔をだし悔やみの言葉を言う。結局悪事は露見して処刑されるのですが、このあたりもとても現代の事件に通じるものがあるので、ぜひ上演してほしいものです。