おしゃぶり卒業物語 2
息子の「おしゃぶり」卒業作戦、第6日目。午後10時をまわり、そろそろ寝ようかともちかけたら、やっぱり息子は条件反射のように「チュッチュ~!」と叫び、台所へ駆けていった。しかし、当然ながら、あるはずはない。先週までは、確かに台所の洗い場の脇のフックに、いくつもぶらさがっていたのに。思えば、こちらも、ずいぶんと頼りにしてきた。口に入れるものだし、あまりにも使用頻度が高いのでなるべく清潔を保てるよう、常に4~5個はストックして、ローテーションで使いまわしていたのだ。古くなれば、当たり前のように新しいのを買い、「おしゃぶり」にずいぶんとお金を費やした。この親にして、息子はおしゃぶり依存症になるべくしてなったのだ。なんとかせねば!月曜日の朝、チュッチュを洗っていて急に思い立った。単に取り上げるのは、しのびない。言葉が上達し、話の流れもずいぶんと理解できるようになった今今だからできる、卒業作戦を決行しようと心に決める。まずは、長い間世話になったおしゃぶりを思い切ってゴミ箱に。かなり勇気がいったが、ここから始めなければ。そして…「まき~!たいへ~ん!!」と叫ぶ。「どうしたの~?」すかさず駆け寄ってくる息子。「チュッチュがない。どこ探しても見つからないよ」「え?なんで~?」「わからない。どこかお出かけしたのかな?」「お出かけしたのかもね」ちょっと楽しそうな顔になる。 しめた! 私は急いでベランダに出た。「あ~!!見て見て~。チュッチュがお空に飛んでった! ほらほら!見える?飛行機になって飛んでるよ」「え~?ほんとに?」息子が目を輝かせてベランダに 出てきた。一生懸命、空を見上げている。「きっと、蒔が大きくなったから、もう大丈夫って 旅に出たのかもね」と私。 空に向かって大声で「さようなら~」と手を振ってみる「ありがとう~」と言ってみる。 息子はこのメルヘンに見事に乗ってきた。 おもしろがって私と一緒に「さよ~なら~」と 空を仰いで手を振った。 驚いたことに、息子は 「いっぱいネンネをありがとう~」と オリジナルの台詞まで言い放った。 これには、心底びっくりした。 乗りやすい性格に感謝。こうして、卒業物語は幕を開けた。「チュッチュはお空に飛んでいったから、もうない」これを決め台詞に、私はこの日から息子がおしゃぶりを求めてどんなに泣きわめいても頑なに、この物語を演じ続けている。