文章講座
「文章を書く」ということが楽しくてたまらない。最近、なぜかそのことで頭がいっぱいだ。心に浮かんでは消えるよしなしごと。どうしても忘れたくない出来事。誰かに伝えたい思い。必死で言葉を探して、ああでもこうでもないと文章を作っていると、あっという間時間がすぎる。寝る時間さえ惜しくて、それでもさすがに寝なくてはと布団に入っても、さっきはどうしても見つからなかった言葉が突然頭をよぎったりしてたまらなくなりまたごそごそと抜け出してパソコンのスイッチを入れてしまう始末。いったい私は何をやっているのだろう。仕事でもないのに。誰が待っているわけでもわけでもないのに。今の私の仕事は、子育てと家事。しっかり睡眠をとって、家族と笑顔で向き合って、皆が快適に暮らせるように掃除や洗濯やアイロンがけに精を出さなければならないのではないか。しっかり栄養を考えて、おいしい食事を作ることが何より大切ではないか。こんなことをしていて、なんの得になるのかと我ながら呆れる。夫はとっくに呆れ顔で、いつも怪訝な表情で先に布団に入る。日曜日に、北九州在住で芥川賞作家の村田喜代子さんが講師を務める一日文章講座に参加した。文章は人に習って書けるものではないとずっと思っていたから、はやりの文章教室やハウツー本には興味がなかったのだが今回、なぜか妙に行ってみたくなった。村田さんの作品はまだ一度も読んだことはなかったが新聞や雑誌で時々見る、コラムやエッセイはいつもすうっと心に響いてくる内容だったし地方にいて、作家活動を続ける村田さんの生の声を聞いてみたかったからだ。受講者は30人。大半が5~60代の人だった。希望者は原稿用紙3枚の作品を人数分コピーして持参することと言われたので、いい機会だと思い勇気を出して、私も持っていった。30人のうち12人が同じ気持ちで、それぞれの作品を村上さんの教卓に並べた。村上さんは想像通りの気さくでユーモアのあるおばさまで、北九州独特の「ね~」とか「よ~」とか語尾がのびる話しぶりが親しみやすく耳に優しかった。思い思いの気持ちが詰まった12の作品をひとつずつ、書いた本人に音読させた後丁寧に感想を述べていく。言葉は柔らかいけれど、その指摘は鋭く、かつ批評しながらも場を和ませる話術が見事。しかもはかったように、2時間の時間内にきっちりすべての作品を批評し終えたのだ。私は、言うまでもなく、自分にとって今一番の旬である息子のことを書いた。3歳の息子の奇想天外な発言を「息子の名言」と題して。12のタイトルを並べ、まず読んでみたいものとして、なんと先生はまず、私の作品を手にとったのだ。思いもよらないトップバッターである。少し顔を赤らめながらも、なるべく大きな声で音読。この感覚は、小学校の国語の時間以来で懐かしく意外にも心地よかった。読み進めていくうちに、教室に笑いが起こる。先生も一緒になって、ゲラゲラ笑った。読んでいる私も思わず笑う。息子の名言は、私だけでなく息子を知らない人たちにも笑顔をもたらした。すごく嬉しかった。読み終わった後、先生はにっこり笑って「あなたは、文章教室なんて来なくていいです直すところは何もない。このままで充分」と言ってくれた。小さい子供のいる毎日は発見の連続。一番、書くことがいっぱいあって、とっても幸せな時期。今しか書けないことを存分に書いて、宝物を作るべきだと。私、すっかりその気になっている。明らかに気分が高揚している。宝物について、考えている。