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祝祭男の恋人

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カテゴリ:映画をめぐる冒険
          映画『オブローモフの生涯より』
          ロシアの作家ゴンチャロフの原作を
          ニキータ・ミハルコフが映画化。
          他の監督作品には『機械仕掛けのピアノの
          ための未完成の戯曲』『黒い瞳』
          『太陽に灼かれて』など。

―――ところで、もうこの世に存在しない人で、是非この人には会って話がしてみたいなあ、というような人は誰かいますか?

祝祭男】 そういうのって、それこそもう、無数にいるような気がしますよね。
特に肉親とか友人恋人っていう身近な存在だったら尚更でしょうね。
会いたくてもどうしたって会えないわけですから。
もちろん夢の中に出てきたり、意識の片隅にいつもいる、ってことはあるんでしょうけれど、実際に「どう?調子は」みたいにお喋りはできないですからね。
ただ、会ったら会ったで何だか調子狂っちゃうぜ、
ってところもあるんでしょうね。
もちろんそれは相手が死んだときのまま何も変わっていない場合を前提にして言ってるわけですけれども。死んだ人が生きている我々と同時進行的に存在しているってことは私には考えられませんから。

―――ふんふん、で、誰かいます?

祝祭男】 うん、まず、この質問はなかなか面白いから、また折りを見て聞いて下さい。今日の私は何か一番重要な誰かのことを思い出せずにいるような気がしますから(笑)

―――わかりました(笑)

祝祭男】 で、そうですね、学生の頃はまあ、坂口安吾と一度酒を飲んでみたいなって思うことはよくありましたよね。
それから自分と同い年の頃の父親に会ってみたいなって思うこともありました。
もちろん健在ですが(笑)
あと、そうですね、まあこれはたった今思いついたことでしかないんですけれども、小説の登場人物である『オブローモフ』って一体どんな感じの男だったんだろう、ってたまに気がかりに感じちゃうことがありますね。

―――『オブローモフ』ですか?確かそれってロシアの長い小説ですよね?

祝祭男】 そうです。
ロシアの作家、イワン・ゴンチャロフによって1859年に書かれたものです。
現代ではロシアの映画監督ニキータ・ミハルコフによって『オブローモフの生涯より』という名で映画化されてもいます。
小説の方は確か三年程前に岩波文庫から復刻版が出たんですけれども、
何が書いてあったかすっかり失念しちゃいました(笑)。長くって。
でも、映画の方は鮮烈に記憶に焼き付いているわけなんですね。
映画を見ながら独り言で『なんてきれいな映画なんだろう』と呟いたことさえ覚えてます。

―――ふうん。で、なぜそのオブローモフに?

祝祭男】 うん。
オブローモフっていうのは田舎の貴族の出で、もう散々甘やかされて育ってきたわけなんです。で、内面的にはすごく純粋な美しい魂を持っているんですけれども、
その日常といえば、何かをしようっていう意欲が全くなくて、
一日中ベッドの中で寝っ転がっている。
外出はしないし、新聞も読まないし、田舎からの送金で暮らしていて、
いつも買い物のツケに頭を悩ませてみたり、下男を叱りつけたりしている。
でもまあ全面的にいい奴なんです、確かに。
で、なんでそのオブローモフかって言うと、
例えば自分の心の奥底に、ずっと子供のままの部分みたいなものが残されていて、
それを『インナー・チャイルド』って呼んだりするんですけれども、
私としてはそれは『インナー・オブローモフ』なんですよね。
無邪気というよりも、怠惰で、内向的、そして確かに無垢な部分もあって、
でも結局みすみす自分の幸運を取り逃がしていく。

―――それで、そのオブローモフは結局どうなるんですか?

祝祭男】 オブローモフは、本当に美しく麗しい、活き活きとした最愛の女性に出会うんです。で、一人の親友が、オブローモフの汚れない魂を救済しなきゃってんで、彼を励まして間を取り持とうとするんですけれども、
結局どこかの未亡人と結婚して、肥りすぎの脳卒中で死ぬわけなんですね(笑)

―――変な話ですね(笑)

祝祭男】 確かにもう結末読むのはなんか、めんどくさいやって想うくらいなんですけれども、まあ、背景にある農奴制とかは置いておいて、
このオブローモフって男を取り出してくると、
なんというか、一度会ってゆっくり話がしてみたいものだな、
って思うんですね。少なくとも、そういう男にまだ私は会ったことがない。
人生っていうのは百人いれば百通りの生き方があるし、
世の中の流れに逆行する生き方なんてたくさんあると思います。
別にそれはどんな生き方でもいいわけだし、
やるせないわけでも惨めだなとも思わないんですけれども、
なんじゃこりゃ?って思います。

―――世間一般では、どうなんでしょうね?

祝祭男】 さあ、そんなの判りませんよね。
ただ、まあ実際会えたとしたらどうなるかなって思うんですけれど、
話してみたいって言っても、多分交わす言葉なんてひとっ言もありゃしないんだと思いますよね。
向こうも何も言いたくないだろうし、こっちとしてもねえ(笑)
で、多分死んだ知り合いがふっと目の前にやってきても、
多分そんな風にしかならないのかも知れないなって思うんです。

―――はあ、なるほどねえ。何か判るような気もします。
それじゃあ、今日はこのへんで。
それではまた!







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Last updated  Mar 16, 2005 02:22:18 AM
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