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カテゴリ:映画をめぐる冒険
原作 夏目漱石 1985年森田芳光監督が 映画化。主演松田優作、藤谷美和子。 その他の監督作に『家族ゲーム』 『ハル』『阿修羅のごとく』など。 ―――さて、どうですか、祝祭男さんは、毎日を生きる上で心掛けていることは何かありますか? 祝祭男】 そうですね、まあ、なんか最近は、やはり『上機嫌』で生きていこう、 という風に心掛けるようにしていますね。 とにかく、何が起きても『上機嫌』っていう風にね。 陽気にいこうぜ、ゴキゲンでいこうぜ、って思ってます(笑) ―――それはあれですか?深刻ぶるのはしゃらくさいじゃないか、 っていうようなことですかね? 祝祭男】 もちろん、そういうこともありますけども、 抑うつの反動だったり、投げやりな気持ちで言う『上機嫌』ではなくって、 ともかく、『楽しくやろうや』ってところですよね。 『くよくよするなよ、人生は短いんだし』っていう感じで、 自ずと自分の肩を叩くようになってますよね。 いわば『ラテンの血の混入』と呼んでもいいのかも知れない。 髪の毛のウェイブなんかは子供の頃の方が強かったですけれど、 狂おしい歓喜のひとときを過ごしたいという気持ちは年を追うごとに高まっているような気がします。 ―――それは、どういう心境の変化なんでしょうか? 祝祭男】 どうでしょうね。 まあ、まず、私自身小さい頃から、非常に『不機嫌』な子供だったんじゃないかって思っているんです。 それから思春期に掛けて、自分の『不機嫌さ』によって相手をコントロールしようとしていたところがある気がします。 和やかな空気の中に、『不機嫌』の異物感を混入させることで、 相手に気後れや、後ろめたさを植え付けようとしていたんじゃないかな、 って今では思うんですね。 そして、その期間は少し長く続きすぎたんじゃないか、 とも思っている。 つまり、どうしてもっと周りの人間を幸せにしてあげるように振る舞わなかったのかなって思うわけです。 もちろん当時そんなことを思ったとしたら、逆に『不機嫌』の度合いを強めるだけに終わったんじゃないかって思うんですけれども、 まあ、そういうことを含めて、もうそんな気分は終わりにしようじゃないかって思うわけなんです。 ―――うんうん、判る気がします。 祝祭男】 その態度の根っこには、いじけた『復讐心』みたいなものがあると思います。つまり、自分の惨めさ、報われなさを見せつけることによって、 さも相手にも責任があるんだ、 と、そうやって自分の不甲斐なさをなすりつけようとするような、 被害者意識があるんですね。 で、そのことを思うたびに、私は夏目漱石の『それから』に出てくる代助と三千代のことを思い出すんです。 ―――ほうほう、というと? 祝祭男】 『それから』のクライマックスで、代助が三千代を家に呼びつけるところがあります。 三千代は代助の親友、平岡の細君ですが、もとは代助も三千代に想いを寄せていて、詰まらぬ義侠心で平岡のもとへ彼女を周旋してしまった、 という経緯がありますね。そして三年経った今でも代助と三千代はお互いに好き合う仲、ついに差し向かいで直談判しよう、という場面です。 そうして代助は自分の想いを告げる。 『僕の存在にはあなたが必要だ、どうしても必要だ』と。 そして逡巡する三千代に代助は『自分はそれだけの罰を受けている』と言う。 つまり三千代が結婚してから以後三年も、自分は細君を貰わないでいる、 いや、貰いたくても貰えない、という訳です。 そして『あなたが僕に復讐している限りは』と来る。 こんなふうに口では言っているけれども、もちろん復讐ということで気が済むのは代助の方でしかないわけです。 そして私はここに『不機嫌』の論理をまざまざと感じます。 代助の高等遊民としての倦怠、怖れ、 もちろん漱石が書こうとしたことはもっと別にあるんでしょうが、 そこにやはり『不機嫌』の殻のなかにいる幼児性を感じますよね。 ―――なるほどね。しかも、代助の場合は三千代が自分に惚れている、 という強味も持っていますから尚更質が悪い。 祝祭男】 うん、そうとも言えますね。 まあ、それが読む側の楽しみの一つでもあるんですけれども。 ここでもし、一つの三角関係を作り上げている代助、三千代、そして平岡が、 もっと『上機嫌』な性格の人間だったらどうなるんだろう? って考えることがあります。もっとこの三人がラテン度の高い人間だったら、 まあ、こんな込み入ったウジウジした世界は生まれてこなかったんでしょうね(笑) ―――どうなんでしょう? 祝祭男】 ただ、やっぱり私の十代後半からの気風は、 だいぶ代助に似たところがあったような気がします。 ほとんどの男性は代助じゃないか、という気もしています。 ただ、三千代みたいな女性は存在しない(笑) いや、わからないけれども、なんとなくそんな風に思います。 ―――で、祝祭男さんは、その『不機嫌』はもう終わりにしよう、っていうわけなんですね? 祝祭男】 ええ、そうなんです。 そうなると『それから』なんていうまどろっこしい接続詞は使わないで、 狂喜乱舞して新しい仕事を見つけに行く代助になろうじゃないか、というね。 ―――ははは。それはそうと、代助は、あの松田優作さんが演じてましたよね。 あれは良い映画でしたね。 じゃ、今日はこのへんで。 それではまた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Mar 20, 2005 10:28:15 PM
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