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カテゴリ:映画をめぐる冒険
ヴェロニカ・ゲリン

『ヴェロニカ・ゲリン』(2004年公開)を見る。

アイルランドで最大の部数を誇る週刊誌「サンデー・インディペンデント」の記者、ヴェロニカ・ゲリン。麻薬犯罪の暗部を追いかけた彼女は1996年6月26日、凶弾に倒れた。

事実に基づいた映画である。


 ジャーナリストがたった一人で犯罪、暴力、悪意の巨大なシステムに切り込んでいこうとするといった社会派映画は、必然的にリアリティのしっかりした群像劇になっていくことが多いから、社会状況、個人の生活、人生観、それらの一つ一つをじっくりと見たいと思う。
 黒幕の邪悪さが暴かれ、心地よさのなかで物語が終息していくことを愉しめる映画もあるけれど、この映画は事実をもとに描かれているから、パッケージは遺影のように見え、また違った意味合いを帯びている。

 家族を危険にさらし、自分の命を賭けてまで事実と正義を掴み取ろうとしたヴェロニカ・ゲリン、という女性は、その日その場所で、あっけなく、と言ってもいいくらいに簡単に命を奪われてしまう。その事実は当時の社会に確かに影響を与えたということだけど、映画の中では彼女が記事を書いているところがほとんど出てこないし、テレビの取材を受けるシーンこそあるけれど、記者としての彼女が、読者や世間にとってどんな存在だったのかはあまり描かれてはいない。
 多分、ここが事実に基づいた映画であることと、殉職した彼女の名前が映画のタイトルになっていることの所以だと思うのだけど、この映画は社会の構造や、悪を暴いていく正義に重点が置かれるのではなく、一人の母であり妻である女性が最後の日々に、このように振る舞った、という生きる姿を写し取っている。
 だからこそ、ケイト・ブランシェットの淡麗で意志の強そうな顔立ちの中に、いきいきと動き、とどまっては消えていくたくさんの表情がこの上なく美しく見えるのだし、銃撃を受けた直後のあの顔まで描かれなければならなかったのだと思う。
 
 この映画をもう一度見返すとしたら、物語や構造の奥行きではなく、その人の立ち姿の美しさを見るため、ということになるんだろう。





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Last updated  Feb 12, 2006 01:40:02 AM
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