11/25 "コッソットのアズチェーナ" のコッソット抜き
オーチャードホール 15:00~ 3階右手 「天ぬき」というのがあります。蕎麦屋の酒の肴のメニューですが、天ぷら蕎麦の蕎麦ぬきのこと。天ぷらを蕎麦汁に入れて出す訳です。蕎麦は酒の肴にしては腹がくちくなるので、こういう注文の仕方があるわけです。私はまだやったことはありませんが。(だって蕎麦あった方がいいし) 大事なのは、「天ぬき」で抜くのはあくまで蕎麦であって、天ぷらを抜いてはいけません。天ぷら抜いたら、それはただのかけそば。 この公演の正式タイトルは何だったんだろう?「イル・トロヴァトーレ」演奏会形式全曲上演、ということなのですが、実はチケットにも「コッソットのアズチェーナ」と明記してあるのです。そう、この公演は、デビュー50周年となったフィオレンツァ・コッソットの記念演奏会の一環で、御歳70を越した御老体がアズチェーナを歌うというイベントだったわけです。 さて、席について、開演時刻。と、主催者が現れて一言挨拶.......って、挨拶どころではありません。コッソットが急な体調不良でキャンセル!おいおいおいおい。コッソットのアズチェーナからコッソット抜いたら、事実上何も残りませんよ?どーすんの?ざわめく場内。 主催者の提案は、 1:とにかく代役立てて上演します。 2:皆様に本日のプログラムを無償で配布(そういや、開演前に売ってなかった) 3:お帰りになる方には払い戻しを受け付けます。但し後日ですが。 入場前に知らせずに、席に着かせてから発表というのはちょっとずるいですが、まぁ払い戻しは受けるというのだし、向こうも商売だからこのくらいのことはしないとねぇ。加えて体調不良のコッソットが現れてご挨拶。寝てろよ、調子悪いんなら........ 正直迷いましたが、席に着いてることだし、何よりトロヴァトーレというので、結局聞くことにしました。弱いよなぁ、自分。前半だけ聞いて帰った人には払い戻したようですが、恐らくこれが正解。ついつい3幕聞きたさに残ってしまった自分の弱さ加減がなんとも....... まぁ、主催者側の対応は、最初に客を入れちゃうところを除けば、合格でしょうね。払い戻しを受けるチャンスは与えて、途中で帰る人にも払い戻したんだから、それでも残る方が悪いってもんでしょう。長年聞いてるとこれに近い経験はありましたが、これだけやれば十分でしょう。むかしヨッヘン・コワルスキーがリサイタルでキャンセルした時は、ベルリン・コミッシェのオケがモーツァルトの交響曲やって終わったし、カップッチッリが不調だった時は、元のプログラムの半分も歌わずに、代わりに共演の菅英美子(有実子の方だったかな?)が歌って誤摩化しちゃったし。 だからっていって、払ったお金に見合っていたかどうかは別問題ですけどね....... 一言で出来を言えば、田舎芝居のオペラ。場末の劇場で結構頑張っちゃいました、的公演でしょうか。とにかくイケイケ系のパワフルな演奏。でも、トロヴァトーレだとこれでもありなんですよね。いや、一昔前の二流劇場の垢抜けないオペラって、こんな感じなんじゃないかな?昔、壁が開いて2,3年くらいの頃にプラハに行った時を思い出します。 歌手陣は、まぁ立派と言っていいでしょう。ただ、一部PAを入れてたんじゃないかな?少なくとも、4幕とかでマンリーコが裏で歌ってる時は、あり得ない位置に音像がくっきり出てましたから、少なくともあの部分はPAだな。どうせ、元々そんなに期待してないから、そんなことしなくていいのに...... 前半終わって帰ってもよかったのを最後まで聞いてしまったのは、3幕が聞きたかったというのもありますが、レオノーラ役のバルバラ・ザルノヴィツカが割合に良かったから。結構声量があるし、高音も歌えている。ちょっと厳しい部分もあったけれど、なんとか纏め上げていて、これを聞いた時点で「おお、悪くない」という判断をしてました。後半、ちょっとへたり気味だったけれど、まぁなんとか。惹句の「コッソットが認める驚愕の実力派」を揃えましたというのはちょっと言い過ぎだけど、流石に「コッソットの土台」となるには十分なそれなりの面々だったようです。 そこいくと、マンリーコとルーナ伯爵は、悪くはないけどもうちょっと頑張れ~、ってところかなぁ。歌えてるんですけどね。マンリーコは、3幕もちゃんと歌えてて、声もあるにはあるようなんだけど、ちょっとPA入ってるような感じの声で。そうでなくても、カバティーナはいいけどかバレッタが弱い、というのは頑張って欲しいですなぁ。ただ、下手な二期会公演よりは全然良かったですけどね。そういう意味では楽しみはしました。 問題のアズチェーナは、急遽呼んだという森山京子。この人聞いたのも久々ですが、代役でいきなりの割にはちゃんと歌えて大熱演でした。ただ、流石にオケや他の歌手との合わせでは、相当苦労したようですね。まぁ、これは全般に言えることで、オケも東フィルは新国でカルメンをやっている裏なので、失礼ながら二線級でしょう。ただ、この場末感が、合わなさ加減と相俟って、妙な調和(たえなる、ではなくてみょうな、ですが)を醸し出していたのではあります。 うん。最初からこういうもの、と聞かされてたら、絶対行ってないし、多分前半だけ聞いて帰って払い戻しを受けるのが正解だったと思うけど、それほどには悪い気はしない公演でした。でも、これ、トロヴァトーレだからでありまして、これがカルメンだったら速攻で帰ってたな。絶対。 アズチェーナ:フィオレンツァ・コッソット > 森山京子 マンリーコ:ハ・ソクベ レオノーラ:バルバラ・ザルノヴィツカ ルーナ伯爵:スック・サングン 指揮:ニコレッタ・コンティ 東京フィルハーモニー交響楽団 東京オペラシンガーズ