2/13 新国立劇場「愛の妙薬」
新国立劇場 14:00〜 4階右手 ネモリーノ:中井亮一 アディーナ:砂川涼子 ベルコーレ:大西宇宙 ドゥルカマーラ:久保田真澄 ジャンネッタ:九嶋香奈枝 新国立劇場合唱団 東京交響楽団 指揮:ガエタノ・デスピノーザ 演出:チェーザレ・リエヴィ 新国の「愛の妙薬」はこの演出で2010年以来4回目だそうで。多分観るのは3回目だと思うのですが、しかし、正直言うとこの演出は好きではないのだよなぁ。なので、本当は行こうかどうしようか迷ったのですがね。雪も降ると聞いていたし。結局、雪は深夜になってもまだ降ってないのですけれども。 行ってみたら今日はオペラシティの方が休館日。お店が全部閉まっている。なんとまぁ.....それだけでも十分後悔するネタにはなってるんですけれども。楽日がこれというのもちょっと寂しいものではある。 はい。率直に言ってあまりよくなかったと思います。 演出についてはそもそも好きじゃないので、それ以上言うことはないなと。今回はコロナ下と言うことで、合唱団をバラけて配置するとかいった変更はあるものの、まぁ、それで何がどうかなるわけではないし、今更ガタガタ言うものでもない。 問題は、歌唱陣。 前半はあまりに雑さが目立つ出来。雑という言い方はどうなのか、というのはあるかも知れませんが、しかし、雑に「雑」と片づけてしまいたくなってしまうような出来。後半はもう少し戻しては来たものの。 ネモリーノ役が顕著なのですけれども、はっきり言って自分が何を歌ってるのか分かっていないのか考えていないのか、まぁ、そういう歌い方。役に合ってない、という言い方も出来るかも知れませんが、1幕でのそれは「合ってない」というより「そもそも分かってない」という感じかと。 舞台公演で、それぞれの歌手はその役を演ずるのだから、その役をどう捉えるかは各人の自由ではあります。しかし、その役のいわば本来はこの辺だろう、というところの幅は作品により役により変わってくる。その意味ではこのオペラは、はっきりとした読み替えでもしない限り、かなりその幅は狭いと思うのです。そして、この演出は、凡庸でつまらないと私は思うけれど、別段何を読み替えているわけでもない。だから役柄の性格は大して変わらない。 いや、はっきり言いましょう。要するにこのネモリーノは事実上「ただの声のでかいだけのバカ」なんですよね。そこには繊細さがない。2幕では多少はあったかも知れないけれども、基本的にナイーヴ故の傷付きやすさみたいなものは出て来ない。いや、確かにこの役は難しいんですよ。本当は。ただ、それを押し切るのならよほどいい声でないと押し切れない。それこそパヴァロッティみたいにね。そしてパヴァロッティは確かにこの役では単に声だけでなくて秀逸だった。この演出でもシラグーザが歌ったのは確かによかった。 残念ながら今日のテノールは、声はでかいけれども、それだけ。聞いて一発で魅了されるような声ではない。そして、声はでかいけれどもコントロールが悪い。表現力としても乏しい。それならせめて丁寧に歌えば、とも思うのだけれども、そういう歌い方ではありませんでしたね。「人知れぬ涙」だって、そりゃあのくらいリサイタルで歌えば拍手は貰えるでしょう。でも、オペラで役を歌うというのはそういうことじゃないし、そこまで言うほど御立派なわけでもない。悪いとは言いませんよ。ただ、そうだな、言うならば、この人ネモリーノという役をどういう風に思っているのか、つまりは解釈ということですが、それがほぼ感じられなかった。いや、感じた通りに言わせて頂くならば、「ただのおめでたいバカ」と思ってるんじゃないか?というね.......それでもいいっちゃぁいいんだけど、まぁ、薄っぺらいよね。 そこまでではないにせよ、他の役も似たり寄ったり。まぁ、ベルコーレなんかはそういう役だよ、と言われればそうなのかも知れないけれど。でも、アディーナは、ヴェテランの割にはその辺がちょっと弱いんじゃないかと思うのですけれどね。ドゥルカマーラはまだしもだったかもだけれど。 だけれども、敢えて申すならば、この公演全般にそういう意味での「お前は誰だ?」という問いが足りてないんじゃないかという気はしました。ある意味、今時の再演だから、仕方ないのかも知れないですけれどもね。これが、「愛の妙薬」というオペラの難しさかも知れません。これは確かに喜劇なのだけれども、そんなに単純ではないのですよ。むしろ喜劇というもの自体がそんなに単純ではないのだと言うべきか。ただ単にでかい声で外さずに歌えりゃいいってものではないのですよ。 なんとなく昨日の東響の演奏会に通ずるような話ではありますけれどもね。 で、今日のオケはその東響だったのね。どうだったか?と言われると、まぁ、正直言ってオケを云々するほど聞いてる余裕はありませんでした。歌唱陣の方ばっかり気になっちゃってね.... そういうレベルで言えば、つまりはうっかり聞き飛ばしてしまったと言うレベルでは、まぁ、ちゃんと演奏していたのだと思います。明らかにおかしいところも取り立てて気付かなかったし。デスピノーザの指揮故なのかなんなのかはよく分かりませんけれども。少なくとも大事故はなかったと思うし。 歌手の話に戻せば、まぁ、世間一般にはよく歌った、ってことになるのかも知れません。でも、正直に言えば、全然劇として楽しくなかった。真実味が感じられなかった。これは、演出がどうしたっていうことではないし、歌の上手い下手という話とも違う。歌えりゃいいってもんじゃないんですよ。こういう公演ばっかり聞いて、オペラってこういうものだ、って思っちゃう人が、「演奏会形式の方がいい」とか言っちゃうのかしらね。 私だって別に専門的に勉強したわけでなくてただのディレッタントですからね、大層なこと言う割に実態はスチャラカですけれども。でも、今時の人の話(素人さんと評論家の類とを問わず)を聞いていると、そもそもあなたはこの舞台を劇としてどう捉えているのかね、とかつい思ってしまうのではあります。勿論まずそれは第一に上演する側にこそ向けられるべきではあるのだけれどもね。 そういえば、今日の公演、それほど入りは良くなかったのだけれども、3階席が物凄く空いてたんですよね。4列ある内の後ろ2列は殆どいないくらい。これはつまり、B席が全然売れていないということ。B席は会員の事前購入出来る一番安い席なのだけれど、ここがこんなに入ってないというのは、天候のせいではなく、コロナ禍はあるにせよ、この公演かなり集客出来ていなかったということではないのかしらん。それもまた考えどころではあるけれどもね。