3/19 トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア 第84回定期演奏会 (2022年3月)
三鷹市芸術文化センター 風のホール 15:00〜 1階右手 ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61 <独奏アンコール> J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番 〜 ラルゴ シューマン:交響曲第3番 変ホ長調 op.97 「ライン」 ヴァイオリン:前橋汀子 トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア 指揮:沼尻竜典 まぁそんなわけで通常運行に戻る、と..... なのですが、これ、ちょっと悩ましくてね..........勢いで書いてしまわないと書かないなと思って、書いてるんですけれどもね。 実は、珍しく招待券など貰って聞きに行きました。 なので、あんまりネガティヴなことは書きたくないんですけれどもね。ということはネガティヴなこともあるのです。でもまぁ、こちらは何か頼まれてるわけじゃないんだし、気にしないで書くことにしましょう。 三鷹駅から北に向かうと武蔵野市民文化会館、こちらは昔は何度か行ってるわけですが、南に行くと、比較的最近出来た、と言っても前世紀ですが、三鷹市のホールがあるわけです。と言っても私はここに来るのは初めてで、以前2,3回行こうかな、と思って結局行かなかったということがあった程度で。全部で650人くらい入る、まぁまぁ小さめのホールですね。 ここを拠点に活動しているのがトウキョウ・ミタカ・フィルハーモニアで、前身はトウキョウ・モーツァルトプレーヤーズという団体が、1995年以来20周年を機に2016年に改称したのだそうで....計算が合ってないように見えるのは多分気のせいだから気にするな!てなもんで。音楽監督はずっと沼尻竜典。 8,9割方埋まっていましたが、見た感じ地元のお客さん中心という雰囲気。このコンサートの前には、前座じゃないけどユースオーケストラの演奏会もあったようで。まぁ、それはそれでいいんじゃないかと思います。音楽が良ければね。 独奏は前橋汀子。今年演奏活動60周年なんだそうで、いやはや..... 最近はそうでもないけれど、以前は何度か聞いた気はします。 で、そのベートーヴェン。まず、これが凄かった。どう言ったらいいんでしょうね。 正直言うと、私、協奏曲ってあんまり好きじゃないんです。いや、嫌いとは言いませんよ。オーケストラの演奏会であれば勿論聞くし。でも、正直言うと、例えばピアノならピアノ、ヴァイオリンならヴァイオリンのソロリサイタルを聞く方が楽しいと思っている。オーケストラに埋もれてしまって、或いはオーケストラが邪魔をしたりして、いいなと思うことはあまり多くないのです。実は、リヒテルが最後に来日した時は協奏曲の演奏会ばかりで、聞きに行ったけれども、率直に言ってあんまり楽しくなかった覚えがあります。どうせならソロリサイタル聞きたかったなぁ、と。それまで少なくとも2度は聞いてましたしね。ちなみにリヒテルはウクライナのオデッサの出身。いやだからどうしたって話じゃないんだけれども。 閑話休題。協奏曲はそんなに好きじゃないという話。まぁ、私の場合は、それほど独奏者の魅力を見出せない、自分が苦手とするジャンル、ということなのでして。 で、前橋汀子。凄かった。もうどっから聞いても、そこにこう嵌るか、と惚れ惚れとするような演奏。特に、第一楽章のカデンツァ。これが凄かった。私もそんなに詳しくはないのだけれども、そこまでのフレーズを繋ぎつつ、輪唱を思わせるような、というのは妻エリ対位法的と言っていいのか、そんな音楽なのだというのがよく見える演奏。このカデンツァ、一般的なものなのか、そういうところはよく分からないのですが、率直に言って「あれ?この曲ってこんなだったっけ?(面白い!)」と思わせる、そういうカデンツァ、というべきなのか、そういう演奏というべきなのか。演奏が素晴らしかったのは間違いないです。 これに比べるとあとの2楽章は、まぁそこまででは。つまり、普通の素晴らしい演奏、でした。第3楽章の入りとかは、もうちょっとアプローチに何かがあるとよかったのかも知れないなぁ、あ、でも、第3楽章のカデンツァも良かったし、とかまぁそんなこんな。いやまぁごく普通に素晴らしかったですよ。 アンコールにバッハの無伴奏ソナタ3番からラルゴ。これも素晴らしかった。これだけのベートーヴェンの演奏の後にアンコールなんて、無理してやらなくてもいいのに...........何やるんだろう?バッハのシャコンヌ?でもあれは大変だし、でも他にそんなに相応しい曲なんて.............あった。これもまた素晴らしい演奏。 もうね。ヴァイオリンのリサイタルなんて最近はあまりやらないし、やってももっと軽い内容になってしまうような気がするのですが、並のリサイタルよりよほど中身の濃い協奏曲とアンコール。 正直言って、前半終わって、もう帰ってもいいんじゃないかな、と思ったのは確か。いやまぁ、敢えて言えば、このくらいの小さいサイズのホールで、しかも普段あまり座らないような席で聞いてるんだから、そりゃぁよく聞こえるだろうよ、というのを差し引いても、これはとてもいい演奏だった。 で、後半。シューマンのライン。 まぁ、ね。悪い演奏ではなかった、と言いたいところではあります。厳しく言っても凡庸、ってところかな。ただ、まぁ、そういう問題ではないというか...... 正直、ベートーヴェンの時は、まぁ土台にはなってるな、くらいで、そこまで気にはならなかったのだけれども。でも、交響曲として聞くと、やはり気になってしまうことが。 まず、出だしはいいんですよ。きちっとやってる。でも、演奏が進むと、なんかだれてくるというか、何やってるのかよく分からない感じになるんですね。で、一番気になったのが、正直に言うと、「何をしようとしているのかよく分からない」という感じ。これ、他所でも時々そう感じることはあるんだけれども.... 今回顕著だったのは、「ライン」の第4楽章だったかな。管が、コラールを思わせるようなフレーズを奏するところ。ここが、なにを演奏したいのか、どう聞かせたいのか、分からない感じだった。上手い下手の問題じゃないんですね。或いは失敗するとかいうことではなく。そうじゃなくて、この曲の中でこの楽章はこういう楽章で、その中でこのフレーズはどういう意味を持っていて、或いは音楽的位置付けで、だから、こう聞かせたいんだ、というのが全然感じられなかった。これは、失礼を承知で書くのだけれど(とかいうとまるで普段失礼じゃないみたいですが、普段は失礼に感じられてもなんとも思わないので)、アマチュアオケが音出すのが一杯一杯でそんなこと考えられません、に近いような感じの演奏だったんですよね。いや、全体に一貫して演奏出来てない、素人並だ、と言いたいのではありません。実際それほど腕がいいわけでもなかろうとは思いますが。でも、そういうことでなくて、この音楽をどう持っていくのか?というのがスポンと抜け落ちてる感じだった。 別に招待だったからではないんですが、そんなに下手なわけではないと思いますよ。でも、あの楽章は、「ライン」の中で、シューマンがケルン大聖堂のイメージを持って作った楽章の筈で、だから本当はコラール風というのはちょっとおかしいのだけれども、そういう教会に通ずる荘厳さだとか何かを意識していたフレーズではないかと思うのですね。その意味では主題がどうとかでいう問題以前に大事なフレーズの筈。私が受け取る力がなかったのかも知れないけれども、ちょっと不用意に行き過ぎてしまった気はします。その辺は勿論指揮者にして音楽監督の責任も少なくないと思います。 厳しいですけれどね。でも、例えば、前橋汀子は、まさにそういう演奏だったと思うのですよ。あのカデンツァをどう聞かせたいか、どう演奏したいか、表現したいか。全て受け取ったという自信も正直無いにせよ、なるほど音楽とはこういうものだよなぁ、と思わせる。それ聞いちゃった後ではね.... コンサートとしては十分楽しめました。でも、まぁ、オケとしては、どうかなぁ。そういう演奏会でした。