NYブックピープル物語
泣けました。 と言っても著者に読者の涙を誘う意図は全くないと思いますが…自分の記憶と重ね合わせて、勝手に感動してしまいました。本のタイトルは NYブックピープル物語 ~ベストセラーたちと私の4000日~ 著者は 浅川港(あさかわ・みなと)さん。 (NTT出版。 定価2,200円+税)1989年から2000年まで、講談社アメリカで米国市場を相手に英語の本を出版し続けた浅川氏自身の記録です。終始、控えめに、そしてユーモラスに、ニューヨークでの11年間が綴られています。でも実際にしたことは、米国の地で実質的に一から会社組織を立ち上げ、人脈を築き、商品を開発し、販売戦略を練り、ベストセラーを生み、社内の人事労務管理にも心を砕き、そして会社として利益を上げ続けたこと、などなど… ネイティブでもかなりの実力がないとできないことばかりです。講談社アメリカは確実に、そして見込み以上の実績を残し、アメリカ出版界の中でも主流の分野において確固たる地位も築くのですが、日本の親会社は2000年に、アメリカの子会社の事業規模大幅縮小を決定します。これを受けて浅川氏は同社副社長を辞し、日本へ帰ることとなるのです。この本には親会社への恨みつらみは一言もありません。チャンスを与えてくれた親会社への感謝と実績を残せたことへの満足感でこの本は締めくくられます。先ほど、自分の記憶と重ね合わせた、と書きましたが、私自身、アメリカで浅川氏のようなスゴイことは一つもやっていません。インターンとして周囲に引っ張られ、助けられながらなんとかその日を過ごしていた、というのが私の米国生活の実態です。それでも、浅川氏の文章を読みながら、「アメリカに暮らす日本人」だった頃の記憶が次々と蘇り、共感しまくりました。特に親会社の都合による事業規模縮小のくだりには、当時、日本のボスに感じた怒りまで一緒に蘇ってきました。日本から送られてくる指示、指令、命令を、外国で受けたときの違和感。結局は "You're the Boss!" と従わなくてはいけないとは知りつつも、送られてきたその文章からは日本の小さな会議室の中でネクタイ姿のオジサンたちが額を寄せ合っている様子が思い起こされ、ピントがはずれ気味の指示内容とも相まって、どうしても何か一言、言ってやりたくなったものでした。日本への帰国が「収監」にも思え、帰らずに済む方法をあれこれ考えたこともありました。真偽は不明ですが、「米軍にしばらく入れば国籍がもらえるゼ」という米国人のアドバイスにも惹かれてみたり… でも結局、帰国しました。帰国の日、ロサンゼルスの空港で日本航空の機体を目にした瞬間、「これで命の危険を感じる日々から解放される。日本人という肩書きからも解放される。」と安堵したことも事実です。矛盾していますが。話を本に戻します。出版業界に限らず、アメリカでのビジネスの流れが具体的に書かれています。また、人生の選択肢について改めて考えさせてくれる本だと思います。著者自身、「2,000円を超えると高いと感じる」と本書で書いていながら、この本は税別で2,200円。少々お高いです。でも面白い本です。お勧めです。(この画像をクリックするとショップへジャンプします。よろしければどうぞ。)