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世界が朽ちた。
巧みな情報処理が、自然の全てを予測可能にし、人に天災が降り注ぐのは過去の話となる。 後に、環境の制御がはじまり、計算に基づいた統制で人に理想的な環境を用意した。 無論、天災をも制御する事となる。 しかし、長年に渡る環境の強制は、惑星自体に多大な負荷をかけた。 目に見えぬ所で徐々に予定調和は崩れ、それは突如始まった。 巨大な南の大陸の中央、砂漠化も抑制され緑の増えた元砂漠の中心。 地面は地下数千キロに渡り陥没。 中から噴き出した溶岩に焦がされ、視界は灰に染まり黒一色となる。 そこを端切れに、大陸は次第にその崩壊を急ぎながら地表の四割が陥没。 空には常に灰が舞い、光も届かなくなる。 地面は灰が積もり、色と生気を失う。 それから地表の陥没はものの若干、ペースを落とすも定期的に陥没と噴火を繰り返し、惑星として崩壊へ進んでいる。 当然言うまでもなく、人類の文明は奇っ怪な現象になす術などあるわけもなく、天災への耐性ともいうべきか、意識もないがため肥大した142億の人口も50億近くになった。 文明崩壊に伴い、まともな連絡手段は直接の会話、主な移動手段は徒歩になる。 そう、陥没噴火で人類の比類無き誇りだった大都市、巨大産業は跡形も無く陥没もしくは噴火による溶岩と落下岩により消え失せたのだ。 その後、行き場と未来を失った人々が、果てなき黒の世界をさ迷い続けた。 その一端の物語。 あるところに一人の女性がいた。 名はミリという。 陥没噴火により、郷土、家族、母国をも失い、どこも分からぬその世界をさ迷っている。 絶望に瀕した彼女の前に、突如トラックが現れる。 もうこの世界に乗り物など数えるほどだろう。 しかし眼前に広がる光景に人々が群がり、トラックを乗っ取ろうとする。 その場で彼女は何も出来ないが、トラックが過ぎた後ろに大量に転がる死体を漁る。 少しの食料、少しの衣服が欲しいのだ。ついでに、杖代わりの猟銃も。 当然、漁るのは彼女だけではない。周囲の人間、鳥獣が群がり、死体の身包み剥がすのだ。 極たまに生きた人間同士のぶつかり合いもあるが、それは少数である。 ほっとけば勝手に死にゆく人を相手にわざわざ危険を冒してまでは動かないのが、本能。 だがそれでは足りず、集団で漁るまるで盗賊のような存在も、至極当然いる。 そんな中で遺体を漁るなど、罪と言えるほどのものではない。 しかし、ミリも最初は躊躇というものがあったが、自然と消えたのだろう。 食料を探す彼女を包み込むように地鳴りがする。 普段は声も上げない人々が慌てだす。陥没に、噴火だ。 はるか地平線、大量の灰が舞い上がり、地平線は形を変える。 誰もがそれを見て逃げる。戸惑う人。まるで小動物の様。 ミリは陥没をほんの数mのところで逃げ切る。 安心か、好奇心か、陥没した穴を覗きに歩み寄ると穴の絶壁にいた人が突如飛び出しミリの足首を捕らえる。 こけるミリ。必死に我が身を守ろうとする、人間。 咄嗟に取り出した猟銃に、ミリは本能か、意図的なのかその人間の顔に向ける。 弾など入っているはずも無く、そのまま殴り飛ばし、奥深く、赤く光る溶岩へと姿を消す。 起き上がり立ち去るミリ。 しかし、ある程度進み、振り返り戻る。 人を殺めたのだ。軽いわけが無い。穴を覗き込む。 こんな世界で生きながらえる位なら死んだほうがましだ、まして人を殺めた人間など…。 それは人として当たり前の思考であり、引き止めるものはないだろう。 しかしミリの腕を、何者かが掴む。ともに男の声。 死んでも地獄は代わりはしない。生きて、変貌を垣間見ろ。それから死ぬがいい。 流暢な言葉だった。 世界が、国としての体制を崩壊させてからというもの、言語は無意味な手段となっていた。 隣を彷徨う人が知らない言語を使うのは、国境を失ったこの惑星では当然であり、意思疎通の誤解は危険を伴う。 そんな状況で話すわけが無い。 何故、言葉が分かるのか、何故、私の母国語がわかるのか、ミリには疑問でしかなく尋ねるしかなかった。 男は拍子抜けな無邪気な笑顔を見せた。 顔と雰囲気で判断しただけだ、私は7ヶ国語話せるからそれなりにどうにかなると思ったんだ。 むしろミリが拍子抜けだった。 彼はロスランという名前らしい。彼はミリの腕を取り、走り出した。 何?と焦る。一言、溶岩だ。 彼としばらく走り続けると、再び、いや、先ほどを優に上回る轟音と化した地鳴りがする。 振り返るミリの目に飛び込むのは、赤い流星のような舞い上がる岩石。 すると立ち止まるミスラン。地面をたたくと違和感のある音。 鉄の板か。めくるとまるで防空壕のような洞穴。 この周辺に幾つかあるんだ、とミリを中に案内すると数名の人間がいた。 仲間だ、言語はそれぞれ違うが俺が仲介している。 若干の安心と、不安を覚えたミリの感覚に間違いは無かっただろう。 その轟音後一二分、静まりかえる。 誰かがロスランに話す。仲介されて言う。 私はタツヤだ。君は陥没噴火に直接立ち会うのは初めてか、と。 応える間も無く、激しい振動が一同を襲う。 溶岩落下。こんな鉄板で大丈夫か、ミリの不安はまもなく確信に変わる。 一つの岩石が貫き、目の前の人間を押し潰す。 タツヤと名乗った人間だ。 瞬く間、中にいた人間は彼に構いもせず洞穴内の奥へと逃げる。 ロスランに腕を引っ張られ、ミリも同様。 そして轟音がやむとき、中にミリ、ロスラン含めて7人いた内二人が直撃し、亡くなった。 一人は致命傷だ。幸い、ミリはとくに外傷はなく安堵しざるを得ない。 一方で目の前に広がる惨劇に胸のざわつきは治まるわけも無い。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.11.19 20:58:16
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