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彼の地には、遥か東方から伝わる三つの仮面が存在した。
その仮面には不思議な力が宿り、実しやか風の噂の如く流布している。 一つ「悲鳴」その仮面を被れば、忽ち自身の悲鳴が身体を潤し精神は抉られるだろう。 逃れる術は選択。仮面に精神、又はその影存在を捧げるか。 二つ「問い掛け」その仮面を被れば、忽ち精神は奪われるだろう。 そこに残されるのは理不尽、無慈悲な選択。永続する痛みある精神か、満たされる事なき精神か。 三つ「悦楽」その仮面を被れば、忽ち人知を卓越した快楽に溺れる事となるだろう。 その後に残された術は無い。ただ、生涯その快感に浸るだけだ。 迷信染みた下らぬ噂に過ぎぬ代物であったろう。 しかし迷信は突如として現実味を帯び、人々を躍りたてる。 時にして数日前、仮面に取り付かれた一人の男が山より町に降り立った。 狂気の沙汰か、暴君みたく町を荒らし、瞬く間に人目から消え去ったと言う。 それは人間離れした怪物にも似た動きで町を壊滅に追いやった。 それから、この西の地に住む人々は仮面に心奪われる事となる。 それが、今日に伝わる仮面伝説である。 この西の果てに小さな土地は、幾つかの街道で繋がる少数の町村で成立した自治区域だ。 まだ文明は発展途上の世界、情報伝達の術は専らが会話であり紙による通達であった。 故に変化なき平穏な生活に、現れたその噂は程よい刺激となり、土地の名物ともならんとした。 その噂頼りに駆け付ける放浪人もここ数日増え続けている。 ここにまた一人、仮面に取り付かれ、この土地に訪れた男がいた。 リュリュという結構なご老体だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.01.18 08:05:54
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