カテゴリ:アフリカ産
ブッドゥ・ストーンと呼ばれる緑の石があります。 とりあえず、写真の左側の斑点模様の石が、 「ブッドゥ・ストーン」の名前で売られていました。 なんでも「成功を維持する」「友情・愛情を得る」「記憶力が良くなる」という、 至れり尽くせりの効能書きがくっついていました。 個人的に「記憶力が良くなる」ご利益はぜひともお願いしたいかも(笑)。 まあ、買った店の説明書きではこうでしたが、 別のところ(海外サイト)では一点、アレルギーに良いとか 全く別の説明がくっついていたので、 どれを信じるかは見る人次第、というところでしょう。 それよりも問題は、「ブッドゥ・ストーン」ってなにもの? ……ということです。 もちろん、ブッドゥ・ストーンの名前は、鉱物名ではなく、 商品名ではありますが、それにしてもちょっと謎に思えてきた石なのです。 以前に調べたときには、つづりが「Budd Stone」であり、 その名前は発見者らしき「Billy Budd」にちなみ、 シリカとサーペンティンに、フックサイトによる緑が加わったような石……だという情報が出てきました。 ところが、今回ちょっと思い立ってもう一度同じように調べてみたら、 その情報が出てこない! 「Billy Budd」氏はどこへ行った!? あれ~? と首を傾げつつ、しつこく調べていたら、 日本語サイトからさらなる謎が浮上してきました。 まず、読み方。 ブッドゥ・ストーンだと思っていたら、そのほかにも バド・ストーン、バズ・ストーン、バッド・ストーンのバリエーションあり。 綴りを見るに、どれも「あり得るかも」と思えます。 次に石の鉱物的な説明を見ると。 「アフリカ翡翠」「トランスバール翡翠」のフォルスネームを持つ、 南アフリカ産の緑の石であることは共通していますが、それ以外がいろいろです。 私が最初に調べた時は「シリカにサーペンティン+フックサイト」でしたが、 その他に「クロム白雲母を局部的に含むチャート(珪岩)」(参考にさせていただいたのはこちら とか、 「クローライト(緑泥石)成分がたくさん入って緑色になったカルセドニー」 (オークションなのでそのうちリンク切れしますが、こちら) と言う説明が。 アフリカ翡翠のフォルスネームというのは、 アフリカ産で、半透明緑で、無理すれば翡翠に見えなくもないから、 全然別の石だけど翡翠と呼んじゃえ!……という、要するに「商品名」のようなもの。 ところで、ふつうアフリカ翡翠と呼ばれるのは、ハイドログロッシュラーという、 塊状のガーネットの一種であるとされています。 ところが、実際はもっと複雑だったようなのです。 翡翠(注:ジェダイトとネフライトがある)は実はいろいろな色があるのですが、 一般的には緑の石というイメージがあり、 そのために緑のアベンチュリン(またはグリーン・クォーツァイト)が インド翡翠と呼ばれ、 黄緑系のサーペンティンが「ニュー・ジェイド」と呼ばれます。 先に挙げたハイドログロッシュラーというガーネットの一種は南アフリカ産で、 半透明緑の石。そのためにアフリカ翡翠(アフリカンジェイド)という フォルス・ネームが付けられたわけですが、 南アフリカ(またはアフリカ南部)からはその他にも緑の石が産出し、 それらもアフリカ翡翠と呼ばれてしまっている場合があるようなのです。 つまり、翡翠とは縁もゆかりもない別の石を、緑だと言うだけで翡翠と呼び、 しかも複数の種類の石をアフリカで産出するというだけでひっくるめて 「アフリカ翡翠」にしてしまう。 そのなかのひとつがブッドゥ・ストーンなわけですが、 これはこれで名前の読み方(現地の発音)も不明なら、 どんな成分で成り立っているのかも諸説あり……という、 何重にも訳がわからない石だったのです。 いったいこいつはなにものだ。 「クローライトたっぷりのカルセドニー」 ……その説明がされているところの石を見ると、「うん、そうかもしれない」という見かけです。 だけども、今回のせた写真(左側)とは、見るからに似ていません。 右側の方がまだしも似ています。 「フックサイトを含むチャート(珪岩)」 えーと、私の理解ではチャートと珪岩は別物で…… チャートは堆積岩の一種。珪酸が主成分でとても硬い石。 珪岩は時々名前が出てくるクォーツァイト。 風化して細かくなった石英の砂が堆積し、地殻変動などで熱や圧力が加わった 変成岩の一種……だと覚えています。 石英というのは二酸化珪素なので、どちらにしても珪酸を含むつぶつぶ構造の石……といえるかもしれませんが。 珪酸系つぶつぶ石で緑……というと、私としてはあまり色むらがない緑の石を考えます。 つぶつぶ構造であるがゆえに、クラックも少なく、色合いもむらにならないのだと 考えるからです。 たとえば、こういう石。 そのような視点で見ると、一番上の緑の石は、その説明に合致するようには思えません。 どちらの石もクォーツァイトやそれに似た石とは思えない色むらがあるからです。 だんだん怖くなってきました。 ただでさえブッドゥ・ストーンは正体がつかみにくい石なのに、 ひょっとしたらブッドゥ・ストーンと呼ばれる石以外の石まで、 ブッドゥ・ストーンと呼ばれているんじゃないだろうか。 ところで、ハイドログロッシュラーとブッドゥ・ストーン以外に、 アフリカ翡翠と呼ばれる緑の石がもう一つあります。 バーダイトという石です。 ほぼフックサイトからなる緑の粘土っぽい石で、 翡翠っぽいとはお世辞にも言えないように思うのですが、緑の石です。 どうも、いろいろ混ざっているところで産出するらしく、 最初はもっと幅広くバーダイトと呼ばれていたのが、 のちに成分がほぼフックサイトで粘土っぽい部分をバーダイトと呼ぶようになったようです。 「粘土っぽい」。 ……なんだか、一番上の写真の左側の石は、その説明がぴったり来るような……。 実際の手触りは、粘土っぽくはないのでバーダイトそのものではないと思いますが、 混ざっていたりしないだろうか。 想像するに、サーペンティンや珪酸やフックサイトや、 いろいろなものがいろいろな状態で混ざっている緑の地層があって、 そのある部分をブッドゥ・ストーンと呼び、別の部分がバーダイトと呼ばれている。 そんなことになっていて、タンブルはたいていあまり質が良くない部分が使われるので、 どちらもが入り交じり、よりブッドゥ・ストーンよりのものも、 そうでないものも全部まとめて、ブッドゥ・ストーンとして売られてしまった。 そういうおおざっぱな事態は、大いにあり得そうです。 いったいどのように読むべきかもわからず、 どのような石を指して「Budd Stone」と呼んでいるかも定かではなく、 売られていた石が本当に「Budd Stone」なのかも確かめるすべがない。 それなのに堂々と効能書きが付けられて、 それを信じて(そういう効能がある石だと思って)買っていく。 ……それでよいのでしょうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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