戯曲 ぐゎらん堂書店の店長さんの事(4)
ご無沙汰していま~す。 今年も、残りわずかになりました、ねぇ~。 戯曲 ぐぁらん堂書店の店長さんのこと ***** ***** 中年男 (無人のレジに気づき)あれ?誰れ もいないじゃないか。(きょろきょろ捜し )誰れか~。誰れか居ないか~。 中央花道から、何も載せない荷車を 押して男店員が走って来る。時々荷 車の上に飛び乗るがすぐに止まって しまう。 男店員 (荷車といっしょにすべり込む様に 中年男の前で止まり)はーい。店長、只今 戻りました。 店長 野呂君。 野呂 はい。 店長 随分と時間がかかったね。 野呂 そーなんです。大変遅くなって申し分 けありません。いえね、エレベーターでゴ ミを捨てに行ったんです。なんたって屋上 でしょう……。 店長 何時だって屋上じゃない。 野呂 それが、今日に限ってーー。 店長 屋上じゃなかったの? 野呂 いえ、捨て場は屋上なんですが、一階 のカバン屋のゴミが多くて多くて、エレベ ーターに乗る事ができなかったんです。 店長 話が回りくどいねえ。 野呂 はあ。そうですか。それで、ワンチャ ンス逃がしてしまったんで、「次には必ず 乗ろう!!」と意気込んだんですが、待って るうちに、同じ階の画材屋さんのヒロ子ち ゃんがゴミの荷車押してやって来たんです。 それでつい、「先に乗って下さい。」って、 云ってしまったんです。 店長 それでまた一台待ったの? 野呂 いえね、「先に乗って下さい。」って、 僕が云えば、ヒロ子ちゃんは、「いいえ、 そんなーー。」と、もじもじするの。僕も 自分から云い出した事だから、「いいんで す。どうか先にーー。」彼女も「いえ、順 番ですから。」「いいえ、レディー・ファ ーストですよ。」「いえ、あなたから。」 「いえ、あなたの方から。」「いえ。」「 いえ。」「いえ。」「いえ。」「いえ。」 ーー。 店長 それで?! 野呂 えっ?!そうそう。ふたりでそうしてま すとね、あのやぼてん野郎のスポーツ用品 店のおやじ!!何時の間にやって来たのか知ら ないけど、「どっちでもいいから早く乗っ て下さいよ。」なんて水を差すもんだから、 ヒロ子ちゃんも、「それじゃ、どうもすみ ません。」って、乗ってっちゃったんです。 店長 それじゃあ、三度目の正直で、次のに は乗れたんだろ? 野呂 それが、僕もそのつもりだったんです。 そうしたら、例のハゲおやじ!! 店長 ミカドスポーツの? 野呂 そーです。例のヤカン入道です。 店長 確かに逆螢だけど……、そんなに力入 れなくたって……。 野呂 いえ!!僕より足が短いくせして!! 店長 身長が違うからだろ……。比率は同じ 位じゃない? 野呂 わーっ!!店長ひどいっ!! 店長 いやっ。だから、日本人だからーー。 野呂 日本人の代表の様なあのコンペイトー がーー。 店長 何?!それーー。 野呂 だから、あのコンペイトーおやじです よ。 店長 なんでコンペイトーおやじなの?あの おやじの頭、ガラ玉みたいだったっけ? 野呂 ガラモンは関係ありませんよ。(店長 の様子をうかがいながら)コンペイトーは甘 い、甘いはお砂糖、お砂糖は白い、白いは兎、 兎は跳ねる、ーー。 店長 (調子づいて)跳ねるは蛙、ーー。 野呂 (小躍りしながら)蛙は緑。 店長 緑はきゅうり、きゅうりは長い!! 野呂 長いはトンネル。 店長 トンネルは暗い、暗いはーー?あれ? 野呂 暗いは闇夜。 店長 そうだ、そうだ、闇夜は恐い。 野呂 恐いはおばけ!! 店長 おばけは消える!! 野呂 消えるは電気!!佳境にさしかかりまし た。 店長 電気は光る!! 野呂・店長 光るは!! ふたりピタリと静止して上手の奥の 方に居るらしい人におじぎをする。 店長 お早うございまーす。 野呂 お早うございます。 店長 雨降りだってのに、けっこう人が動き ますねえ。はははは……。はあ、今日は晴 れですって?あっ、本当だ。今日はいい天 気だから、人出が多いんですねえ。えっ?! お客がパッタリだって?あれ、本当。でも、 景気よくいきましょう!!ミカドスポーツ、 バンザーイ!! 野呂 バンザーイ!! 店長 ぐぁらん堂書店、バンザーイ!! 野呂 バンザーイ!! 店長 あー、びっくりした。 野呂 まさか来るとは思わないもん。 店長 では改めて。 野呂・店長 (せいのっ)光はおやじのハ ゲ頭!!ミカドスポーツのおやじのハゲ頭!! 野呂 あの、コンペイトーおやじが、「ツバ キ屋さんの女の子にはやさしくっても、お いちゃんには冷たいんだね。こんなに待た せといて!!」って、嫌味っぽーく云うから、 「いえ、そんな事はありません。別に女の 子だけにやさしいわけじゃありませんよ。 ぜひ、おいちゃんにも乗って頂きたいでー す。」って、云ったんです。 店長 あんなタヌキ腹に譲ったって仕方無い じゃないか? 野呂 そうなんですけど……。いや、そんな ーー。僕は本当に……。別に女の子だけに やさしくしているわけじゃ……。だってさ、 同じ階だったんだもん。僕は只、ヒロ子ち ゃんが大変そうだったから……。 店長 別に何も云ってないじゃない。 野呂 只、あのビア樽が変な風に勘繰らなけ ればいいんですが……。 店長 何が? ***** ***** と、言う事で・・・今年はここまで。 意味もないところで、切れているのですが・・・とっぴん ぱらりのぷ~。 昨日、お買い物の帰りに、ふっ、と、見ると・・・前の小 さな横断歩道を、おじいさんが、赤なのに、渡っていたの ですよ~。 「おじいちゃんだけ~!」なんて、ちっちゃい子の声~。 反対側を見れば、信号待ちしているベビーカーを押してい る、若いお父さんとお母さん、おばあちゃんと、幼稚園く らいの男の子。 アハハ~、おじいちゃん・・・いつものつもりで、渡っち ゃったのねぇ~! 皆さん、笑っているから、つい・・・通り際に、おじいち ゃんに、「いけませんねぇ~。」なんて、声をかけちゃい ましたよ~。(お説教じゃ、ないんですよ~。何だか、ほ のぼのしている風なので・・・つい、ねっ。) そんな事している自分に・・・あれ~! これって、しっかり、おばちゃんじゃ~ん!って・・・ アハハ、もともと、おばちゃんなのですが・・・本物に、 踏み込んでますよ、ねぇ~。 皆さん、よいお年を、お迎えくださ~い。