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南ドイツ 小さな谷の旋律

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October 25, 2009
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カテゴリ:ちょっとひとり言
10日間の入院中、特に最初の5日間くらいはベッドから動くことも困難だったせいもあり、ひがな一日本を読んでいた。


その中で一番印象に残っているのが、ヒトラーの防具 上・ 下巻



主人公のミツヒコは、ベルリンに武官事務所に補佐官として赴任してきた。

ドイツの地に足を踏み入れたばかりの光彦は、ヒトラーの信望者であり、第一次世界大戦の敗戦国でありながら、短期間に国力を増強し、世界の覇者へとなろうとしているドイツに傾倒している。

もう、読んでいて頭に来るくらい、ナイーブに信望している。

そんな光彦だが、赴任してすぐにミュンヘンの病院で医師として働いている兄、マサヒコを訪ねる機会を与えられる。
兄を通じて、ナチスが秘密裏に進めている社会的弱者の排除やユダヤ人弾圧といった非人道的政策の存在を知り、ナチスドイツに対して疑問を抱く。



ナチスドイツが周辺国に対する電撃作戦を繰り返し、次々と狂気に走っていく様や、日本政府が二転三転しながらもナチスドイツと運命を共にしていく様が、克明に臨場感をもって描かれている。

それに並行して、一般ベルリン市民の当時の生活状況や度重なる空襲の様子などが描かれていて、当時の悲惨さが目に浮かぶようだ。

史実だけではなく、一般市民の様子が生き生きと描かれていることがこの小説の面白さの一つになっている。


その反面で、ユダヤ人迫害、終戦間際の慢性的な食糧不足、連日の空襲と言ったベルリン市民の生活に、日本大使館武官事務所勤務の主人公がどんどん密接に関わっていくあたりの展開があまりにもでき過ぎていて、ああ、この話はフィクションなんだ、と目が覚める気がする。

背景になっている当時の社会情勢や戦況の記述がリアルであるにも関わらず、主人公が日独のハーフであるという設定も含めて、日本人の武官がベルリンの市民生活に入り込んでいく様子には現実味がなく、読んでいてなんとなく違和感を感じた。


物語の最初の方で主人公が、ナチスドイツの実態を日本に知らせるのが自分の役目だと力強く誓うのだが、この点ついてはほとんど触れられずに話が進んでいく。
一武官(補佐官)にはそんなことは所詮できない、と言う意味で妙にリアルに感じられる反面、主題がすり替わっているような印象も受けた。


小説のラスト付近で、ヒトラーとの絡みが出てくると、もうハリウッド映画でも観ている気分だった。


そんな点を差し引いても、第2次世界大戦が勃発する前からベルリンが陥落するまでの史実が、実在する人物も一部に混ぜて描かれていて引き込まれる。

一般市民が戦争に巻き込まれた状況、歯を食いしばって耐える姿、最後まで自分の良心に従って行動しようとする様子も胸に迫る。

文章に緊張感があり、飽きることなく最後まで読ませる読み応えのある小説だった。







ヒトラーの防具(上巻)



ヒトラーの防具(下巻)








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最終更新日  October 28, 2009 05:32:36 PM
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