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南ドイツ 小さな谷の旋律

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February 6, 2012
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カテゴリ:ちょっとひとり言
福島の原発事故の後、去年の夏前だっただろうか、どこで緑茶を買っているのかとコーラスの年配のメンバーから質問された。

家で、特に彼の奥さんが緑茶を良く飲むのだけど、いつもお茶っ葉を買う町のお茶屋さんに在庫がなくなってしまった。

日本から緑茶の輸入がストップして全く入ってこないのだという。

恥ずかしいことに、その時までお茶の産地と言えば静岡、宇治、八女くらいしか知らなかった。


だいたいにおいて、こちらのお茶屋で手に入る緑茶は、一番高い「1級品」であっても、茶葉の大きさも色もそしてもちろん味も日本でいつも飲む緑茶からは程遠いものだ。

だからてっきり同じ品種を他所の国で作らせて「Japan-Sencha」という商品名を付け売っているのだと思っていた。

こちらの来たばかりの頃に一度試してみて驚いて、それ以来買ったことがない。


長い船旅の間に色や味が変わるはワインと同じでどうしようもないが、日本国内ならば一番安く得られそうなランクの商品が、運送料や関税や輸入の手数料が加わり、高級茶葉として高く販売されているのか。

そう考えると、産地の人がこれを知ったらショックと怒りで卒倒してしまうのではないかと心配になってくる。


それとも、こちらの文化に合わせてわざと茶葉の製法を変えてあるのだろうか?

こちらの人は緑茶も紅茶やハーブティーと同じようにポットに茶葉を入れて、そこにグツグツと煮えた熱湯を注ぎ、短いと数分、長いと10分近くも置いてから飲む。

きちんとしたお茶屋さんならばお茶の淹れ方として、沸騰してから少し冷ましたお湯を注いで1分程度、と教えてくれる。

しかし、聞いているような顔して聞き流している人が驚くほど多いし、習慣というのはそう簡単に変えられないものらしい。

そして、緑茶は苦いばかりでちっとも美味しくないと言う。

だから、わざと味や香りが出にくく苦味を抑えるように加工しているのかもしれない。


とにかく、この茶葉の産地が東北大震災とそれに続く原発事故で大打撃を受け、茶葉の輸入がストップし、再開の目処がつかないらしい。


そんなことがあり、ちょっとした親切心から、秋に一時帰国した際に西の地域の高級茶を一袋お土産に持ち帰った。

こちらで手に入る緑茶が気に入っているならば、日本で売られている緑茶は口に合わないんじゃないかとさんざん迷ったんだけど、まあ何でも試してみるもんだと割り切った。


高級茶で新茶だったし、真空パックしてあるとは言っても鮮度が一番大切だろうと、戻ってすぐにその人にあげた。

こちらで売られているものとは味が違うし、だいたいにおいてこちらの人の煎れ方では美味しく飲めないので、丁寧に茶葉の量から湯の温度、煎れ方までを書いてつけてあげた。

もちろん産地もアルファベットで書き、それだけでは絶対に分からないだろうからと、県名や地域名も付け加えておいた。

そして以前こちらの友人にお茶を出した時に、ほうれん草の匂いがすると言われたことがあるので、それも含めて、こちらで売られている緑茶とは全く違うものだからとしつこいくらい注意書きをしておいた。


それ以降、彼からお茶について聞くことはなかった。

どうだったか聞いてみたい衝動に駆られたこともあったけれど、

そもそも緑茶をと頼まれたわけではなく、私があげたかったからあげただけだし、飲みたくないならばそれでも良いと思っていた。


そして先日。

コンサートの日に話しかけられた。

ようやくガイガーカウンターを入手してね、測ってみたんだ。

全く検出されなかったよ。

それで安心して飲ませてもらったんだ。

素晴らしいプレゼントをどうもありがとう。



言葉が出なかった。


チェルノブイリ原発事故の後で、葉物野菜の販売禁止や森でのキノコや野草・ベリー類を採取禁止・摂取禁止を体験してきた人達だから、恐怖を感じる気持ちは分かる。

実際、森での採取・摂取禁止はいまだに公式に解禁になったわけではないらしい。

そんな事お構いなしに集めて食べている人の方が多数だと思うけれど、用心深い人は今日でもまだ口にしないしているとも聞く。


加えて彼らは夫婦揃って開業医だし、健康に対する関心が高いのも当然だろう。

特に彼の奥さんは、身体の自然治癒力を高めて治療を行う分野に関心が高くて、その延長線上でヨガを始めとするアジア文化に対する興味が強い人だ。

初めて喋った時には、私が日本人だからというだけで、ヨガや太極拳や鍼灸をやっていてベジタリアンに違いないと思い込んでいたくらいだ。 ←どれも当たっていないんだな、これがまた

アジア人にしてみれば、なんでそうなる??と頭を抱えてしまう発想だけど、このタイプの人々がドイツにはいまだに結構な割合でいる。

さらに困ったことに、こういうタイプは一度思い込むとなかなか修正がきかない(人の話を聞いていない)場合が多い。

だから彼女も今でも信じているかもしれない。


彼らは決して悪い人たちではないし、悪気がないこともわかっている。例えどんな形であっても、アジアの文化に関心を持ってもらえるのはうれしいものだ。

安心するためにガイガーカウンターで測ってみるというのは当然なのかもしれない。見えないモノだからこそ怖いというのは私にだって分かる。


それでも、何もそれを私にベラベラと嬉しそうに話してこなくっても良いのにとガッカリしている自分がいる。

まあそれこそが、悪意のない証拠なのだけど。


それを言ったら私だって、最初に緑茶の話をした時に、「日本で売られている緑茶とは全くモノが違うからこちらでは買わない」と、こちらで売られている茶葉の質が低いことをわざと暗に指摘しているのだからお互い様か。


味が違うね。

青野菜みたいな、ほうれん草みたいな香りがする。



まあ、彼らにお茶を持って行ってあげようとは、もう二度と思わないだろうな。







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最終更新日  February 12, 2012 10:44:24 PM
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