テーマ:詩&物語の或る風景(1049)
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俺はいっぱしの探偵だ。
しかも、最近は産業スパイみたいな事もやり始めて 常に、同業者から命を狙われている。 危険な所に足を突っ込みながらも、俺には信念がある。 「探偵は、やはりハードボイルドでなければならない。」 性欲はあっても便意は、もよおしてはならない。 そして、ハードボイルドに似合うのはコーヒーだ。 誰が何を言おうともコーヒーだ。 ジュースなんて、お子ちゃまな飲み物なんか飲まない。 ある日、俺は意を決して、電気屋でコーヒーメーカーを買った。 これで、喫茶店に行かなくてもコーヒーは飲める。 そう、確信した瞬間だった。 コーヒーメーカーを買ったからには、コーヒー豆を買わなければならない。 早速近くの、スーパーに行き、豆を買うことにする。 サングラスを掛けて、周囲に俺の動きが悟られないように 店内を徘徊しながら、ターゲットとなるコーヒーを追い詰めた。 多少、店員や客の物珍しそうな目が気になるが、 たぶん、俺の格好良さに惚れているのだ。 豆は、やはり「ブルーマウンテン」だろ。 俺はいつも喫茶店でブルーマウンテンを好んで飲んでいる。 しかし、値段を見て愕然とした。 「2800円」 と言う、値札が俺の思考を混乱させる。 「高い。高すぎる」 さっき、コーヒーメーカーを買った時に ほとんど金を使い切った俺は、豆に掛かる費用を忘れていた。 しかし、ふと、隣を見ると 「ブルーマウンテン 980円」 と言うのをを見つけた。 やはり、俺は腐っても探偵だ。 その商品を素早く手に取り確認する。 天下のブルーマウンテンが何故こんなに安いのか? しかも、同じ物のはずなのに、1820円の差は何なのか解らないが、 とにかくブルーマウンテンは見つけたのだ。 足早に会計を済ませて帰り、コーヒーメーカーに、 買ってきたブルーマウンテンをセットし、コーヒーが落ちるのを待つ。 ほんの数分で褐色の液体が出来上がる。 俺はハードボイルドなので、砂糖とミルクは入れない主義だ。 コーヒーカップに、それを注ぎ込み匂いを嗅いだ。 少し安っぽい匂いだが、ブルーマウンテンに間違いは無い。 俺は、葉巻を吹かしながら、一口飲んだ。 その途端、コーヒーとは思えないほどの、凄まじく、 焼け付くような、そして喉にまとわり付くような苦みに、 吐き気をもよおし、そのまま吹き出してしまった。 「何だこれは?」 さては、あのスーパーの店員 俺を殺そうとした、同業者かもしれないと言う考えが、俺の記憶を横切る。 まさか毒を盛って殺そうとは! あわてて、コーヒーの瓶を持ち上げ、異物が入っていないか確認をした。 しかし、そこには、何の変哲も無いコーヒーがあるだけだった。 もしやと、思いコーヒーメーカーを確認する。 さっき入れたはずのコーヒー豆がフィルターに残っていない。 これは、ミステリーか? それとも、豆が神隠しにあったのか? おかしいと思い、もう一度コーヒー豆の瓶を確認する。 すると、そこには 「インスタントコーヒー ブルーマウンテン風味」 と、書いてあった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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