民泊から見た日本の問題2 観光客の受け皿不足
前回は民泊を取り巻く法規について書いてみました。今回は、民泊の必要性、可能性、日本経済への貢献について考えてみたいと思います。我が国への観光客数は、ここ5年余りで大きく変化しています。皆さんも自分のまわりを見てみると実感することがあるのではないでしょうか?観光地、東京の銀座、新幹線の中、外国人が増えてきたと感じませんか?実は、5年前の2012年までは年間835万人程度だった観光客数は、2013年には1036万人、2014年には1341万人、2015年には1973万人、2016年には2403万人観光客数推移(日本政府観光局統計からJTB総合研究所作成)と、急激に増加しているのです。他の産業では、売上微増、もしくは横ばい、減収と、どうも冴えない日本全体にはびこる閉塞感とは全く別の世界が展開しているのです。また、別の見方として、GDPに占める観光収入の割合で日本の観光収入を見てみましょう。世界の観光客のベスト3は、一位フランス8473万人、二位アメリカ6977万人、三位スペイン6066万人、ちなみに日本は26位1036万人です(2013年世界銀行データ)。日本の観光客が他国に比べ極めて少ないことがわかります。これをGDPに占める観光収入で見てみると、一位アメリカの観光収入は214,772百万ドルであり、GDPに占める割合は1.2%。二位スペイン67,608百万ドル4.8%。三位フランス66,064百万ドル2.3%。日本は21位16,865百万ドル0.4%です。つまり、他国に比べ観光客数が少なく、同時に観光収入低くなっています。別の見方をすれば、それだけ伸びしろがあると考えられると、デービッドアトキンソン(元ゴールドマン・サックスアナリスト)は「新・観光立国論」で述べています。この本は、我が国の観光の問題点、可能性などを、客観的なデータを元にわかり易くまとめていますので、日本の観光のみならず経済、まちづくりに関心のある方は是非、読むことをお勧めします。増え続けている観光客を受け入れて更に、他の成熟した先進国並みに観光収入を上げるためにはどうすれば良いか、考えていきたいと思います。では何故、日本には海外からの観光客が、これほど少ないのでしょうか?一つには閉鎖性があると思います。観光客に対しておもてなしをするとは言っていても、街中のサイン、メニュー、観光地での案内等の表記が日本人相手の表記で他の国の方には分かり難くなっています。更に、宿泊施設の不足もあると思います。現在国内出張でビジネスホテルに泊まろうとしてもなかなかホテルが取れない状況にあることからもわかると思います。まず、街中のサイン、メニュー、観光地での案内等の表記については、多言語化を進めるのは必須と考えます。サインに頼らない絵文字のようなピクトサインを増やし、感覚的に情報を伝える手段を考えても良いと思います。因みに、ピクトサインとは、トイレのマークを男女の簡単な絵を示すことでその場所を案内するようなサインで、どの国のどの年代の人も理解することができるサインです。これは、1964年の東京オリンピックで日本人が考案したものです。日本人は、こういうことを本気で取り組めばとても上手く作り上げる感性を持っています。そして、観光客を受け入れるための宿泊施設が必要です。この部分については、既存のホテル等の施設が担うのか、今回のテーマとして考えている民泊を活用するのかということになると思いますが、日本の現状の姿から考えると、民泊の整備を積極的に進めることによるメリットが大きいと感じます。現在、日本には820万戸の空き家があり空き家率は13.5%(2013年時「老いる家 崩れる街」野澤千絵)と言われ、更に毎年100万戸づつの新築住宅が建設され、同時に空き家も増え続けています。一方、人口は2008年をピークに減少し続けており、女性の合計特殊出生率が2016年1.44(厚生労働省調べ)であり2016年の出生数は97万人であることを考え、今後人工が増加する見通しがないことを考えれば、空き家がますます増えると予想できます。そうなると空き家が増え続け、更に新しい家が建ち続けるという、国を挙げての「ゴーストタウンづくり(苦笑)」が着実に進行していく事になります。実際、関東周辺の町では業社主導の宅地開発が進み、旧市街地の空洞化が進行し、シャッター商店街がアチコチで見られます。私が住む墨田区でも、土地が足りないと言いつつも、高齢者が無くなった後の空き家がそのまま残り続けているのを多数見かけます。このように未利用の居住空間が市街地には多く残っていながら、新たな住宅が郊外に建つという事は、更に空き家が増え続けることに繋がります。こういった空き家を観光客用に活用できれば、空き家問題、商店街の活性化、観光客の受け入れ施設の整備を同時に進めることができるわけです。総論では、理解できるのですが、こういった古家や住宅、商店などの小規模な敷地の活用を考えると、一筋縄でいかないことに直面することになります。次回は、こういったことを阻害する要因について考えていきたいと思います。かなや設計 環境建築家 金谷直政 2017.6.22