確認申請の混乱は、ゴールのない障害物競走
確認申請の混乱は、相変わらず続いている。建設業者の話を聞くと、状況はむしろ深刻になっている。写真は、今回の改正が施行された6/20に行われた講習会での資料。「改正建築基準法・建築士法及び関係政令等の解説」監修 国土交通省他黄緑色の分厚い本(791ページ)に変更内容が、、、説明にあたった東京都の方は改正の施行当日なのに「まだ決まっていない点もある」とのこと。「都からも、国交省に規制の緩和を求めたが、全てはねつけられました」と、直接確認申請業務にあたる都でさえも今回の改正には懐疑的であったことがわかる。同様の発言が、横浜市のまちづくり局の職員も言っていた。この本の後ろに今回の改正にかかわった「社会資本整備審議会建築分科会」の名簿が出ている。■確認申請の混乱の原因は?今回の混乱の原因として改正に携わった委員の人選とその意見のまとめ方ではないだろうか。改正のメンバーを見ると・法律の専門家・大手設計事務所(日建設計)の会長・大手住宅メーカー(住友林業)の社長・大手ディベロッパー(森ビル)の役員・建築家の大御所(仙田満氏)等である。皆,各分野の専門家である。そして、その専門家をまとめる国交省の責任者は建築ではなく都市計画が専門であった。果たして、これらの中に確認申請を出したことのある人はいるのだろうか?■法律に苦しめられる現実以前、このブログでも書いたが、建築関連の法律はこの17年で3倍以上になっている。この大量な建築関連法規を理解し・施主の要求を・予算内で・スケジュール通りにまとめ・確認申請を出した人が、今回の改正のメンバーの中に居るのであろうか?確認申請の実務を知っている人が発言力のある立場で居たのであれば、今回のような混乱は無かったであろう。人間の生活、企業の経済活動、創造行為、教育、諸々の行為が行われる「建築」を設計するという事は、もともとが多大な労力を要することなのである。そういった事を理解した委員であれば、今以上の負担を設計者に負わせ、さらに罰則までも強化するなどと言う結論の前にやるべきことがあったはずである。■「正論」の言いっぱなしで良いのか?むしろ、多くの条件を調整しひとつの形にまとめる「設計」という行為に対して、その労働環境が劣悪なことが今回の耐震偽装事件の側面になっていたことを考えるべきではないだろうか?・知り合いの設計事務所の所員の給与は月10万円と聞く。・あるメーカーに転職した若者は、その前は月8万円で設計事務所で働いていたと聞く。誰よりも働いていながら生活保護を受けている人よりも収入が低い!これは、明らかにワーキングプアである・ある大手設計事務所の所員は、裁量労働制で、いくら残業しても給与は同じ。 過大な法規制をして、業務量を増やすことは、この現状に対して更に拍車をかけることだと委員は気づかないのだろうか?各々の専門家の立場で「厳しく」することを求め、それが積み重なる事に対して設計者はどのように対応していけば良いのであろうか?■まず、やるべきは設計者の労働環境の改善建物を建てることは、土地を増やすことと同じだ。たとえば10階建ての建物を建てれば、平屋を建てる約10倍の部屋が作れる。国土の狭い日本では階を積層し都市に集中しなければ空間を確保できない。つまり建築とは国土をつくるようなものなのである。それほど価値がある事業なのである。そして積層する程に技術が必要、まして地震の多い日本では、慎重に進めなければならないのである。にもかかわらず、その担い手である設計者の労働環境の多くが、先にあるように劣悪なのが現実である。設計者の労働環境を改善し、質の高い社会のストックを作ることが、国民の生命の安全を確保し、国の経済の持続的な発展につながるのではないだろうか?■行政(国交省)および委員は、もっと広い視野で改正を今回、改正にかかわった人達にとっては「そんなことは、建築の安全に関係ない」と言うのだろうが、その結果、何が犠牲になるのだろう。薬害エイズ事件では、専門家の独善的な意見に影響され国がやるべきことをやらなくて取り返しのつかない問題になった。今回の問題も専門家の意見を集約した膨大な対応を設計者に求めるという安易な解決ではなく、広い視野での解決を望みたい。今の状況は、誰も走ったことのない障害物競走を走らされているような気がする「国と労働者を不幸せにする改正」に携わった人の想像力の無さに ×また、それらをまとめた国交省のまとめ方に ×