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詩人たちの島

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January 15, 2006
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カテゴリ:連詩
秋風秋雨          FARM 

1(英己)
                                   
秋風秋雨人を愁殺す
連詩は初めから「殺す」を使える
連句はだめだ
今日ぼくは死について考えていた
満月に向う月は生きていた
金木犀は香っていた             
                  
2(豊美)
                       
濡れたススキの穂が銀色に光った        
一輌だけの小さな列車に乗っていった
内陸へ、内陸へと消えがての駅名をつなぎ
山襞の眠りの底をくぐって目覚めと忘却を繰り返す
幸せとも不幸せともいえない
水源へのながい帰路だった
               
3(健二)
           
枝も葉も香りもある物語のならぶ秋へと
どうやって帰ろうか
「わたし、絶対あやまらない」
百年前の機械が動いている
愛すべきごみ箱である市場で
いつまでも夏を生きる娘たちの露出する夢と議論する

4(英己)              

どっさりと野菜をリヤカーにのせて
きみが引っ張ってゆく
バザールの詩人にしてたくましい商人
なにか甘いもの、なにか優しいものが真っ先に売り切れて
恋人たちの次には
苦い根のような言葉をほしがる冬がやってくる

5(豊美)

枝からもいだ林檎に歯を当てる
甘ずっぱさがからだにしみとおる
「木の根を吹き飛ばす力は/ぼくを破壊するものだ」
わたしは作ることをしよう
湿った土に丸ひとつ描いて
生き残った根のうえにそれを置いて

6(健二)

何から逃れ、何を追うのか
肩をぬらして南へ移動する男の
かすむ視野にも、秋のくだものが生る
熊本、八代、水俣
オレンジ鉄道から見る海岸の
根を持つもの、そして雨空に飛びたつものたち

7(英己)

父のぬらした紙おむつを捨てながら
ぬらさない涙でしなびたペニスをぬぐう
笑ってぼくらは老いてゆく
少しずつ減ってゆくグラスのなかのウイスキー
かすかに潮の香が広がるとき
傷つけあった愛のようなものが一瞬よみがえる

8(豊美)

もっとも柔らかい部分にふれようとして
ふれることのできない言葉のもどかしさ
愛をめぐる光と闇の間で
それらを語りつづけてなお届かない
わたしたちの饒舌 その真実と
数々のまぼろしの中で

9(健二)

老いた工場の裏の
死んだ箱の山を見た
洩れてくる泣き声と笑い声と
長靴の通った地面に、傷を浮かびあがらせる
だれの黙る故郷からの光だろう
旅人の私たちはそれを避けて夜の闇へと急ぐ

10(英己)

そして晩秋の美しい光に迎えられる
はるかな稜線
小さなものたちの死の峠を通過し
貧しい倫理の斜面を転げ落ちながら
幻聴のように聞こえる音楽があった
それでも稔るもの、こんなに荒れた地面に

11(豊美)

四月が「もっとも残酷な月」なら
十二月はもっともやさしい善意の月だ
地上のすべての醜さを覆い尽くそうと木々は
身を振るわせて黄金の雨を降らせ
悲しむ人々の心を降る雪は
温かくつつんでひと時の慰めを与えようとする

12(健二)

幼い子どもが殺されている
泥靴の秋を追跡して、ふるえながら見る夢の
山道、紅葉する木々
「美しい星」に住む人々は
景色に圧倒され、うつぶせになり
そして証言するためにゆっくりと起き上がる

13(英己)

もう一つの世界へ
茶色いズボンの可愛い子たちが
消えてゆく
賢者たちはむなしい贈りものをかかえて
探しあぐねている 見えなくなった境界の豊かだった線の上
貧しいクリスマスがやってくる

14(豊美)

電脳の神サマは忘れっぽいのだ
彼の虚ろな画面からはどんな
悲しい出来事もたちまち消え去り
その白い境界を越えて
いまここへ戻ってくるのは木霊と
愚かなトナカイたちばかり

15(健二)

秋の風がばらばらにした、ふるえる証拠たちを
ひとつに組み立てようとするが
気がつくと自分が余っている
愚かさ、手抜かり、薄暮のなかで
何が生まれるのをゆるしたために
棄てられ、寒空にこうして私たちは叫び声を追うのか

16(英己)

なつかしい積み藁のなかに秋はある
きみの無意識のしぐさと日々の喧騒のなかに
沈潜している秋
静かなふるえのあとに季節は目覚める
解体された「叙情的なるもの」
それをふたたび肉体のように組み立てる意思のなかに

17(豊美)

言葉よりも季節が先行して
わたしたちはふたたび地上に取り残される
時ならぬ雪はせめてもの恩寵と呼ぶべきだろう
ちいさな火を両手で囲い暖かさを掬い取る
このきれいな火をきれいなままで
きみのもとに届けたい

18(健二)

酔いながら、歌わない芯を硬くしながら
岡山、神戸、そして降りられなかった静岡
傷と寒さへの
永遠の妹となって眠るきみの季節を
地上の私たちが追いかけてゆく
この旅は、まだはじまったばかりだ





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Last updated  January 15, 2006 01:41:02 AM
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