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詩人たちの島

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January 18, 2006
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カテゴリ:作物
冬の道

 きみの手紙を読んだ。「外界を遮断して、外界を自由に走り回りたかった。」と書いていたね。いつもの川ぞいの冬の道を歩きながら、ぼくはきみの言葉を呟く。シデの巨木の黄葉がとても素晴らしくて、ぼくの足はそこでとまったままだ。十二月の初旬の一日。欅の葉もまだ少しは残っている。コナラの葉はすっかり辛子色になったが、それでも捨てたものではない。
 それらの葉を透かして見る今日の空。足下の落ち葉を踏んで川の流れを見ると、底が見えるほど透明な水。こんな情景をいつまでも眺めていたい。
 そればかりではない。最近は川沿いの道の四季折々の情景を写してもいるんだ。夏の「柘榴花」「百日紅」「合歓花」、秋の「金木犀」、冬の「山茶花」などのアルバムもある。もっとマニアックになるよ。昨日は通勤の電車のなかから見えた木々の黄葉を「今年最後の輝き」と思った瞬間、次の駅で下車してしまい二時間も歩いたよ。おかしいだろう。自然なんて、あの頃のぼくには何の興味も起こさなかったのに。

 歯茎が痛む。でもその「痛み」は外界から見えない。歯医者は嫌いだ。誰だって他人の前でアーッて大口開けるのは嫌だと思うけれど。木々の葉のように枯れ朽ちてゆく内部。

 手紙によると、傷ついた手を隠すために、きみは外界を遮断する決意をしたそうだね。人の悪意と欲望にさらされている手。きみ自身の目にじかに見えるだけに、それはたぶんとてもつらい。内部ではなくいつまでも外界と触れあっている、自分のものか他者のものか判然としない物体。きみはそれを隠そうとしたのだ。手とその所有者は車の中に隠れた。「外界を遮断し、外界を自由に走り回る」矛盾に満ちた旅がそこから始まったのだ。

 内部の欲望や悪意は加速される車のスピードと等しくなり、遮断したはずの外界のマニアックでメカニカルな蒐集が開始される。夏の「柘榴花」「百日紅」「合歓花」、秋の「金木犀」、冬の「山茶花」。きみを慰め、挑発するそれら。

 こうして川沿いの冬の道を歩いていることに意味はない。しかし、きみと同じように、ぼくも「外界を遮断」したくて歩いている、車の代わりに「自然」に隠れて。少しだけ歯茎が痛む「ぼく」を隠す。

 シデの巨木の下を少女たちが明るく笑いながら帰ってゆく。ぼくはそっと隠れる。その美しい黄葉に視線を集中する。コナラの荒れた肌に爪を立てながら。





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Last updated  January 21, 2006 10:35:01 AM
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