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詩人たちの島

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July 24, 2006
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カテゴリ:連詩
連詩 雑・第一部「闇」



闇のなかを歩いてきた
ひとつの火が
内へ内へと進むものとすれちがって
(かすかな香りだけを残して)
消えた
そのあとの動く雲
そのあとの音楽
そのあとの
「存在しえないもの」をとじこめている瓶を割って
さまざまな影の上を歩いた日々
そして今日、私は
はげしく泣く見知らぬ人々のなかにいる(健二)



鏡の中の鏡
そこでも割れている
私の眼
(風がすべてを吹き飛ばす)
砂浜に
産卵の夜を迎える海亀の無数の足跡
点描画家たちの色彩の…の混じりあいのように
分けがたい涙と泣き声が告知する明日の
波打ち際で
割れた眼の破片を拾いあつめる歌を歌う(英己)



石を底に沈めたまま
ひび割れた鏡の面はたちまち修復される
空は無色透明な液体で
春は傷ついた世界を繰り返し再生させてゆく
サクラ
モクレン
マグノリア
あらゆる花の名が咲き狂い
幻の先端が列島を駆け上がってゆくとき
水底の青い時間を石らは眠り
それが何の隠喩だったのか
忘れられたものは春からも忘れ去られて(豊美)



生きもののいる野をよこぎってきた私たちは
靴を脱ぎ、階段をあがって
大きな鏡の前に座る
「私たちはどこにいるのか?」
鏡のなかの自分のとなりの人に
私は尋ねている
ちがう地球の
ちがう一日を閉じる闇のなかでも
だれかが尋ねているだろうが
その人を私は直接見ることができない
人のかたちを失いながら
言葉ではなく
変化する姿で答える
その人、その存在、その変化を私は直接見ることができない(健二)



私はあまりに簡単に恋におちる
憎しみがしなびた筋肉に赤い血をめぐらすのと同じだ
今日は一日「玉砕」を暮らしてみた
「馬」がキーワードだ
埒もない想像を追求したかった
着たことのない軍服姿で敬礼している私
捕虜として労働を強制されている私
父たちのかわりに「万歳」とささやく
大きな鐘は
「つねに・すでに死んでいる」
五月、六月、とにかく
神無月まで私は生きるだろう
それはどんな出発とも関係ない日々の繋がり(英己)



今夜の空に火星が赤くぼんやりと光る
部屋の蛍光灯が切れかけて点滅する
あのころ、家々の灯りは暗く夜はずっと深かった
灯りが暗いぶん闇はどこまでも広がっていた
何もない夏の周辺には虫たちが群がっていて
子どもたちは虫篭を下げて蛍狩りに行った
蛍光灯がしきりに瞬く
闇が広がり心は空虚で満たされる
わたしたちはそれぞれのなかに闇をだいじに飼っている
夜を這う名前のない虫のために
あたらしい蛍光灯を買いにゆく(豊美)



鴨と鯉のいる仙川に沿って歩く
子どもと老人と思い出を高速道路の下におきざりにして
まだ明るいうちに、まだ滅びないうちに
新しい訳で読む「虫」の物語
這うことはできても、恐れることはできても
告白できない恋
でも、日曜日
でも、パラレル・ワールド
バスに乗れば
すぐに幼い人民の群がる吉祥寺の夜
かれらは列をつくって狩られる順番を待つ
闇のなかの私はもう待たない
かれらを恋する政府になる!(健二)



エンドレスの恋だ!
「夢よりもはかない世の中」を
男と女とが暮らしてゆく
物語から日記へ、日記から物語へと木の下闇が濃さを増す
死んだものたちの眼に新緑はまぶしい
風にひかる葉裏に
幸せはある?
判決は命じている
きみは他者に対する義務として生への意欲を燃やさなければならない
乳白色の二人の豊満な裸婦のために
一人は名もない、その名をよばれぬ人
一人は身を投げる、その身をきみの眼から永遠に隠す人(英己)



あの虫はいま
どこの草陰で羽をすり合わせ
どんな夜をちろちろと
鳴きつづけているのか
虫の棲むその穴は
きみの臆病な心よりもすこし広く
重さはきみの隠された心とちょうどつりあっている
ザラザラした闇の手触り
柔らかい腹の下で虫があたためている
石の卵
孵化する日を夢見ながら
ほんのりと白く光って抱かれている
永遠の夜の卵(豊美)

10

大きな黒い鎌と
詩人の遺書が
あふれる新しい生命の下に隠されている
房総、照葉樹の森
花の蜜を吸い
虫をついばむ小鳥たちのニュースで
目覚める私たち
羽のかわりに、恥ずかしい骨を
すりあわせる彼と彼女になるという演技のプランを
何を放棄するためにメモしたのか?
闇のなかの
光る卵をめぐる
すべてを思い出した私たちから生まれようとして
まだ生まれていないものが
棘のある枝のあいだをゆっくりと移動している(健二)

11

しなやかにここまで歩いてきなさい
人の形、人の愛の形
それは棘に刺され
「ブルースの意味」や「喪わなければならない」何かを越え
立っている、たぶん
生の肌の上に永遠が咲くのであって
その逆ではないからだ
しーっ 頼むから静かにしてくれ
「ぼくの父の生」についてなぞ書けない
深く父を演じすぎたので
ただ涙のなかで、老いのなかで、どこまでも若返る
二十二歳の父、十九歳の父
まだ生まれていないぼくを抱く母
母を抱くぼく
人の形、人の愛の形
もう一人のきみがいなければ たぶん
ぼくは存在しなかった(英己)

12

生命の系統樹を見ると
すべての生命は共通の先祖から始まっている
今日 私は
床の上に蠢く黒い曲線
蟻の行列に殺虫剤をふきかけながら
ヘリコプターから地上に機関銃を乱射する
人間の快感を想像して恐ろしく思った
よろこびが人を生かす
とはいえ生の床下に広がっている闇の巣
突然地層が割れて
原型が剥き出しになる
わたしたちは嘆き悲しみ そして
そのとき初めて「苦しみ」が持つ意味を考える
虫を苦しむことから始めよう(豊美)

13

ばらばらになった頭と胴と膝を
闇のなかの「苦しみ」につないだ、ひとつの呼吸体にもどす
そのたびに何を守ったことになるのか?
十七歳、三十七歳、五十七歳
次から次とまちがいを重ねながら
自分では脱げないジャケットにつつまれた身で
質問を、誘いを
待った
さびしさ
と目をつむる息子をおきざりにして
私はバスで移動する
渋谷、麻布十番、新橋
まだ道を歩いている人がいる、それだけが
救いのような未来にむかって(健二)

14

一緒に失おう
二人の腕の間ですべてを失おう
このロマンティックな霧のなかで
その霧を二人で脱ごう
五十八歳の誰かを誰かが見つめていると言うのか
うまく歌えない
古い友達のことを思い出す
夜明けの冷たさのなかで、私たちには愛はわからない
ここはタヒチ?
それともナイルの河の上?
水の音が闇のなかで問いかける
きみはすべてを洗いつくして
幼女のように深夜を眠らない(英己)

15

黒い服を身に付け
定められた所作を繰り返した
それらにはかつて意味があったが
今では風の草のようなものになっている
川の岸で私たちは別れた
六十九年は短すぎると言うことはない
だが、長いなどとは言えない
儀式を終えて
川沿いの道を歩いた
ひとりの存在のかけがえのなさが火の中で
無慈悲なまでに砕かれ脱色されていた
失うものなどはじめから
無かったかもしれなかった(豊美)

16

「きみの親はだれ?」
「ぼくの母は青空、父は風」
死と儀式がどんなに闇を濃くしても
ひとりの人間の、消えない何があるために
生まれたばかりの雲はいそがしく動いているのか
「ぼくの姉は澄んだ川の水
いとこたちは魚になって遊んでいる」
はげしい雨になる詩人の夢も
二十世紀もまだ終わっていない気がしてくる
王子、十条、赤羽
昼間から飲んで
湿度のなかを歩く
じゃあ、またね(健二)

17

暗殺をたどるメキシコとキューバの旅
いつもセピア色に歪むオズワルドの写真
大きく暗い謀略を
肺の奥深く飲み込む梅雨の晴れ間
蛍の軽さで光るものに火傷を負う
この薄い陶酔を何回くりかえせば
事件の真相とやらに遭遇できるのか
ウパニシャドにいわく
「無知におぼれている者は
あやめもわかぬ闇を行く
明知に自足する者は
いっそう深い闇を行く」
ぼくらにあるのはただ行くこと、帰ってこないこの夏の滴にむかって(英己)

18

銃には銃を
暴力には更なる暴力を
何者かに煽られるように世界の回転は増し
それを止める方法をまだ誰も見出せない
老いた人は言う
「ゆっくりとくつろぎなさい
 死者の眼で物事を見なさい」
亡き母の懐かしい声を聴きながら
シチリアの生家の居間でピランデッロは
くずおれるように眠った
やがてくる八月
私たちの部屋には死者たちの居場所が無い
夜になっても帰ってこない人たちがいるだけだ
明日も 平穏に過ぎますように(豊美)

(2006年3月17日~7月9日)



(今回は福間健二、水島英己、新井豊美の順番)





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Last updated  August 3, 2006 08:20:44 AM
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