(初折表)
発句 泥鰌汁ちゞにくだけて宵の身は 解酲子
脇 クーバの唄を聴き果てし夏 蕃
第三 見放くれば少年故郷遥かにて 解酲子
四 深く息衝く秋の夕暮 蕃
五 誰も彼も携帯かざす窓の月 蕃
六 しばし渡せるかささぎの橋 解
(初折裏)
一 教へ子に神話教はる文化祭 蕃
二 華甲こえれば炭焼となる 解
三 ひりひりと正午の時にうたれつつ 蕃
四 蒜の籬に鳶を見ゆらん 解
五 猫の居る介護の家の朝もよひ 蕃
六 洗ひ物して寝かすをのこ等 解
七 声低くアリアをさらふ深き霧 蕃
八 沖天に月ほのかに白し 解
九 無垢は何芒と話す川の道 蕃
十 よしあしもなきかかる時世に 解
十一 昼酒の店は寂しき花のころ 仝
十二 焼き海苔の次は蕎麦なるべし 蕃
(名残折表)
一 春泥を踏ンで戸敲く友の家 解
二 ほんの一滴分かち合ふ也 蕃
三 さみだれや周公夢に見えざりき 解
四 道なき日にも矢の如くあれ 蕃
五 火の如き帰心のきざす夕映えに 解
六 こがらし残す空指す梢 蕃
七 金屏を神田の聖き闇に見る 解
八 幻なりと誣ふるぞにくき 蕃
九 魂の在り処語らぬ敗荷静か 仝
十 限りとて行く秋の深きを 解
十一 有明の主水が逸き酔ひ醒めに 仝
十二 褻の日続きて琵琶も打たずや 蕃
(名残裏)
一 玄関に獅子舞の来る音のして 解
二 師ソクラテスは春を想起す 蕃
三 貝殻をもて追はれたる地も朧 解
四 とくとく雫花びら流れ 蕃
五 児の笛におどろく朝寝五十年 解
挙句 曾良のかはりにうらら妹得る 蕃
(めも)
蕃さん。
月花の句は定座とそれぞれに詠むべき句数が決まっています。これをつとめることは面目とされ、特に両吟の場合など、どちらかに偏ることは避けるべきことです。当歌仙では、あさり場をはさんで両者句数と長短句が均等になるように努めましたが、そのままでゆくと解酲子が月二句花二句、蕃兄が月一句となり、はなはだ不公平な格好となってしまいます。特に花の句を愚生が独占することは是非とも避けられなければなりません。発句は客の位、脇亭主とはいえ、せめて月花は一句ずつでも大兄に持ってもらいたくて、名ウ五句目にあるべき花を引き上げたというわけです。このように調整のために引き上げたり零したりするのですが、月の句は零すことがあっても、花の句に零す例は古来なく、みんな引き上げているようです。ちなみに蕉風では花の句が短句ということはないみたいです。
西行が出てきたので夏の昼寝(うなゐ児がすさみに鳴らす麦笛のこゑにおどろく夏の昼臥)を、春の朝寝(三春)に転じました。さあ、次はもう、愚生の感覚から言えばあっというまの挙句です。
解兄、
挙句はむずかしいものですね。愚句は兄の奥様への挨拶の意も込めました。
愚問に対する御教示、よくわかりました。ありがとうございます。七部集をざっと見ましたところ、次のような例が二つほどありました。一つは「阿羅野」の「美しき泥鰌うきけり春の水」で始まる4名の歌仙で、松芳の「顔見にもどる花の旅だち」という名残ウ4句目の句です。同じく、「阿羅野」の野水と落梧の両吟で、野水の「初雪やことしのびたる桐の木に」で始まるもので、落梧の「誰より花を先へ見てとる」というものです。
ミシャのピアノ、火曜日には行けませんが、近場のときにはまた誘ってください。
両吟歌仙「泥鰌汁」の巻、本当にあっというまでしたが、しかしおかげさまで楽しい旅になりました。
連詩の方もこれからの道中が楽しみです、時々覗いて、ご批評してくだされば幸甚に存じます。
(湯殿川の空)