詩人たちの島

始まりは
寒さの音
雪のなかの進軍を飼葉桶のバラバラ死体が聞いている
叩かれる頬も叩く手もそこに遺棄された
「一緒にもっとリアルになろうよ」
枯れ果てた血の道を歩く
この政体が無限に続くとでもいうように
忘れ去られていた思い出の滲む抱擁から
王子は生まれた
ドナー番号はＤ５０１０
黄土色の肌と漆黒の髪、猫背の小さな日本人の精子の番号
王子の異母兄弟姉妹は無慮５０１０万は下らないだろう
「お互いをノコギリでひき殺す」遺伝子
親は子を、子は親を、妻は夫を、夫は妻を、朋友は朋友を、知事は息子を
「余人をもって代え難い」から殺し合う
もとより美しいという属性の国に　　　　
王子は生まれた
「品のないことはいやだ」
「堕ち方はいつでも中途半端」
「でも残忍なのは好きだよ」
舟に乗って一億の下流に流れゆく
平和の謙虚な
ネズミ男の王子は
ルネサンスを夢見て
真っ白の飛行服を身に着ける
その敬礼の動機にあるのは
無条件の条件反射
愛せないから
殺すのだ
たしかにわれわれは互いに傷つけ合ってきた
"Surely we have diminished one another."